◇juri+cari◇

ネットで調べて、近所の本屋さんで買おう!!

湯浅 邦弘さん『 諸子百家―儒家・墨家・道家・法家・兵家 』

2009-03-30 23:49:58 | 読書
本書は大阪大学教授であり、中国文学を専門とする著者が

諸子百家と称される春秋・戦国時代の思想家の思想を

90年代に新たに発掘された文書も参照にして

コンパクトに紹介する著作です。

【構成】

序章では、20世紀初頭に敦煌や楼蘭などで

さらに、90年代に入ってから銀雀山漢墓などで発掘された

古文書についてコンパクトに紹介するとともに

春秋戦国時代の政治状況を解説。


1章では、発掘された『荘王既成』や『昭王毀室』などを参照し、

諸子百家以前の思想について紹介する


2~7章では、諸子百家の代表である

孔子、孟子、墨家、道家、法家、孫子について

新たに発掘された文書も参照し、その思想について紹介する


8章では、諸子百家の旅と称して、

著者が山東省に赴いたお気楽旅日記を記す。



【感想】


諸子百家と称される思想家たちの思想が

読みやすい文章でコンパクトに紹介された本というのは

そこそこあるのですが

「矛盾」や「守株」といったおなじみの故事成語が

儒教に対する批判という文脈の中で用いられた-ということを

ちゃんと書いてある本はあまり見ないので

なにより、その点がとても嬉しく感じました。


また、各思想家相互の関係もまとまっており

孔子と孟子はもちろん、老子と荘子

など違いをキチンと認識していない事柄についても

一読しただけで理解できるようになっており

その点も、大変ありがたい著作。


とりわけ、孫子に関する記述は

『中国古代軍事思想史の研究』というマニアックな著作のある筆者だけに

イメージが先行しやすい孫子の思想について、

孫武と孫濱の違いなども踏まえて紹介しており

とても勉強になりました☆



終章の『諸子百家の旅』(←お気楽中国旅行記)は

いかがなものか?とも思いますが

全体として、とても楽しく読むことができた著作


多くの人に読んでいただきたい著作ですが

中・高校生でも十分に読める内容なので

古文の勉強の参考にしていただければと思います☆

『イワシはどこへ消えたのか―魚の危機とレジーム・シフト』

2009-03-30 23:48:37 | 読書
【概要】

本書は、北海道新聞の記者である著者が

現在の水産業が抱える問題について

漁獲量の変化に関する「レジーム・シフト論」を紹介した上で

「レジーム・シフト」によって生じる漁獲量の変化と

それに対応するための政策とその問題点について

コンパクトに論じる著作です。

【感想】

新聞記者らしく、専門的な議論についても

一般人でも理解できるような平易な文章で紹介。

また、政策や制度一般についても、大壇上からフワフワと論じるのではなく

実際に漁業に携わる人々への地道な取材やインタビューを通じて

現在の漁業政策が抱える問題について

当事者の目線から、多面的に検証していく姿勢に好感を持ちます。


個別の記述内容については

あまりに複雑な問題なので、何をどう考えていいかすらわからないのですが

TAC規制に違反しても罰則はないという点には首を傾げざるを得ません。


そして、漁獲量規制のあり方については

資源保護の観点から

TACの決定に当たってはABCをできるだけ尊重し

その運用は適正かつ厳正に行う。

その一方で、漁業関係者に対する経済的保障も

十分に行わなう―というのが落としどころなのかなぁと感じました。


なお、今日TACをめぐる議論の中心は、

それ自体の妥当性よりも、その問題点を踏まえたうえで、

より踏み込んだITQ方式を導入かという点に移っています。


この点、筆者はITQ方式についてどう考えてるのか

あるいは、実際に漁業に携わる人々はどのように考えているのか

もうちょっと踏み込んだ記述があればなぁ―と思うのは欲張りすぎでしょうか?


