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小川仁志さん『はじめての政治哲学』

2011-01-19 15:09:39 | 読書
本書は、西洋政治哲学を専門とし、

現在は徳山高専准教授である著者が、政治哲学を概説する著作です。


著者は、まず政治哲学が政治理論・政治思想とは峻別されると主張します。

そのうえで、正しく生きるためには政治哲学が不可欠という観点から

正義、共通善、フェミニズム、グローバリゼーションなど

政治哲学上の重要な論点について、

近代から現代に至るまでの代表的な議論を紹介します。


アスランが主張するイスラム内部での変化


日本人がマイノリティになったら―という問い掛け


そして、ある議論が他の議論へ次々と繋がる論旨など


どの記述もとても興味深かったのですが、

とりわけ印象的だったのは、

ヘーゲルやコーエン&アラート、パットナムらを参照し論じる市民社会論です。


難解に思える政治哲学について、そのエッセンスを簡潔に解説し

より深く考えるための手掛かりを与えてくれる本書


政治哲学や政治思想史などに関心がある方に限らず

多くの方にオススメしたい著作です。

阿辻哲次さん『戦後日本漢字史』

2011-01-18 20:53:09 | 読書
本書は、漢字学を専門とし、現在は京都大学教授である著者が、

戦後の漢字を巡る動向を概説する著作です。


著者はまず、戦前の漢字規格や占領政策としての漢字廃止論を紹介した上で、

その後の国語審議会での当用漢字や常用漢字を巡る議論、

さらに、コンピューター時代における漢字や常用漢字について論じ、

最後に漢字文化の今後について検討します。



『康熙辞典』に基づく正字・誤字・俗字の基準

での表意派と表音派の議論

そして、JIS規格による強引な包摂など、

身近な漢字にかかわる問題だけあり、どの記述も興味深かったのですが

とりわけ印象的だったのは

終戦まもなく作られた当用漢字字体表の作成を巡る『密室』での作業です。


しばしば耳にする『常用漢字』について、

その意義や変遷を平易に解説するとともに、

国家と言語の関係について、根本的に再考させられる本書


国語や文字に強い関心をお持ちの方に限らず、

多くの方にオススメしたい著作です。

木内昇さん『漂砂のうたう』

2011-01-18 11:18:19 | 読書
本書は、『茗荷谷の猫』などで知られる著者による長編時代小説


芸娼妓解放令が出された後の根津遊郭を舞台に、

かつては武士だった立番と、

楼主、遣手、妓夫太郎、花魁ら

彼を取り巻く人々を趣のある文章で描きます。


主人公に近付く怪しげな噺家

没落の憂さを一夜の享楽で晴らす士族たち

そして、厳格だった父や兄への追想

どの場面も哀惜に溢れ印象的でしたが、

とりわけ印象的だったのは、

圧巻ともいうべき気高い花魁道中です。


鉄道が走り、士族が各地で叛乱をおこす―

一見、激しく移り変わるかに見える世で、

変わることも、変わりようもなく生きる人々を情感豊かに描いた本作



著者の作品や時代小説が好きな方に限らず、

多くの方にオススメしたい著作です。

朝吹真理子さん『きことわ』

2011-01-17 19:33:53 | 読書
本書は、『流跡』でドゥ・マゴ賞を

そして本書で芥川賞を受賞した著者による中編小説。


25年ぶりに再会する二人の女性を主人公に

彼女たちの現在と過去、現実と夢やまぼろしが入り交じる様子を、

映像的で透明感のある文章で描きます。


クラスメートが死んでしまう夢

若くして世を去った母と、

生まれて来るはずだった子を産まなかった母

そして、「人は皿洗いの果てにしんでゆくものなのだ」という一文など、


どの場面も印象的でしたが、とりわけ心に残ったのは

引っ越しのために荷造りがされた家で、亡くなった母を目にする場面です


瑞々しさとはかなさを併せ持ち、

読後は渋谷のドゥ・マゴにいきたくなる本作。


著者の作品や純文学が好きな方に限らず、

