本論文は、法哲学を専門とし、
(執筆当時)一橋大学助教授である著者が
H・L・A・ハートの『法の概念』を読み解き、
その内容を紹介するとともに、独自の疑問点を記した論文。
1 法命令説への批判
「法命令説=法は主権者の強制的命令という命題」への批判
法は主権者も拘束する
法はより多様である
遺言に関するルールは強制ではない
主権者概念は不要
はるか昔に死んだ主権者の命令になぜ拘束されるのか?
主権者が死んでも無法にはならない
選挙民も憲法的ルールにより主権者となっている
習慣・ルール
習慣:行動の一致~外的側面
ルール:逸脱が批判される~外的側面に加え、行為準則となっている(=内的側面も持っている)
2 内的視点と外的視
法を受容する人々の視点~内的視点 ⇔ 外的視点 ~ 法を受容する人々を外から眺めた視点
法を受容する人々の言明~内的言明 ⇔ 外的言明 ~ 法を受容する人々を外から眺める言明
受容と是認
受容は道徳的是認を意味しない
*ルールの受容は、逸脱への批判を含むのではないか?
視点の多様性
外的視点~受容している人々の内面を見るか見ないか
内的視点~是認した上での受容、黙認
リーガル・リアリズム(法とは判決と、その予測に過ぎない)への批判
裁判官以外の私人も、自ら法的ルールを用い判断している
法的ルールの特徴
法には確定したルールと、不確定な部分がある
3 第1次ルールと第2次ルール
第1ルール:「物を盗んではいけない」などのルールに自発的に従う社会
第2ルール:第1ルールしかない状態の欠陥を補うルール
欠陥~ 1 何がルールなのか明確でない
→ 法源の明確化・体系化:承認のルール
2 状況の変化に対応できない
→ ルールを変更するためのルール:変更のルール
3 ルールの侵害の有無を確認・裁定する機関
→ 司法的権能の創設:裁定のルール
「承認のルール」の特殊性
憲法→法律→命令 ~ それぞれのルールは上位規範の存在によりルールとして存在する
憲法はなぜルールとしてあるのか?
帝国憲法73条では、主権者の変更は改正権の範囲外である・・と考えれば、
事実状態としての受容こそが、日本国憲法をルールとして承認している。
法体系が存在する条件
① 公的機関が2次的ルールを内的視点から受容
② 動機はなんであれ、一般人が1次ルールに服従していること
*近年の論者は、法の受容について、内的視点を重視しすぎている。
・ 法に従うかについては、利益衡量の余地がある
・ 私人は法の全てを受容するわけではない~行政法規など
4 法と道徳
相違点 ① 道徳はメンバーから重要と思われているが、法はそうとはいえない。
② 法は意図的な変更を受ける
③ 道徳的責任は故意に限られるが、法的責任は故意に限られない
④ 道徳維持のための圧力は良心に訴えることだが、法的圧力は制裁
法実証主義:① 法命令説
② あるべき法と現実の法に必然的関連性はない
③ 法概念の研究と、それについての社会的研究、評価と区別すべき
④ 正しい判決は論理的に唯一つ導き出される
⑤ 価値相対主義
自然法の最小限の内容:あらゆる社会の法や慣習に含まれる、社会存続のためのルールの容認
法実証説②への批判=法と道徳は一致するはず
① 法体系の存在は、道徳的確信を必要条件とする
② 法は実体道徳の影響を受ける
③ 道徳は法の解釈に入り込む
④ 法は道徳の要請に従わなくてはいけない
⑤ どんな法も手続的正義の要請にかなう
⑥ 道徳的でない法は、法ではないと考えたほうが有益
⑥道徳的に邪悪な法は、法ではない・・・のか?
法の有効性と道徳性を区別したほうが、問題の複雑さを認識できる。
*「これは法だ。しかしあまりに邪悪なので従えない」
→ 法への服従を絶対視しないハートの見解と両立しない?
