◇juri+cari◇

ネットで調べて、近所の本屋さんで買おう!!

朱雀門出さん『今昔奇怪録』

2009-10-31 00:46:33 | 読書
本書は、大学講師であり

怪談専門誌『幽』を中心に活躍する著者による初の短編集。


町会館の片隅で、ふと目にした『今昔奇怪録』

どうやら、町で起きた不思議な事件を記録した本らしいが

軽い気持ちで読み始めた若夫婦の周りでは、

次第に不思議な出来事が起こりはじめる(表題作『今昔奇怪録』)


圧倒的な取組み成績で人気を博したが

熱狂的なファンによって殺された伝説の力士

彼の死をモチーフにしたアトラクションを舞台にした『釈迦狂い』


愛娘を次々に疱瘡で失った豪商。

彼の悲しみに追い討ちをかけるかのように、娘の墓が荒される。

遺体の頭だけが持ち去られ、巨大な墓石すら動かす凶行を

人々は、死者の屍肉をむさぼる疱瘡婆の仕業と噂するのだが・・(『疱瘡婆』)


実話系、時代物、サイエンス系・・・と

まったくタイプは異なるものの、

巧みな構成と繊細な人間観察に裏打ちされた珠玉の5編を収めます。


どの作品も、類書にはない魅力を放ちますが、

個人的にとりわけ印象深いのは

被験者、観察者、干渉者、体験者という

何らかの実験を行っている4人の独白で描かれる『狂覚(ポンドゥス・アニマエ)』

次第に明らかになる実験の目的もさることながら、

じわじわと迫りくる恐怖の正体にとても驚き

読後しばらくの間、冷や汗が引きませんでした。


怪談の定石を踏まえつつも

独創的な設定・展開を惜しげなく披露する本短編集


怖さはあるものの、過剰な暴力や残虐さとは無縁ですので

怪談・ホラーファンに限らず

一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です。

廣瀬健二さん、多田辰也さん編『田宮裕博士追悼論集』

2009-10-31 00:43:16 | 読書
本書は、東京高裁判事(当時)である廣瀬健二さんと

大東文化大教授(当時)である多田辰也さんが編纂した

刑事訴訟法学者・田宮裕博士の追悼論集。


田宮さんの学問上の業績と、幅広い交友関係を示すかのように

執筆者は山口厚さん、後藤昭さん、酒巻匡さんのような研究者に加え

香城利麿さん、木谷明さん、小林充さんといった裁判官や

佐藤博史さん、笠井治さんら弁護士

さらに検事や警察庁次長など、多彩かつ第一線で活躍される方ばかりです。


そうした執筆者による論文も

刑事訴訟法、刑法、少年法、刑事政策・・と

論題はきわめて多岐に及んでおり

山口厚さん「欺網に基づく「被害者」の同意」

田口守一さん「実体的真実主義の相対性」

大澤裕さん「いわゆる単独犯と共同正犯の択一的認定について」

など、いずれも興味深い論文が並びます。


しかし、そうした研究論文以上に印象深かったのは、

松尾浩也先生による「はしがき」です。

デュー・プロセス論と精密司法

異なる立場に立ちつつも、戦後の刑事訴訟法学の先頭に立ち

ともに牽引してきた田宮博士と松尾先生。

その松尾先生による


「青春の夢」はそれぞれの形をとったが、

「老境の悟り」はたぶんに重なり合っていたと思う。

双曲面は、Xが原点に向かうとき、Yもまた原点に近づく。

我々の生も、ほどなく原点に収斂するのである。


という文章に、私は深い感銘を受けました。


刑事法学における最先端の議論とともに

偉大な刑事法学者の人柄を垣間見ることができる本書。


大学図書館に行かない限りお目にかかる機会のない本で

裁判員、附帯私訴、犯罪被害者など

いくつかの論文は、内容が古くなっていますが

法律学を学ぶ方などには、強くおススメしたいたい著作です。

菊地達也さん『イスラーム教 「異端」と「正統」の思想史』