多くの方にオススメしたい著作です。

田中慎也さん『第三紀層の魚』

2011-01-16 22:41:06 | 読書
本書は、『蛹』で川端康成賞を受賞した著者による中編小説。


関門海峡に面した小さな町を舞台に、

そこで祖母らと暮らす少年の成長を穏やかな筆遣いで描きます。


近付く曾祖父の死

なかなか釣ることができないチヌ

そして、国旗や無くしてしまった勲章への曾祖父の想いなど

どの場面も印象的でしたが、

とりわけ心に残ったのは

曾祖父と同じ病室の患者がいなくなった時に、

主人公がその死を感じた場面です。


短期間に様々なできごとを経験しながらも、

しっかりと自分の道を進む少年の姿をやさしく、

そして誠実に記した本書。


著者の作品や純文学が好きな方に限らず、

多くの方にオススメしたい著作です

西村賢太さん『苦役列車』

2011-01-16 17:54:54 | 読書
本書は、『暗渠の宿』でを受賞した野間文芸新人賞著者による、中編小説です。


生来のひねくれ根性が、

父親が性犯罪で捕まったことで一層強まった青年を主人公とし、

絶えない周囲とのトラブルや、

それによりさらに屈折を重ねる内面を、味わい深い文体で描きます。


定職も、友人も、恋人もない自身への限りない卑下と

その裏返しともいえる、他者を見下した態度

見下していた友人に恋人がいると知ったことへの反応など

どの場面も、主人公の救いようのない性格が赤裸々に描かれ

とても印象的なのですが、とりわけ心に残ったのは、

そのような主人公がときおり見せる、本への愛着です。


陰気な小人物の鬱々とした日々を描きつつ、

決して重苦しさを感じさせることのない本書。



著者の作品や純文学が好きな方に限らず、

多くの方にオススメしたい著作です。

小谷野敦さん『母子寮前』

2011-01-15 23:26:48 | 読書
本書は、英文学を専門とし、

評論家としても活躍する著者による、中編小説です。


母の肺に影が見つかったことを、突如告げられた主人公と家族

その日から、母の死に至るまでの心情と周囲での出来ごとを、

著者を思わせる主人公の視点から淡々と描きます。


病院の対応への不信や苛立ち

元気だった頃の母との思い出と

その病状を知ることへの恐怖

そして、癌になった母に暴言を浴びせる父と、彼に対する主人公の想い―


どの場面も痛切で印象深いのですが、とりわけ心に残ったのは


病気になってからの母の写真を、主人公が撮りたくなかったと述べる場面です。


深い信頼で結ばれた母の死に直面した子の心情を赤裸々に記し、

身近な人との別離に思いを巡らせてくれる本書。



純文学や著者の作品が好きな方に限らず

多くの方にオススメしたい著作です。

正岡子規『俳諧大要』

2011-01-04 18:00:18 | 読書
本書は、『ホトトギス』で知られ、

明治の歌人である著者による俳句論集です。


文学としての俳諧を概説する『俳諧大要』

画家として知られていた蕪村について、その歌人の側面を再発見した『俳人蕪村』

著名な芭蕉の句が持つ画期的な意義を検討する『古池の句の弁』など、

新聞『日本』や『ホトトギス』に掲載された俳論5作を収録します。


擬人法や教訓めいた句への激しい批判や

貞門、談林、蕉門の俳人や句への鋭い批評

そして、俳諧連歌への言及など

興味深い記述ばかりですが、なかでも印象的なのは、


飛び入りの力者怪しき角力かな


という蕪村の句への詳細で想像力豊かな解説です。



俳諧の全容を平易に伝えるとともに、

著者の俳諧観や美意識をコンパクトに紹介する本書


文学史や著者に興味がある人に限らず

これから俳句をはじめたい方など、多くの方にオススメしたい著作です

暗き空より風がふく

2011-01-01 09:58:26 | 読書
あけましておめでとうございます


新年いかがお過ごしですか?

私は相変わらず鼻血がよく出るので、口元に塗ってドラキュラとか遊んでいます

今年がより素晴らしい1年でありますように