Dr. Jason's blog

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アスベスト公害:過去の失敗から学習できない人々

2005-07-25 | Environment
 最近,あちこちで,アスベストの健康問題,環境問題がとりあげられている.

 YOMIURI ONLINE の 7/22 の記事 によると,以下のような経緯があったらしい.
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作業現場でのアスベスト(石綿)の飛散防止を盛り込んだ「特定化学物質等障害予防規則(特化則)」が施行された1971年、旧労働省が職員や業者向けに出版した特化則の解説書の中で、アスベスト飛散が労災だけでなく、公害問題に発展する可能性があると指摘していたことが21日、分かった。

 当時、公害は旧厚生省の所管で、出版翌月に旧環境庁が発足したが、旧労働省の指摘は生かされず、周辺への飛散防止対策は、89年の大気汚染防止法改正まで講じられなかった。
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 一体,この国の,中央官庁幹部は,健康,環境など「科学的」かつ「社会的」問題をどのように捉えているのだろうか?


 7/24 の産経新聞の「主張」の記事によれば,以下のように厚労省の副大臣の発言を,事務次が否定するようなことが起こっている.
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 ...厚労省の西博義副大臣は国会で政策の失敗だったと答弁した.細田博之官房長官も,過去の政府の対応を検証し,行政責任が明確になった場合の被害者への保証も検討する考えを記者会見で示した.
 ところが,副大臣の答弁の翌日,同じ厚労省の戸苅利和事務次官は記者会見で「その時々に置かれた状況の中で可能な試みはしてきた.」と語った.
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 また,このことについては, TBSのNEWSiのWebサイトの7/21のニュースでも報道されている.
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戸苅事務次官は、21日の定例記者会見で「アスベストの代替品の開発が進まない中、規制は確実に行ってきた。しかし家族に健康被害が出ていることは事実なので、関係省庁や企業などの連携、連絡体制に問題がなかったかよく見極める必要がある」
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 一部の諸外国では,すでに1980年代から,アスベストの使用が禁止されたり規制されたりしていることは,広く知られている.
  MSN-Mainichi INTERACTIVE の7/10の記事 によれば,アイスランドでは1983年から,ドイツでも1993年から,石綿の使用が全面禁止されている.
 10-20年前に,ヨーロッパのいくつかの国では,政府が規制できたことが,日本でできなかったことの説明としては,全く合理性に欠ける見解である.

 また,米国なら事務次官クラスの官僚が,大臣や長官等の発言を公式に否定するということは,訴訟を覚悟しているか,辞職するときかどちらかだが,どうも,戸苅氏の場合は違うようだ.

 問題の戸苅事務次官は,インターネット上の情報によれば,以下のような経歴らしい.
 (http://www.jil.go.jp/jil/kouen/no_15.html より抜粋)
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 戸苅 利和(とがり・としかず)
 昭和22年11月28日、東京都生まれ。昭和46年、東京大学経済学部を卒業して労働省に入省し、職業安定局庶務課長、労働基準局監督課長、職業安定局雇用保険課長、大臣官房会計課長などを歴任。平成7年に大臣官房総務課長、平成8年に労働基準局賃金時間部長、平成10年に職業安定局次長を経て、平成11年7月より労働省大臣官房長。
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 所謂完全な文科系である.労働問題はそれなりの知見をお持ちかもしれないが,やはり,経済学部ご出身では,化学物質による環境や健康への問題などの,科学的な問題への適切な理解や判断は難しいのかもしれない.このような問題を統括する責任者は,医療,公衆衛生,環境などの分野で,少なくとも修士レベルの知識を持った人材があたるべきだと思う.


 アスベストのうち,つい昨年まで日本で使用がみとめられていた白石綿は,クリソタイル(Chrysotile) という.
 クリソタイルを含むアスベストの発ガン性については,IARC(国際ガン研究機関)その他の研究において,発ガン性の評価についてはほとんど確定している.発ガン性については,既に,1995年に輸入・使用などが禁止された,別種のアスベストである青石綿(クロシドライト)と茶石綿(アモサイト)と大差ない.つまり「議論の余地のない」危険物質である.

 国際化学物質安全性計画(IPCS)が作成している 国際化学物質安全性カード (国立医薬品食品衛生研究所による日本語版) には以下のように明記されている.
 身体への暴露: 粉塵の拡散を防ぐ!あらゆる接触を避ける!
 長期または反復暴露の影響: 肺に影響を与え、肺繊維症、中皮腫を生じることがある。人で発がん性を示す。


 どうして,日本の政府や官僚は,過去の公害や薬害の失敗から学習することができないのだろうか?
 是非,厚生労働省,国土交通省,環境省,その他の関係各方面と,政府が一体となって被害者の救済と今後の対策に当たってもらいたい.


追記:
 日本でのアスベストの問題について,まとまった情報を概観したい場合には, 中皮腫・じん肺・アスベスト センター の Webサイトが役に立つ.

 
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