思えばしょうもないけれども楽しい日々だった。
当時は、そういう時間に終わりが来るということは、頭では理解していたものの、会社に入り、しがらみに負けて、葬式をやる会館のトイレから友達の結婚式のスピーチをする羽目になるなどとは予想だにしていなかった。
(津村記久子さん『婚礼、葬礼、その他』)
デビュー作『君は永遠にそいつらより若い』で太宰治賞を受賞した津村記久子さんの最新作『婚礼、葬礼、その他』は、OLを主人公にした表題作他1作を収めています。
『婚礼、葬礼、その他』のあらすじは以下のとおり
主人公・ヨシノは屋久島旅行を申し込んだ直後に、大学の同級生・友美から結婚式の二次会の幹事を頼まれる。
泣く泣く、旅行をキャンセル。二次会の準備をして、式に出席していた友美だったが披露宴の直前に上司の親の訃報を知らされ、そのお通夜に出るはめに
慌てて喪服に着替え葬儀場に向かったヨシノだったが、
故人が愛人を囲い、娘にも孫にも嫌われていることを知り呆然とする
―私はなんていう人物の葬儀にきてしまったのだろう。
そんな彼女に追いうちをかけるように、披露宴に出席している友人から電話が来る。
結婚式に葬儀と有無を言わさない事情や、他人のささいな事情に振り回され続ける主人公。
極限まで達したストレスと空腹は、それまで「頻繁に呼ばれる人生」と自嘲気味に考えたり、
祖父母が死んだという事実をなかなか受け入れられないでもいる。ときどき、彼らが生きているような気分になったりするのだ。ボーナスをもらったら何かしてあげよう、などと。
この女の子は、それを望むところではないだろう、とヨシノは思う。そしてほんの少しだけ、故人にいい思い出がないらしい彼女を幸運だと思ってしまう。
と思っていたヨシノに変化をもたらす。
最終的に、彼女がたどり着く心境には妥当性と共感を感じます。
また、大事件によっていきなり成長するのではなく、小さな出来事と微かな変化を積み重ねる点も誠実で、好感が持てました。
もちろん、他人には笑い話のような出来事が次から次へと起こり、文章もユーモアに富んでいるので、クスクス笑いっぱなしで(も)読めてしまいます
<芥川賞候補>と構えることなく気軽に読んでいただきたい作品です。