今日の漁業が抱える問題の深さ・広さを垣間見ることのできる本作。

食糧問題や環境問題などに関心を持っている方には

ぜひとも読んでいただきたい著作です☆

矢幡洋さん『「S」と「M」の人間学 (祥伝社新書』

2009-03-25 08:38:15 | 読書
本書は、

臨床心理士であり、

「パーソナリティ類型としてのサディスト・マゾヒストを日本に紹介した元祖」

を自認する著者が

アメリカの心理学者ミロンの議論を参照しながら

一般に認識されているのとは一味違う

サディスト、マゾヒスト概念について紹介し、

彼らとの適切な付き合い方を紹介する著作です。


【本書の構成】


1章では「S」「M」概念の誕生と

フロイトの精神分析学のなかでそれがどのように扱われたか

そして、心理学の中で脳科学が重要な役割を果たすようになる中で

両概念の扱いにどのような変化が生じたのかをコンパクトに紹介する。


2章~3章では、『DSM』で展開されるミロンの議論、

そこで紹介される実例をもとに

「S」、「M」という性格について解説する。


4章では、ミロンの議論に依拠して

「S」「M」といった性格が形成される過程を説明する


5章では、ミロンに加え、ホーソンの議論も参照し

「S」、「M」以外の分類概念を説明する


6章では

一見矛盾して見える「S」と「M」が個人の中で両立しうることを

例を挙げつつ説明し、両者が時限の違う問題であると私見を述べる。


7章では

これまでの議論を踏まえた上で

身の回りにいる「S」や「M」な人とのうまい付き合い方を提案する。


【筆者の主張】

今日、「S」「M」の概念は一般的に用いられているが、

「M」は本来の用法(「自己破壊・自己処罰」)とは異なり、

むしろ「他人への従属的な態度」を重視するものである。


そもそも「S」、「M」は大まかな分類である。

そして、両者は決して矛盾するものではない。

だから、それ以外の傾向が強い人もいるし

一人の人間が両方の性質を兼ね備える場合もある。


たしかに「Sか、Mか」というのは、あくまで学問的な分類である。

だが、こうした分類を正しく理解することで

自分や他者をより深く知り、

周囲とうまく付き合い、自分を見つめなおすきっかけとなりうる。


【感想】

SとMの関係については

なんとなく「コインの裏表」と、

本書でも紹介されるフロイト的理解をしていましたが

それとは違う理解の仕方があることを知り

大変興味深かったです。


また、「M」概念から「自虐性」が欠落し

他者への「従属」や「依存性」が強調されているという指摘や

「おバカ」ブームをこうした文脈で捉える点も

とてもおもしろく読みました。



なかでも

個人的に一番興味深かったのが

5章で紹介されるホーナイの3分類


① 他人と張り合おうとする人たち
② 他人に近づこうとする人たち
③ 他人と距離をとる人たち

特に、③の類型の特徴として挙げられる

なれなれしくされると不快感

いかなる体験も他人と共有することを嫌う

論理性の過大評価に陥りがち

―という点はまさしく私そのもの!!!


