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ネットで調べて、近所の本屋さんで買おう!!

マイケル・シェイボン『ユダヤ警官同盟』

2009-04-28 22:08:38 | 読書
ピュリッツァー賞を授賞した著者による本作は、

第二次世界大戦中に、アメリカがユダヤ人を受け入れ

アラスカにユダヤ人居住区が誕生した―という架空の世界を舞台にした作品。


居住区の返還が間近に迫り

続々とユダヤ人が立ち退くシトカ特別区。

そこにある安ホテルの一室で、頭を撃たれ死んでいた若者が発見された。

彼の死の真相を追究する刑事は

やがてユダヤ人社会とアメリカのの闇

全世界を巻き込む大きな陰謀を知ることになる―


デビュー作の以来、架空の設定を構築することに定評のある著者が

満を持して著したミステリー。



単なる謎解きミステリーの範疇にとどまらず

SF、政治サスペンス、ヒューマン・ドラマ、思想書、

―と、あらゆるジャンルを包括した壮大かつ荘厳な物語。

そのうえ、読者を退屈させないエンターテイメント性すら備えています。


設定がわかりにくいことに加え

人物名の覚えにくさ、遅々として進まない捜査など

物語に没頭するには時間がかかるかもしれません。


しかし一度、物語の世界へと迷い込んでしまうと


暗鬱なアラスカの空、吹きすさぶ北風、立ち並ぶ廃墟―

自分もその中にいるように感じ、

時を経つことすら忘れてしまいます。


気軽には読みにくいので、

通勤中などに読むのには不向きかもしれませんが、

じっくりと腰をすえて読むには、この上なく最適な本作。

ゴールデン・ウィークのおともとして、強くおススメします☆

溝口睦子さん『アマテラスの誕生』

2009-04-27 00:19:41 | 読書
本書は日本古代史を専門とし

『古代氏族の系譜』、『王権神話の二元構造』などで知られる著者が

現在では最高神にして皇祖神と信じられているアマテラスの実像を

従来の議論を踏まえつつ、一般向けの平易な文章で紹介するもの。


本来の皇祖神はタカミムスヒであり

その神話は朝鮮半島に由来する。

一方のアマテラスは

弥生時代以来の日本固有の土着的な神話に由来する。


―など、これまでの著者の主張がコンパクトにまとめられているだけでなく

日本古代史や古代の東アジアに関する最新の研究も反映されており、

『王権神話の~』を読んだ方でも、新たな発見があるはず。


また、宗像氏に関する記述など、

細かい記述もとても示唆に富んでおり、

読者は本書を出発点とすることで

より深く記・紀や古代史などの理解できます。


もちろん、

古事記に関しては「アマテラス=女神」説や、

天岩戸に関する解釈など

いまいち賛同できない点もあるのですが


東アジア全域を見通した壮大さと精緻さを兼ね備えた議論は

他説を圧倒する魅力を持ちます。


日本史や記・紀に関心のある方だけではなく、

日本列島の歴史にとどまらない

古代のダイナミズムに関心を持つ方には強くおススメします。

宮台真司さん『日本の難点』

2009-04-26 00:48:11 | 読書
本書は、首都大学教授であり、

『権力の予期理論』などで知られる著者による初の新書。


後期高齢者医療制度、沖縄の米軍基地

環境問題、いじめ、自殺など


今日の日本社会が抱える問題を、

最先端の社会学・政治哲学に基づき論じることで

日本社会とそれを分析する枠組みを示すものです。


扱っているテーマの幅広さから

てっきり、ありがちな時事放談?かと思いました。


でも、実際に読み始めてみると

文章がわかりやすく、問題意識や分析枠組みが一貫している一方で

ムフ、ギデンズなど最新の議論が参照されているうえ、

様々な概念が厳密に用いられているので

読みやすいながらも、とても読み応えのある内容になっています。


どのトピックスも興味深く読みましたが、

とりわけ興味深かったのが「日本をどうするのか」を論じる5章。

裁判員制度や日本の民主主義の回復について、詳細な議論が展開されており

とても勉強になりました。


本書を通読するだけでも、十分な知識が得られるでしょうし

社会学等に関心のある方は本書で紹介されている議論を

自分なりに勉強してみれば、いっそう理解が深まること間違いなし。


身近な問題を通じ、社会全体を知ることができる本書。

ぜひ多くの方に読んでいただければと思います☆



*なお、本書に登場する『モラル・エコノミー』

大学のころ、辛亥革命のゼミでポロッと使用したら

そんな時代遅れの話をするな!!