2009-10-19 23:31:30 | 読書
本書はイスラーム思想史を専門とし

現在は神田外国語大学准教授である著者が

初期イスラーム思想史について概説する著作です。


著者は、正統カリフ期からシーア派が誕生するまでの経緯を簡潔に紹介した上で

いわゆる「正統」「異端」という枠組みが

イスラームに関しては有効ではないことを指摘。

そしてそれを前提に、スンナ、シーア、イスマイール、ドゥルーズなど

今日まで存続するイスラームの「教派」がどのように誕生したのかを

教義に関する議論・論争や、政治史上の動向を踏まえ論じます。


カルバラーの虐殺が持つ思想史的な意義

アッバース期におけるウラマー(法学者)の登用による正当性の基礎付け

世俗の権力との齟齬をきたさないようなイマーム派の解釈

などは、とても興味深く、

今度、中世西洋の教会法や教会と国家をめぐる論争と比べてみたいなぁと思いました

また、とりわけ興味深かったのは

「神の子」イエスがイスラームの教義解釈でも

「神の子」であり、「救世主」であったという記述。

イスラームでは、イエスも預言者

・・くらいの認識だったので、とても驚くとともに

現代の解釈ではどうなっているのかなど

興味が次々とわいてきます。


イメージしにくいイスラーム各派の誕生や

初期イスラーム世界における聖権と俗権について

コンパクトに紹介する本書。


イスラームや教会法などに興味がある方はもちろん

思想史に関心がある方には強くおススメしたい著作です。

まはら三桃さん『カラフルな闇』

2009-10-17 23:59:49 | 読書
本書は、鹿児島児童文学者の会を中心に活動する著者による

中高生を対象としたミステリー風味の作品です。


主人公は、両親が離婚し

現在は、感情の起伏が激しい母親と暮らしている女子中学生。

彼女の唯一の楽しみは、市内を騒がせる「闇魔女」の噂を集めること。

そんな彼女は、ある日、親友が思いを寄せる先輩が、

思い出したくもない「あの人」だと知ってしまう。


「見ると幸せになる」とも、「不幸になる」とも言われる闇魔女

果たして、闇魔女は本当にいるのか?、そしてその正体は?


家族、クラス、友人―

さまざまな人間関係の中で揺れ動き、

時には迷いながらも成長する少女の姿を描きます


主人公と先輩の関係

かなりエキセントリックな母と別れた父の関係

それぞれの恋模様も気になりましたが

それ以上に印象深かったのは、闇魔女の正体と出没した理由。

正直なところ、まったく予想していなかった展開に驚愕するとともに、

その繊細な心理描写に強く心を打たれました。


「同じ色はないけど、どこかしらつながっている。

だから、、ちょっとずつは、わかりあえる」

それぞれの差異を認めつつも、わかりあうことへの希望を捨てない

著者のメッセージがストレートに伝わる本書。


中高生の方はもちろん、大人の読者も児童書と敬遠することなく、

ぜひ、読んでいただきたい著作です。


<補足説明>

この本は、ばななんさんからご紹介いただきました。

最初は普段読んでいる本と勝手が違うなぁと感じましたが、

気がつけば夢中になって読んでいました。

ばななんさん、どうもありがとうございます☆☆

中高生向けの本は、私のまったく守備範囲外なので、

いろいろ紹介していただくととてもうれしいです☆☆

おススメの本をご存知の方は、ぜひ教えてください☆☆

中学生のころに読んだ本

2009-10-12 23:11:22 | 読書
私の中学校はアグレッシブな方が多く

目立てば殴られ(←男女問わず)

目立たなければいじめられ、

壁は燃え、机は壊され・・という環境でした。


そんな中、私自身はわりと(完全に?)武闘派だったので

突然蹴りつけられたり(&当然けり返したり)