と思ったのですが

よく読んでみると、

他の類型の要素も、たいていあてはまるので


今度時間のあるときにホーナイの著作そのものを

チェックしようと思いました


よくある心理本よりも、ちょっとだけ専門的な本書。


心理分析的な本が好きな本だけでなく

最近、自分を見つめていない方には

おススメします☆☆


なお、本書を読んで、

全く当てはまらないなぁ―と思ってしまった方は

神様か

残念ながら、かなり手遅れな方です

たぶん。

UTADA『This Is The One 』

2009-03-25 00:24:20 | 音楽
宇多田ヒカルさんのUTADA名義では2枚目となるアルバム

アーティステックだった前作と比べて

よい意味で、肩から力が抜け

より耳になじみやすいR&B系の内容となっています


曲名リストを見て目に付くのは、やはり

Automatic Part II

いわずと知れたデビューシングルの名前を関したこの曲

内容は端々に「Automatic」に思わせるフレーズや

メロディがあるものの

R&Bとして、

いっそうの深化、洗練を遂げています。



また、Merry Christmas Mr. Lawrence - FYIは

坂本龍一さんの戦メリのアレンジ

AIさんやつじあやのさん

あるいは坂本龍一さん自身によって

どんどん新しくなり続けるこの曲

このアルバムでは

軽やかさと力強さが合わさった

とても聞きやすく、ステキな仕上がりに


他にも、歌詞が日本だったら過激といわれかねない

Taking My Money Back

は落ち着いた雰囲気の正統派R&B

夜眠るときに流していたい感じです


あと、個人的に一番印象的だったのが

Me Muero

なんというか、出だしからブラジル音楽っぽくて

それがクセになりました。


良くも悪くも

グッとアメリカっぽいこのアルバム

個人的な印象では

歌いたくなるのは日本でのアルバム

より長く付き合うならこちらかなぁと思います☆☆

新堂冬樹さん『殺しあう家族』

2009-03-25 00:13:36 | 読書
ドラマ化された『黒い太陽』など

アウトローな人々を描くことに定評のある著者の最新作は

北九州で起きた一家監禁・殺害事件をモデルにしたクライム・サスペンス


普通に生活していた女性が

職場の上司に身も心も取り込まれ

やがて、家族同士で殺しあうことになる様子が描かれる。


電気ショックによる拷問で一家を意のままに操り

家族同士で殺し合いを行わせ

その遺体を鍋で煮たり、ミキサーで分解し遺棄したという

かなりショッキングなこの事件については

地裁判決が、かなり詳細に事件の様子を述べているほか

詳細なドキュメント作品も発表されています。


しかし、

それらでは迫りようのない犯人の内奥を

作家の観察力と想像力が見事に照らし出したのが本作。



実際の事件をモデルにしているので、

楽しんだ―とは少しいいにくいのですが

堕ちていく主人公の心情とその変化が緻密に描かれており

ノワールものとしての醍醐味が十分に味わえます


とくに、

主人公が反感を感じながらも

心のどこかで、尊敬のような感情を抱いていた父親が

自分の前で拷問や虐待を受け

どんどん変貌を遂げるのを見つめる箇所は

脂汗がドッと噴出し

心が折れそうになるにもかかわらず

文章から目を話すことができませんでした



内容が内容なだけに

読後は気分が最悪になること間違いないので

その点は気をつけなくてはいけませんが

人間はここまでなれる―ということを知り

戦慄とともに自戒の念を深く刻むことのできる本作



「人間性のかけらもない」などと断ずるのでも

全く自分には関係のないこととして読むのでもなく、

我々の日常と壁一つしか隔てない話として

ただ受け止めていただけければと思います☆



なお、

すごくヘンな、あるいは、失礼な言い方かもしれませんが

この事件をモデルにした小説は

(ちょっとB級の雰囲気を漂わせる)