と小一時間くらい怒られました。

苦い思い出です

高橋克彦さん『たまゆらり』

2009-04-26 00:46:34 | 読書
大河ドラマ化された『炎立つ』などの時代小説や

『記憶』シリーズといったホラー小説など

幅広いジャンルを手がける著者の最新短編集。


著者をおぼしき中年の男性作家を主人公に

何気ない日常が異界へと転ずる恐怖を描いた11編が収められています。


ふと訪れた路地で出会ったピエロと子どもたち

山奥にある山荘で体験する恐怖の一夜


どの作品とも、日常がゆらりと揺らぐ瞬間が恐ろしくも快感で

時間を立つのを忘れて物語に没頭してしまいます。


とりわけ印象深かったのが、

60~70年代への郷愁を持ち続ける男を描く『うたがい』

そして、写真に写った人魂を調べる男を描いた表題作『たまゆらり』


とくに『たまゆらり』は、読後しばらく鳥肌が引きませんでした。


ホラーが多様になりすぎ、よくわからなくなった今日。

読後に背筋がぞぉっ~とし、

鳥肌がひかなくなるような王道ホラーをお求めの方におススメです☆

ぜひ、夜に一人でお読みください☆

田山朔美さん『霊降ろし』

2009-04-25 15:10:15 | 読書
103回文学界新人賞を受賞した、期待の作家による初の単行本。


小豚を飼い始めた普通の主婦に

夫の浮気、ゴミ屋敷に住む隣人、怪しげな下着を売りつけるPTAの知人など

さまざまなトラブルが降りかかる。

そして、そんな飼い主の杞憂をよそに

エサを食べるているだけの豚は次第に大きくなり・・・(『裏穴の庭』)



女性の心理や日常を描いた作品だと思い読み始めたのですが

気がつけば、とんでもない異界に―

並みのホラー小説なんて比べ物にならないほど怖く、

とくにラストの1文は、忘れがたい余韻を残します。



霊能力者の<ふり>をしていたら

ある日本当に霊が降りてきて―と

ちょっとベタな設定の表題作『霊降ろし』は


少し特殊な能力をもった女子高生の日常とその変化を

みずみずしく、つぶさな描写で描いた作品。


問題だらけの大人たちに囲まれる中で

キラキラ輝く主人公の様子に

思わず遠い目をしてしまいました。



まったく異なるタイプの作品を味わえる本作

著者が今後どんな作品を発表するのか―

とても待ち遠しいです☆

横山泰子さん『江戸歌舞伎の怪談と化け物』

2009-04-25 00:32:50 | 読書
本書は江戸文化を専門とし、法政大学教授である著者が

江戸時代に人気のあった歌舞伎の<怪談物>について

演目や演じられ方、その変化を検討することで

江戸文化や怪談の本質に迫る著作です。


まず驚くのは、

四谷怪談でおなじみのお岩をはじめ

玉藻前にオサカベ、化け猫など

歌舞伎に登場する<物の怪>の多様性や、


歌舞伎の大ヒットを踏まえて作られた

製作された読本や役者名義合巻などの<コラボレート・グッズ>


なかでも、人間を脅かすためにやって来た本物の妖怪が

尾上松緑が演じる怪談歌舞伎を見てゾッとして逃げ帰る―

という『古今化物評判』は、国会図書館にあるので、いつか見たいと思いました。


また、個人的に興味深かったのは

歌舞伎に登場する「化ける女性」は

男性である歌舞伎役者が演じることで両性具有性を具備し、

そのことによって、舞台が非日常性を帯びた―という指摘や、

お岩とフランケンシュタインには「出産」などの類似性があるという指摘。


両性具有性や「出産」などの要素は、

鈴木光司さんの『リング』にも通じるものがあるので

こうした観点からいろんなホラーを読み返してみると面白いかなぁとおもいました☆☆


江戸文化・怪談文化の奥深さを知ることができ、

読み終わった後には、歌舞伎を見に行きたくなること必至の本著

歌舞伎ファン、ホラーファンならずとも好奇心を刺激されること間違いなしです☆

岩井志麻子さん『五月の独房にて』

2009-04-24 00:08:05 | 読書
『ぼっけぇ、きょうてぇ』で知られる岩井志麻子さんの長編小説。


同僚の女性を殺害し、遺体を切断した罪で服役中の女性を主人公とし

女性の濃密な内面を情感あふれる筆致で描く、

まさしく著者ならではの作品です。


人を殺し、その亡霊を見るものの

さして反省するわけでもなく淡々と服役生活を送る日々。


厳格だった母への思いや、

関係を持った男性たち、そして被害者

過去と現在が交錯する中で、やがて語られる殺人と死体の解体。


描写そのものの凄惨さもさることながら

ぬっぺりと、なまぬるい血が体をゆっくりと伝うような感覚や

生温かい遺体の触感が感じられるようで

思わずゾッ~としてしまいました


また、出所後の女性の行動が

女性のたくましさなのか、あるいは、狂気なのか

判別がつかないのも、著者らしくていい!!