特定の女子グループと対立したり・・はあったけど

殴られたり、いじめたりせず明るく平穏に過ごしていました。


そんなころに読んでいたのはこんな本です


鈴木光司さん『リング』

:ちょうど映画が公開されたころだったので、何度も読みました。

映画にはない設定や場面が怖くもおもしろく、

また、(一見すると)最低の人間である高山竜司に強く惹かれました。


いしいひさいちさん『バチアタリ家の犬』

:シャーロック・ホームズやポワロなど、

古今東西の推理小説を笑い倒す4コママンガ

かなりズレたものの見方や笑いのセンスなど

私の価値観を決定付けた本です。

表題作『バチアタリ家の犬』で繰り返し爆笑し、

『消えた消防署』でユーモアとは何かを学びました。


アガサ・クリスティ『クイン氏の事件簿』

著者お得意のミステリーですが人が死んだり、物が盗まれたり・・といった

「大きな事件」は一切起こりません。

普通の人々の日常に潜む小さな謎や、人間関係の持つれを

不思議な老人ハーリー・クインが解決します。

とても大人っぽい味わいのミステリーで、

ある意味、私の恋愛観を決定づけました。


隆慶一郎さん『影武者徳川家康』

関が原の戦いの直前、徳川家康が暗殺されていた

という衝撃的な設定の歴史ミステリー。

自分自身の身を守るため、家康が殺された事実を隠しつつ

合戦に勝利しようとする影武者や

家康暗殺に成功した忍者などの濃密な心理描写に夢中になりました。

この本は小学校のころに読んでいたのですが

今になって読み返すと、けっこうHでビックリしました。


高橋克彦さん『炎立つ』

奥州藤原氏の盛衰を描いた大作。

渡辺謙さん、佐藤浩一さん、豊川悦司さん

鈴木京香さん、稲垣吾郎さん

など豪華キャストが出演し、大河ドラマになりました。

個人的には、滅びや死の影が色濃くただよう後半(後三年の役~源平)に強く惹かれます。

これも小学校のころに読んだ本です。


塩野七生さん『コンスタンチノープルの陥落』

長く繁栄したビザンチン帝国が崩壊する様子を、

さまざまな登場人物の視点から描いた作品。

壮麗なビザンチン帝国に、圧倒的な武力で迫る

若く尊大なオスマントルコ皇帝が

美しい死神のようで、とても格好良く感じました。


景山民夫さん『クジラの来る海』

:初めて新聞の書評を見て買った文庫本がこれです。

今になって思えば、「いろいろ」と付き合い方の難しい本なのですが

スパゲティを口につめて窒息自殺しようとしたけど

実はマカロニだったので息が吸えていた・・・

などのナンセンスなユーモアはいまでも大好きです。


コナン・ドイル『失われた世界』

:シャーロック・ホームズの作者であるコナン・ドイルの冒険小説

恐竜がいるというアマゾンの奥地に探検に行く冒険小説。

偉そうなチャレンジャー教授、イヤミなサマリー教授など

個性的な登場人物が魅力的で、何度も読みました。

ヴィクトリア朝な価値観が前面に出されており、今になって思えば付き合い方が難しい本です。


ここにあげた本は、どれも印象深く、

どこの本屋さんで購入したか

その本を読んだときにどんなことを考えたのか

とても細かいことまで鮮明に覚えています。


ただ、その反面、どの本もクセが強く

中学生におススメすることには、強い抵抗を感じます


そこで、私が中学生におススメするのはこのような本です。


<小説>

恩田陸さん『光の帝国』

宮部みゆきさん『はつものがたり』

<エッセイ>

池上永一さん『やどかりとペットボトル』

<マンガ>

椎名軽穂さん『君に届け』

岩本ナオさん『町でうわさの天狗の子』



ここで夏目、太宰、三島やヘッセ、手塚

・・・などをあげるとカッコいいんですが

私は一度も読んだことがありませんので、

そちらはご自分で探し、積極的に読んでいただければと思います。

近況報告~10月10日

2009-10-10 01:17:58 | 読書
すっかりご無沙汰しております

本の紹介をするといいつつも

根っからの本読みではないので、

本を読むのは1年に6ヶ月くらいで

残りは決まったマンガを繰り返し読む

・・という具合です


ここ数週間は、いくつか本を読み

論文・レポートや報告書に目を通したほかは


いしいひさいちさんの『ののちゃん』

魚喃キリコさんの『ハルチン』


を毎日繰り返し読んでいます。

実際のところ、私の思考の8割はこの2作からできています。



音楽に至るともっとやる気がなく

アストラル・ピアソラやアイク・ケベックの他

ハンス・ジマー『Pirates of the Caribbean: At World's End』

久石譲さん『太王四神記』

植松伸夫さん『グイン・サーガ』

坂本龍一さん『千のナイフ』

を繰り返し聞いたほか、

ひさびさに浜田真理子さんを聞いた・・という具合です。


すっかり本の読み方を忘れてしまいました。

どなたか、おもしろい本ご存知の方はぜひご一報ください☆

太田忠司さん『まいなす!』

2009-10-03 23:13:49 | 読書
本書は、『新宿少年探偵団』・『霞田兄妹』シリーズなど

多くのミステリー作品がある著者による

ティーン向けのミステリー小説。


主人公は、逆から読むと「マイナス」となる名前に

強いコンプレックスを持つ女子中学生。

ある日、彼女が「未来を見てきた」という先輩と出会ったことから

日本中を揺るがす事件に巻き込まれていきます。


コンプレックスを隠そうと、人一倍ポジティブな主人公をはじめ

理不尽な同級生とその兄

頭脳明晰ながらもどこか陰のある叔父・・・など

個性的な登場人物たちの様子が

先の見えない事件の謎と相俟って、

グイグイ物語の世界ににひきつけられてしまいました。


先輩は本当に未来を見てきたのか?

予言は成就してしまうのか?

・・・というミステリーの本筋もさることながら

個人的に印象深かったのは、

周囲や事件に振り回され、

周囲の人々の知られざる一面を目にしつつ、

少しずつ成長していく主人公の様子。


私自身ようやく、マイナス思考との付き合い方を身につけれた

・・かな?という状態なので、

コンプレックスをちゃんと乗り越えていく様子が

とても、うらやましく感じました。


ティーン向けミステリーなので過激な描写もなく、

安心して読むことができる本書。


ミステリーに興味がある中高生はもちろん

刺激やトリックがインフレ化するミステリーにミステリーファンなど

一人でも多くの方に読んでいただきたい作品です。


<補>

この本は、感想文がきっかけでこのブログを読んでいただいている、

ばななんさんから教えていただきました。

ばななんさん、どうもありがとう!!

みなさんもおススメの本やCDがあれば、ぜひコメント欄などで教えてくださいね

時間はかかるかもしれませんが、絶対に読んでみます☆