◇juri+cari◇

ネットで調べて、近所の本屋さんで買おう!!

ジェイソン・グッドウィン『イスタンブールの群狼』

2008-05-12 01:17:51 | 読書
一応のあらすじは、

オスマン・トルコの宮廷に使えるヤシムが

王によって粛正された精鋭部隊《イェニチェリ》の残党が引き起こしたと見られる事件に挑む

というもの。


しかし、こう言った方がいいのでは



イスタンブールを舞台にした『観光地殺人事件』+『島耕作』





つまり仕事ができて、交遊関係も幅広く、料理が上手で、女性にモテる主人公が

古都イスタンブールで起きた不可解な事件に挑む

しかも、途中×2で、イスタンブールの歴史や文化、名物料理や観光名所に関する知識までも得られてしまう

という作品。


唯一の違いは、主人公ヤシムが宦官

…去勢されていること。



とはいえお色気シーンもちゃんとあるのでご心配なく、なんたって『島耕作』だから。


お色気、サスペンスに加えて、アクション、恋愛、陰謀、笑い、涙………

なんでもありのごった煮ストーリー。

章も細かく立てられていて、視座もころころ変わり

内面にも踏み込みすぎず


料理のシーン(だけ)は妙に描写が詳しい


しかし、それを破綻させることなく、見事にまとめあげたのは筆者の力量と「人種・文化のるつぼ」イスタンブールの懐の深さゆえと言うべきか



私は、ミステリーとして読むのは早々放棄しまして

緑色の脱毛軟膏、陶器製のおまるなど小道具や料理を中心に読みましたが

著者ジェイソン・グッドウィンさんが歴史学者であるため、とても興味深く十分楽しめました



トルコに旅行に行かれる方であれば

塩野七生さん『コンスタンティノープルの陥落』と共に持って行かれるのがよろしいかと



追記

塩野七生さんの『コンスタンティノープル~』も本作も、視座を頻繁に代える群像劇、まるでモザイク画のような作品でした。

これは、単なる偶然ではなく、
イスタンブールのように多くの文化・価値観が混じり合うことなく、それでいて都市としての一体性を持つ都市を描くには、
複数の視座がある「群像劇」が効果的な手法だからかな~~?と思いました

ザ50回転ズ『天王寺エレジー』(『50回転ズのギャ―』収録)

2008-05-11 20:01:24 | 音楽
四月からは『ゲゲゲの鬼太郎』のオープニングを歌っている〈ザ50回転ズ〉

かの水木しげる先生をして「気持ちが悪くていい」と言わしめております


私もファースト・アルバムを数年前に聞いて以来、思い出したように気になっていたので

喜ばしいかぎり(まぁ……実際にはそこまでファンでもないんだけどね)


この『天王寺エレジー』はファースト・アルバム『50回転ズのギャ―』に収録された楽曲


レトロな昭和フォークなメロディ・歌詞と演歌の雰囲気、それと少しばかりの《危うさ》がスパイスとなった、
か~な~~りくせになる曲。


単に「上手い」というのとは少し違った

「余人を以て代えがたい」感じを漂わせています


また、ボーカルのダニーさんの歌いだしもカッコいい



ひさびさに聴いて、完全にハマっています◇◆



※ボーカルのダニーさんはオカッパに眼鏡、ドラマ版『ライアーゲーム』のフクナガに似ています。

少しネズミ男っぽくもあります

でも、ブログを見るとかなり知的な方です

松本清張『光悦』(『小説日本芸譚』収録)

2008-05-10 01:54:43 | 読書
松本清張の『小説日本芸譚』

芥川賞受賞直後、自身も巨匠にならんとする著者が
止利仏師から写楽に至る日本の美術史上の巨匠を、鋭い洞察と史料の読み込みをもとに再構成した短編集。


『光悦』は江戸初期の大芸術家・本阿弥光悦を描く作品


光悦の工房で働く職人の「私」が、光悦について語る構成になっています。


まるで内部告発のように


私はあの仁については書道以外には認めて居りません。早い話が、絵にしても、その師匠といわれる海北友松には及びませんし、茶道や茶碗にしても師匠の古田織部には叶いません。師匠を抜いているのは、ただ「書」だけでございます。


と言い切る箇所は切れ味が小気味良いいし


また、俵屋宗達と光悦の関係を描く下りは、光悦のあんまりな態度に腹が立ちました。


しかしそれ以上に、解説でも述べられるように、『鶴下絵和歌巻』や『鹿下絵新古今和歌集断簡』を見て、光悦の性格や宗達との関係についてこうした想像を巡せた著者の洞察力・想像力の鋭さに驚きます。




『光悦』がこの短編集の中で目を引くのは、唯一、一人称で語られる話であること。
しかも、内容は光悦に対してかなり手厳しい。

つい、「これは、著者が「私」を通じて光悦を告発する(くらいの)意図なのかな」とも思ってしまいましたが……



やっぱりスゴい、松本清張!!




最後にたった一行付け加えるだけで


「私」による語りに「揺らぎ」が生じ、

逆に、それまで曖昧だった「私」の人物像がくっきりと浮かび上がる。



これって、やはり清張一流の「仕掛け」だったように思うんだけど

実際はどうなんでしょ……?