(執筆当時)一橋大学助教授である著者が
H・L・A・ハートの『法の概念』を読み解き、
その内容を紹介するとともに、独自の疑問点を記した論文。
1 法命令説への批判
「法命令説=法は主権者の強制的命令という命題」への批判
法は主権者も拘束する
法はより多様である
遺言に関するルールは強制ではない
主権者概念は不要
はるか昔に死んだ主権者の命令になぜ拘束されるのか?
主権者が死んでも無法にはならない
選挙民も憲法的ルールにより主権者となっている
習慣・ルール
習慣:行動の一致~外的側面
ルール:逸脱が批判される~外的側面に加え、行為準則となっている(=内的側面も持っている)
2 内的視点と外的視
法を受容する人々の視点~内的視点 ⇔ 外的視点 ~ 法を受容する人々を外から眺めた視点
法を受容する人々の言明~内的言明 ⇔ 外的言明 ~ 法を受容する人々を外から眺める言明
受容と是認
受容は道徳的是認を意味しない
*ルールの受容は、逸脱への批判を含むのではないか?
視点の多様性
外的視点~受容している人々の内面を見るか見ないか
内的視点~是認した上での受容、黙認
リーガル・リアリズム(法とは判決と、その予測に過ぎない)への批判
裁判官以外の私人も、自ら法的ルールを用い判断している
法的ルールの特徴
法には確定したルールと、不確定な部分がある
3 第1次ルールと第2次ルール
第1ルール:「物を盗んではいけない」などのルールに自発的に従う社会
第2ルール:第1ルールしかない状態の欠陥を補うルール
欠陥~ 1 何がルールなのか明確でない
→ 法源の明確化・体系化:承認のルール
2 状況の変化に対応できない
→ ルールを変更するためのルール:変更のルール
3 ルールの侵害の有無を確認・裁定する機関
→ 司法的権能の創設:裁定のルール
「承認のルール」の特殊性
憲法→法律→命令 ~ それぞれのルールは上位規範の存在によりルールとして存在する
憲法はなぜルールとしてあるのか?
帝国憲法73条では、主権者の変更は改正権の範囲外である・・と考えれば、
事実状態としての受容こそが、日本国憲法をルールとして承認している。
法体系が存在する条件
① 公的機関が2次的ルールを内的視点から受容
② 動機はなんであれ、一般人が1次ルールに服従していること
*近年の論者は、法の受容について、内的視点を重視しすぎている。
・ 法に従うかについては、利益衡量の余地がある
・ 私人は法の全てを受容するわけではない~行政法規など
4 法と道徳
相違点 ① 道徳はメンバーから重要と思われているが、法はそうとはいえない。
② 法は意図的な変更を受ける
③ 道徳的責任は故意に限られるが、法的責任は故意に限られない
④ 道徳維持のための圧力は良心に訴えることだが、法的圧力は制裁
法実証主義:① 法命令説
② あるべき法と現実の法に必然的関連性はない
③ 法概念の研究と、それについての社会的研究、評価と区別すべき
④ 正しい判決は論理的に唯一つ導き出される
⑤ 価値相対主義
自然法の最小限の内容:あらゆる社会の法や慣習に含まれる、社会存続のためのルールの容認
法実証説②への批判=法と道徳は一致するはず
① 法体系の存在は、道徳的確信を必要条件とする
② 法は実体道徳の影響を受ける
③ 道徳は法の解釈に入り込む
④ 法は道徳の要請に従わなくてはいけない
⑤ どんな法も手続的正義の要請にかなう
⑥ 道徳的でない法は、法ではないと考えたほうが有益
⑥道徳的に邪悪な法は、法ではない・・・のか?
法の有効性と道徳性を区別したほうが、問題の複雑さを認識できる。
*「これは法だ。しかしあまりに邪悪なので従えない」
→ 法への服従を絶対視しないハートの見解と両立しない?