やっせんBO医

日本の教科書に記載されていない事項を中心にした個人的見解ですが、環境に恵まれず孤独に研鑽に励んでいる方に。

成人Still病

2009年04月21日 04時41分28秒 | アレルギー・膠原病関連疾患
内科医、総合診療医の力量を見るにはそれぞれ考えがあるだろうが、不明熱の鑑別をさせるのも一つの良い方法だと思う。そこで検討すべき疾患は広く多岐にわたるものの、常に念頭に置かれるのが成人Still病(AOSD)だ。膠原病一般の中でも特に身体機能・生命予後は良好であるとされ(Am J Med 1995; 98: 384-388)、ともすれば侮りがちであるけれども、実はそのような理解に反省を促す報告も少なくない。思いのほか油断のならない疾患である。

AOSDは関節リウマチ(RA)の類縁疾患とされ、同様に慢性例や再燃を繰りかえす例が多いのは周知だろう。薬剤による肝機能障害を起こしやすいこともしばしば言及されるが、肝不全(Medicine 1991; 70: 118-136)を始めとする各臓器の機能不全(Semin Arthritis Rheum 1987; 17: 39-57)、最近では血球貪食症候群、マクロファージ活性化症候群(Macrophage activation syndrome;MAS、日本臨床免疫学会会誌 2007; 30: 428-431)を合併し得ることが指摘されており、それ以外にも炎症持続によるアミロイドーシスの合併やDIC、敗血症が死因になりうることに注意が必要だ。

呼吸器疾患の合併も0~53%にみられ、急性ないし慢性肺臓炎、呼吸機能障害、横隔膜機能障害、薬剤性肺炎が挙げられていものの(Curr Opin Pulm Med 1999; 5: 305-309)、胸膜炎の頻度が最も多い。たとえば文献報告228例の集計では胸膜炎を24.6%、肺臓炎を12.8%に認めたという(J Rheumatol 1987; 14: 1139-1146)。これは本邦90例の検討でも同様の傾向で、11例(12%)に胸膜炎、5例(6%)にparenchymal infiltrationが合併していた(J Rheumatol 1990; 17: 1058-1063)。しかしながら胸水所見についての詳細な報告は少なく、診断に有用な所見は今のところ見当たらない。関節症状に先行した場合には膠原病以外に感染や腫瘍なども慎重に鑑別しなければならないだろう(Eur Respir J 1990; 3: 1064-1066)。

そして、それ以上に注目されているのは急性の経過をたどり呼吸不全をきたす間質性肺炎である。AOSDにARDSを合併した8例(男性2例、女性5例、1例不明)をまとめたものによれば、7例にDICを合併しており、ARDSとDICはAOSDの活動性が高い時期に発症していた。また7例はステロイド大量投与でARDSの改善をみており、他の原因によるARDSの死亡率(6か月以内に40~60%)に比べ予後良好であったという。なお、これら症例の平均年齢43.4歳は、AOSDの好発年齢とされる16~36歳に比べやや高年齢である。組織学的検査は2例に行われ、剖検の1例で硝子膜の形成とⅡ型肺胞上皮細胞の過形成、他の1例はfocal fibrosisを伴うinterstitial pneumonitisの像であった(日呼吸会誌 2002; 40: 894-899)。その他組織学的に検討されたものはいまだ少なく血管炎の報告もないようである。また、胸水を伴う頻度が多い傾向にあるが(Clin Rheumatol 2006; 25: 766-768)、画像所見やBALF所見(Clin Rheumatol 2006; 25: 766-768、日呼吸会誌 1998; 36: 545-550)に関してもさらに多数例での検討が必要であろう。

上記以外にも慢性間質性肺疾患(Clin Rheumatol 1993; 12: 418-421)、最近では肺胞出血(J Korean Med Sci 2009; 24: 155-157)や肺高血圧(Clin Rheumatol 2007; 26: 1359-1361)が報告されるなど、他の膠原病に劣らぬ多彩な呼吸器病変を呈することが認識されつつある。ただし現時点ではAOSDに気道病変を合併したとの報告は見られず、この点はしばしば気道病変を合併するRAと異なるかもしれない。これについても多数例での詳細な解析を期待したいと思う。

これまで述べてきたように、AOSDに合併した呼吸器疾患に特異的なものはみられない。AOSD一般の関節痛、発熱、皮疹の頻度はそれぞれ100%、100%、97%とほとんどの症例でみられる(J Rheumatol 1990; 17: 1058-1063)が、非特異的な所見である。除外診断が重要である状況に変わりはなさそうだが、最近glycosylated ferritin (<20%)が診断に有用であったとする研究があり注目されているようだ(Clin Rheumatol 2006; 25: 766-768)。<br>
治療は肺疾患合併例でもステロイドが基本である(Curr Opin Pulm Med 1999; 5: 305-309)。ステロイド大量療法に反応しない場合免疫抑制療法も試みられている(Arch Intern Med 1986; 146: 2409-2410、日本医事新報2007; No 4355: 57-62)が実際に必要とされる例は少ないと思われる。

AOSDに限らず常に専門医が診療すべきとは思わない。むしろ必要時に適切に連携をとることこそ実地医家が心すべきことではないだろうか。たとえそこが大病院であったとしても一施設ですべてまかなうのは現実的でない。現状では幾多の困難はあるだろうが、地域医療圏内で役割を分担し医療を完結させることができればよしとする意見を支持する。 (2009.4.21)