著者でなかったら

とても読めなかったような気が・・・・


そんな意味でも

やはり、本書はベストな組み合わせなのかなぁと思います☆

平山洋介さん『住宅政策のどこが問題か』

2009-03-21 00:00:43 | 読書
本書は神戸大学教授であり、住宅政策を専門とする筆者が

戦後の住宅政策を振り返り、これからの住宅政策について

展望を示すものです


【本書の構成】

1章では、戦後の住宅政策と

それが念頭に置いた家族や仕事のあり方

それらが高度経済成長からバブル、さらに市場の機能を重視する経済政策の中で

どのように変化してきたかを概観する


2章では

ケメニーの議論を参照しつつ

諸外国と日本の住宅政策を比較し

持家政策が、とりうる選択肢の一つであることを確認する


3章では、詳細なデータを参照し

ベビーブーマーとベビーバスターの住宅履歴の比較

若年層が住宅を所有するための条件と所有できない実態

女性による住宅所有が困難な状況

不動産資産としての住宅と、その変化について概観する。


4章では

住宅を所有できない層へのセーフティネットである公営住宅と

それについての施策の変化がさらなる住宅困窮者を生んだこと

をコンパクトに論じる。


【筆者の主張】

戦後の日本は

安定した仕事に就き、家族を築き、自分尾家を所有するという

「普通の人生」モデルがあり、

多くの人がそうした人生を送ることで

経済の拡大、社会の安定を支えてきた。


しかし80年代以降は、住宅総戸数が世帯総数を上回るだけでなく

経済情勢が不安定化、経済政策が市場重視へと転換したなどの事情によって

これまでどおりの「普通の人生」を送ることが困難になった。


今後は、特定のライフコースや主義を念頭に置くのではなく、

住宅条件の実態を踏まえた柔軟な住宅政策を行う必要がある。


【感想】

筆者も述べているように

本書は地味で、読みやすくはないものの

身近な問題である住宅政策・住宅問題について

歴史的経緯から、現在の問題まで

コンパクトに知ることのできる本作。


データを丁寧に分析し

飛びつきやすい議論を展開しない点に好感を持ちました。



個別の記述・分析については

その適否を判断できませんが、


たとえば、

2005年の答申などについて

市場重視をあまりに重視しすぎて

中古市場の促進やリフォームの活用といった

ストック重視の側面があまりふれられていないなど

―市場重視、新自由主義、保守主義といった―

「概念」に流され気味ではないかという感を抱きました。


また、個人的にもっとも関心を抱いたのが

公営住宅に関する記述。


いわゆる派遣切りなどによって

住居を失う人が増える中で

公営住宅の役割が再認識される現在

筆者が主張するように

地域の創意工夫のみにゆだねた公営住宅政策で本当によいのか

という筆者の主張は真摯に耳を傾けるべきと思いました。



これから住宅を購入する人だけでなく

現在は住宅を所有している方も、健康状況の変化などによって

住み替えやリフォームを余儀なくされる可能性がある今日。


われわれの一生を大きく左右する住宅政策について、

理解を深めるのにうってつけの著作です☆☆

加門七海さん『怪の話』

2009-03-15 00:30:19 | 読書
実話系ホラーの第1人者である作者によるホラー系エッセイ集。


筆者と思しき主人公が

出かけた先々で、さまざまな物の怪に出くわします。


山に登れば、危うく別の世界に行きかけ

博物館では、展示品の妖刀に危うく斬られかけ


どこにも行かなくても

嵐の夜には、何かが自宅を訪れたり


―と、魑魅魍魎に囲まれ

気の休まるひまもない日々が、

ほどほどに怖く

そこそこ、ほほえましく?描かれます。


本書で書かれているのは、

身の回りでおきても不思議ではない?、スタンダードな「怖い話」。


ホラー好きであれば

似たような話はたくさん見聞きしてきたことでしょう。


なのに

それなのに、

読んでいる最中、突然、背筋がゾ~ッとしたり

小さな物音が気になったりするのは

まさしく、筆者の「語り」の確かさの証し。


純粋に「怖い話」を読みたい方には、文句なくおススメです。

加門七海さん『怪の話』

2009-03-15 00:30:19 | 読書
実話系ホラーの第1人者である作者によるホラー系エッセイ集。


筆者と思しき主人公が

出かけた先々で、さまざまな物の怪に出くわします。


山に登れば、危うく別の世界に行きかけ

博物館では、展示品の妖刀に危うく斬られかけ


どこにも行かなくても

嵐の夜には、何かが自宅を訪れたり


―と、魑魅魍魎に囲まれ

気の休まるひまもない日々が、

ほどほどに怖く

そこそこ、ほほえましく?描かれます。


本書で書かれているのは、

身の回りでおきても不思議ではない?、スタンダードな「怖い話」。


ホラー好きであれば

似たような話はたくさん見聞きしてきたことでしょう。


なのに

それなのに、

読んでいる最中、突然、背筋がゾ~ッとしたり

小さな物音が気になったりするのは