*故人につき敬称略

飛鳥部勝則さん『堕天使拷問刑』

2008-05-08 00:25:31 | 読書
先日来、不穏をまとう本が続きますが、飛鳥部勝則さんの『堕天使拷問刑』


突然の事故で両親をなくし、地方に住む母方の実家に引き取られた主人公・如月タクミ


しかし、転校初日、自己紹介の挨拶をした彼にめがけてナイフが飛んでくる


次第に明らかになる母のよからぬ噂、リンチまがいの悪魔祓い「ツキモノハギ」、魔術崇拝者だった祖父の異様な死

警察や法律は名ばかり、因習と迷信が支配する田舎町での怪奇に満ちた日々。




学園もの、オカルト、恋愛、猟奇、ジュブナイル、

とサービス満載。(←これを「ディクスン・カー+ボーイ・ミーツ・ガール」と評する帯はすごく的確!!)

見せ場もあちこちにありますが、個人的には第3部7章「出現」~8章「崩壊」

ヴェルディのレクイエムを聴きながら読むのがピッタリな

正真正銘のカタストロフィ。


場面としても大好きなのですが、これだけのカタストロフィを最後に持ってこなかった構成はスゴい。

ミステリーがカタストロフィだけで終われる時代はもはや過去なのかもしれません


本作の特徴の一つと言えるのが、

イザナギ・イザナミとヒルコ、天使ミカエルとサタン、アモン、魔方陣など

中学生とは思えぬほどディープなオカルト話。

ここまで詳しいかなぁ~~と、苦笑いしてしまいますが

オカルトを真剣に語るのが許されるのは中学生の特権なので(←これ以降はただの危ない人)、少し羨ましく、そして懐かしくなりました



また、タイトルからも想像が付くように、本作には暴力的で残酷・猟奇なシーンや

かなりヘンタイ度の濃い場面(SM、獣姦、○○)があります。

が、おそらく文章や作品の「湿度」が低いため、不快になることなく読むことができました

これはすごく嬉しい


もちろん、「ジュブナイル」「恋愛小説」の側面もおざなりではなく

甘酸っぱい箇所は、恋愛小説不感症の私(←ただし「セカチュー」で号泣)も、思いがけず胸が痛くなりました



……つまりは大好きなんです、この本

あちこちから漂うB級やパロディの雰囲気


善と悪、法と違法の境目すらあいまいな登場人物の造形も


ミステリーとホラーの融合の仕方も


なにからなにまで、大好きです
最後に、

作品で重要な役割を果たす「絶対零度」の美少女・江留美麗


表紙の絵も、この少女だと思いますが


月をバッグに立つ、絶対零度の少女って

綾波レイが原型としか思えないんだけど………

クライマックス(440ページ)での衣装なんて、かの有名な衣装………のはずですが


実際はどうなんだろう



と気になって、表紙の絵を手がけている『PARADISE"D"』のホームページをみますと

アダルトな同人誌を書いてる方で、少々ビックリしました

いしいひさいちさん『スチャラカお宝大明神』

2008-05-07 06:21:53 | 読書
いしいひさいちさんの最新刊は、単行本未収録作品ばかりあつめた・ひさいち文庫『スチャラカお宝大明神』


「単行本未収録」については、「期間限定」とか「完全版」に通じるアレな雰囲気を感じるのですが

なにはともあれ~


収録されているのは、わりと初期の作品(128や101など)から、近年の作品(124など)まで

登場人物で言えば、現役の江川卓さんや元祖買収騒動のピケンズから帝京大学の安部副学長まで


こうして見ると、ここで取り上げられながら
今なお「現役」なのが、小沢一郎さんと金正日総書記だけ(海部俊樹さんは……現役と言えるのでしょうか?)という点に

時代の流れの速さと、著者が一線で描き続ける期間の長さを実感します



また、未収録というだけあり、表現が少しキツかったのが印象的


ミイラ化した村山首相の首が落ちるシーンなんて……ねぇ

笑っちゃったけど、スゴ過ぎます



もっぱら一番のお気に入りは、解説のとり・みきさんも触れている

放火専門の捜査官


見るからにヤバそうな風貌、目付きがステキ
(ちなみに、とり・みきさんは「一日が台無しになるような破壊的な顔」と評していますが、この表現もスゴい)


件の「悪魔クン騒動」をとりあげた作品も、1コマ目から笑えました

*907は、いい加減な遺族だからお墓も立てずに、遺体を埋めたということなのでしょうか?

辻惟雄さん『岩佐又兵衛』

2008-05-06 01:00:59 | 読書
代表作『奇想の系譜』により、伊藤若冲や曾我蕭白らを「再発見」し

昨今の日本画ブームの礎を築いた著者の最新作。


織田信長の重臣・荒木村重を父に持ち

幼少時に母を含む一族を、信長によって皆殺しにされるという波乱に満ちた経歴の画家・岩佐又兵衛


その画風はコミカルで、時に血なまぐさく、また貴人を描いてもつねに卑俗さを内包する。


本書では、岩佐又兵衛の生涯・又兵衛の美術界における位置付けを概観した上で

代表作である『山中常磐物語絵巻』や『堀江物語絵巻』について詳細な解説を加えます。


そして圧巻は、「舟木家蔵・洛中洛外図」について、自身の説を改め、これを又兵衛筆と結論付ける箇所


言うまでもなく、辻惟雄さんは日本美術史の巨匠


その方が旧説の間違いを認め、それを改められるというのは

大変、タイヘンなこと

しかし、フワリとそれをやってのけるフットワークの軽さに

著者の美術史が、これだけ多くの支持を集める理由の一端を見た気がしました。


新書として刊行されることもあり、文章が平易だし、挿図もすべてカラーなので、とっても見やすい

ホントに、色々とスゴい本です


なお、表紙は盗賊に胸を刺され息絶える裸身の常磐御前(『山中常磐物語絵巻』)


この表紙は、もうちっと……ねぇ

目は引くけど、買いやすくはないんじゃない?