やっせんBO医

日本の教科書に記載されていない事項を中心にした個人的見解ですが、環境に恵まれず孤独に研鑽に励んでいる方に。

臨床医における問題解決の基本(第2部)

2015年04月11日 17時17分33秒 | 医学・医療総論
3.問題点の感知と整理

    問題点の感知と整理
      ↓
    診断(問題の分解→仮説の設定→問題点の原因特定)
      ↓
    治療(問題点の解決策の決定→解決策の実行)
      ↓
    問題の検証

 そもそも問題を問題として感じ取ることがなければ始まらない。あまりに当たり前のこととはいえ、ここをしっかり押さえておくことはきわめて重要である。確かに多くの場合、主訴として患者が自覚症状や健診で異常を指摘された、などと問題点を自覚し教えてくれる。しかしながら、解決すべき問題は初診時だけではない。既に治療が始まっているような症例では、経過中に新たに問題が発生したとしても関心を引きにくく惰性で対応してしまいがちであるという点で、むしろ特別に注意すべきなのだ。経験の浅い新人医師にとっては理解しにくいことかもしれないが、いつか必ず(場合によっては後悔の念とともに)思い知ることになるだろう。経過が長くなれば徐々に問題点がぼやけ、あるいは移り変わることもある。人間の記憶力には限界があるので、プロブレムリストを毎日(外来患者なら受診ごとに)確認できるようにしておくのがよい。

 また、患者が主観的に問題だと思っていることへの配慮は必要であるとはいいながら、一方で一般人が訴える症状などは、あいまいでそのままでは手がかりにならないことや、誤解されがちな表現であることもままある。「めまい」といっても回転性か非回転性かで、鑑別診断が大きく異なることは周知のとおりだ。さらに意識して情報を収集しようとする姿勢も欠かせない。患者自身は問題と思っておらず、こちらから聞き出さなければ必要な情報が得られない、というのはよくあることだ。「めまい」で来院した患者に頭部CTのみ行なってよしとしているようでは、よく聞くと実はタール便があったとか、あるいは、ショック状態であったとか、苦汁をなめさせられることにもなる。あやしい、と感じ取れる感受性を身につけたい。内服治療中の患者には副作用が起こっていないかとか、術後患者なら起こりえる合併症を念頭に積極的に確認する。その他にも可能なかぎり情報を収集することが問題解決の出発点である。

 当然ながら利用できる情報には全て目を通しておくこと。前医での検査結果はもちろん、看護師による記録やこれまでに撮影されたX線写真も1枚1枚チェックする。またいわゆるルーチン検査のささいな1項目にも注意を払うべきであり、最初に尿蛋白陽性を無視したばかりに骨髄腫の診断が遅れるとか、急変してから高カルシウム血症に気づき肺癌の末期であったなどという羽目になりかねない。胸部X線写真の読影でもそうだが、目立つ部分のみに気をとられて、重大な疾患を見逃すことがないようにする必要がある。本来の検査目的ではなくても、一通り確認する癖をつけておこう。ペースメーカーチェックで胸部X線を撮影していて肺癌が見つかることはそれほどまれでない。特に高齢者であれば、本来の治療目的である疾患以外に、むしろより優先されるべき問題がクローズアップされてくることも決して少なくないのだ。病歴聴取の最後にSystematic Review (全身の問題を一通り簡単にチェックする)を行うことが有用であるとされている。

 以上のことに注意しながら、まず考えうる問題点をありったけ書き出してみよう。食欲不振、発熱、嘔吐、CRP上昇、腎機能異常、…などと書き出した上で、同じグループに属していそうな問題点を一まとめにくくる。発熱、CRP上昇は、一つのグループ、食欲不振、嘔吐は同じ消化器症状として一つのグループ、という具合である。それぞれを最初の段階ではProblem List として、#1 発熱、#2 血小板減少、・・・と始められるであろうが、それら当面の問題点をさらに身体所見、検査所見などから分析、整理統合し診断をつけなければならないのである。この過程において、初めはバラバラであった問題点が同じ流れの中に関連づけられ、一つの問題点として把握し直されることも多いだろう。不明確であれば、早い段階で無理にまとめないほうがよい。Problem-Oriented System (POS) はそれぞれの問題点をまず把握し、しかる後にそれぞれを分析していく方法なのだが、まさにその名のとおり問題点を意識するところから始まるのだ。問題点を挙げる、というのはただ患者の主訴や検査所見の異常を羅列することではないのである。 (2009.3.24、2015.4.11改訂)