爽やかになるはずのない話なのですが

不思議なほど読後感がよく、それでいて怖い本作☆☆


頭の中の倫理観を一度リセットしたいときにはうってつけです☆

網野善彦さん、宮田登さん、上野千鶴子さん『日本王権論』

2009-04-23 23:40:16 | 読書
『無縁・公界・楽』の網野善彦さん

『ミロク信仰の研究』の宮田登さん

そして、『近代家族の成立と終焉』の上野千鶴子さん

本書は、20年近く前に出版された

異色の組み合わせによる鼎談集。



後醍醐天皇、諏訪神社の神事から、

ガルシア・マルケス、キャプテン・クックまで

幅広い話題について論じつつ、

王権の形やアイデンティティについて考察します。


議論そのものは

噛み合っているのかいないのか

いまいちよくわからないまま進むのですが

確かな知見に裏打ちされ、

しかもリラックスした雰囲気での発言からは

論文などでは知ることのないような貴重な情報が盛りだくさん。


延喜式と海民・山民、サクリファイスとサクリファイサー

将軍落胤伝説や貴種流浪伝説などなど

読み返すたびに、新たな発見があります☆


いきなり読むと当惑するかもしれませんが、

ある程度、日本史や社会学などに関心を持つ方であれば

きっと大量のインスピレーションを受けること間違いなし!!


人文系の学生さんだけでなく、

歴史に興味のある多くの方に読んでいただければと思います☆

本郷和人さん『天皇はなぜ生き残ったのか』

2009-04-19 00:47:26 | 読書
本書は東京大学准教授であり、中世史を専門とする著者が

律令体制が揺らぎ始めた平安末期を起点に

時代の推移とともに、天皇の地位にどのような変化が生じたのかを

実証的かつ論理的に論じる意欲作。


律令などの文言や抽象的な概念を重視せず

日記や行政文書などから伝わる実体を元に議論を展開するので、

専門的な内容ながらも理解が容易にできます。


また、権門体制論や「後醍醐=異形の天皇」論など著名な先行理論を

バッサバッサと論破していくのも見所。

権門体制論などに乗り切れなかった方は必読です。


個人的に興味深かったのは、

6章で語られる九条道家の治世や皇統の並立―

ほとんど勉強してない時代だったので、

時間のあるときに、論文等を読んでみようと思いました。


位階や行政文書に関する記述にページを裂きすぎたためか

室町後半以降の記述が駆け足だったり

参考文献などが上げられていない点は残念でしたが

知的興奮に満ちた本書。


迷信や感情に流されることなく

論理的に歴史を見つめたい方に強くおススメです。

三津田信三さん『密室の如き籠るもの』

2009-04-18 01:41:55 | 読書
前々作、前作が大変な好評を博した著者のシリーズ最新作は

シリーズ初となる短編集形式。


物と物の「隙間」を覗くことで、

これから起きる出来事を幻視する不思議な力を持った女性にまつわる『隙魔の如き覗くもの』


こっくりさんにまつわる悲しい密室殺人を

密室事件の由来なども解説しつつ解決する表題作『密室の如き籠るもの』


など全四作品を収録します。


一見すると人間の仕業には思えない事件を事件でも

刀条言耶の鋭い推理が快刀乱麻のごとく解決!!

・・・かに見えて、やっぱり不思議が残る―

という変格小説ならではの面白さを存分に堪能できるラインナップです。


分量はいつもよりも短いものの

そのぶん、テンポよく物語が展開し、

シリーズのおもしろみが凝縮という印象を受けました。


また、前作から(かなり唐突に?)登場した編集者・祖父江さんも

すいぶんと物語になじんできた様子。

このまま行くと、そのうち犯人に捕まったり

言耶に恋をするものと思われます。


さらに、既刊されてる他の作品の後日談がチラッと明かされていたりと

シリーズ愛読者には嬉しいサービスも☆


サクッと読めるので、

まだ著者の作品を読んだことがない方には、

ぜひ、読んでいただきたい1冊です☆☆