立て続けに近畿地方の作家さんのエッセイを読みました
一人は『悪果』の黒川博行さん
もうひとりが、『鹿男あをによし』の万城目学さん
かたや泥臭く、ギラギラ利欲に満ちたハードボイルド
かたや青臭く、きらきら輝くような青春小説
作品、エッセイの内容はまったく異なりますが、
どちらも関西弁圏出身らしい軽妙な語り口の面白いエッセイでした
まず紹介するのが、万城目さんの『ザ・万歩計』
万歩計が一歩一歩カウントするように
コツコツ書きためたエッセイが収録されています。
家族全員が万博記念公園で目にした巨大な鳥
妹が拾ってきたネコ<ねね>の思い出や
安室奈美絵さん「CAN YOU CELEBRATE」の「たーー」など好きな曲の1小節だけ集めたディスプレイの妄想
さらに、学生時代に世界中を旅行した話など
しんみり系から爆笑系まで、幅広いエピソードが紹介されています
なかでも印象深いのが『夜明け前』と巻頭の『はじめにかえて』
『夜明け前』では筆者としか思えない万太郎が、大学時代に小説を書き始め
就職するも東京への転勤話を契機に会社をやめ、小説家としてデビューするまでが語られます。
芥川龍之介が『杜子春』を発表し、大乃国が引退したのと同じ年(28歳)になってしまったことに呆然とし
則巻センベエも作品中では28歳だったことに、「案外、甲斐性のある男だったのだなと妙に感心する」など
夜明け前の、焦燥感に駆られる心情が痛いほど伝わります
そして、なんといってもの「はじめにかえて」
小説を書き始めたきっかけは、(中略)、自転車で道を走っていたら、とても気持ちいい風が前から吹いてきて、ああ、気持ち余暇と思いながら、「あ、この気持ちを文字に書きの残さなくちゃいかん」と唐突に思ったことだった。
21歳のことである。
・・・なんと気持ちのいい
普段は「騙し、裏切り、ののしり合う」私の心にも爽やかな風が吹きました
こういう気持ちで小説を書くと、『鴨川モルホー』とか『鹿男あをによし』のような作品が生まれるのでしょうね
『鹿男~』、ドラマは見たけど原作は・・・という方や
万城目さんの作品は『鹿男~』だけという方にとくにおススメです