まさしく、筆者の「語り」の確かさの証し。


純粋に「怖い話」を読みたい方には、文句なくおススメです。

中井浩一さん『正しく読み、深く考える 日本語論理トレーニング 』

2009-03-05 00:47:02 | 読書
本書は

国語専門塾を主催し、教育批評なども手がける著者が

学校教育の場では、身につけることができない「論理」力を、

より多くの人に身につけてもらうことを目的とし

そのためのトレーニング方法を紹介する著作です。


【構成】


1章では、

「論理」の必要性とそれが教育の現場ではほとんど教えられていない現状を指摘

2章では

著者が論理を理解するために必要かつ十分と考える「対」、「言い換え」、「媒介」について

身近な例を元に紹介。

3章では

「対」と「言い換え」について、評論分などを具体例として解説

4~5章では

「対」と密接に関連する「比較」、「譲歩」、「分類」、「矛盾」などを紹介

6章では

「媒介」について解説。

7章では

これまでの議論を踏まえた上で

「本流」、「傍流」、「一般論」、「例外」

など意識して「文脈を読む」ことを紹介


8章では

1~7章で紹介した文章の形式的な理解に加えて

内容の吟味について述べた上で

自分の考えを持つことの重要性を説く。


【筆者の主張】

日本で行われている国語教育は、実は道徳教育である。

一方、現実の社会で必要なのは論理を読みとき、使う力である。

論理を読みとくには、「言い換え」、「対」、「媒介」

を理解すれば十分である。

そして、このような文章の構造に注目した上で

その内容を吟味することによって、自分の考えを作ることができるようになる。


【感想】

本や文章の読み方は本当に難しく

大学に入ってから散々苦労し、今でも苦労しているので

こういうことこそ、

義務教育や高校で教えればいいのになぁと思っています

(←もしかしたら、聞いてなかっただけかも・・)


この点、本書は

文章をキチンと読むために

必要かつ十分な事柄が

中・高校生でも読めそうな

コンパクト、平易な文章で紹介されており

文章の読み方を身につけるのに、もってこいの著作。


こういう本を読める現代の中高生がうらやましくなってしまいます☆



ただ、

内容の是非を吟味する際には、読者自身の経験や実感によって吟味する

という提案には、直ちにうなずけません。


この点について筆者は

経験や生活実感の中に「論理」が働いていること

を根拠としているのですが


これに対しても、

なぜ経験や生活実感のなかに働く「論理」が、本の内容を吟味する際の基準足りうるのか

生活実感や経験に反する主張を拒絶することにならないか


という疑問が残るからです。


とはいえ、

小論文や現代文対策だけでなく

文章をキチンと読む能力を身に着けるトレーニングとして

うってつけの本作。


感情や勢いに流されることなく、

正しく物事を見ようとする全ての方におススメします

貫井徳郎さん『乱反射』

2009-03-05 00:01:51 | 読書
人々の心理をつぶさに描くことに定評のある著者の最新作『乱反射』は

普通の人々の些細な行動が、思いがけない方向へと乱反射)

ある家族に悲劇をもたらす、

その様子を描いた重厚な筆致でえがいた作品です。


本書は、細かく節に分けられており

それぞれのタイトルは-44から0へ減り

そこから35まで増える構成をとります。


察しのよい方はわかるかもしれませんが、

-44から0までで事件のきっかけとなる人々の日常が

0で事件そのもの、

そして、0から35で事件後の人々の対応が描かれます



事件が起きる前までの描写も

現代社会の諸相を鋭く切り取っており

秀逸なのですが

なんといっても本作の見所は、

事件後の人々の描写。


あるものは憔悴しきり、

あるものは無関係と主張し

他のあるものは、他者に怒りを転化する


自分の何気ない行動が

他者の死を引き起こしてしまったことを知った人々の様子は

非常に読み応えがあります。


一方、誰を攻めてよいのかわからない遺族は

被害者の死の原因を追究しはじめる。


しかし、やり場のない怒りに駆られ

執拗に、そして、理不尽なほどに原因探しをする彼らの様子と

それを冷静に見つめる周囲や他者の対比は

どうしようもなく哀れであり、

喜劇的ですらあります。


とはいえ、マイナスから0へ

そして0からプラスへと向かう

節が暗示するように、ラストは決して暗いものではありません。


重いテーマを扱いながらも

エンターテイメント性を失わない上質なサスペンス小説。


読んでいて楽しくなることはありませんし

何度も胸が張り裂けそうになりますが

あくまで娯楽作品!!

気軽に楽しんでいただければなぁとおもいます。






本書を閉じてふと

自分の行動も誰かの死につながったことがあるのか?

と考えてみました


あるとは思えないけど

ないとも言い切れません。


もし、ある日その遺族が自分を訪れ、

自分を非難し始めたら―


・・・・どうするんだろう