Dr. Jason's blog

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人間の脳の並列処理の限界と自動車の交通事故

2005-07-17 | Transportation
 北大の某先生による 5号館のつぶやき blog の 7/15 の記事 は「ハンズフリーでも携帯で事故4倍増」というテーマだった.この記事から,以下の, 米道路安全保険協会(IIHS) の研究の概要について知った.

 「運転中に携帯電話を使用すると、負傷して病院へ運ばれるほどの衝突事故を起こす確率が4倍に高まる――米道路安全保険協会(IIHS)が12日(米国時間)、このような調査結果を発表した。」
( Hot Wired 7/15, Excite エキサイト ニュース. この調査結果に関するIIHSのニュースリリースの原文ははこちら. 関連する詳細な記事は IIHS Status Report July 16 2005 (英文) をダウンロード.調査結果の British Medical Journal に発表された論文(英文) はこちらをダウンロード. )


エキサイト ニュースから,引用すると,以下のような,非常に明解な方法で調査されている.
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 研究者たちは、携帯電話の通話記録を用い、実際に衝突事故を起こす前の10分間における携帯電話の使用と、同じドライバーによる1週間前の運転の際の携帯電話の使用状況とを比較した。

 調査対象となったのは、パース(オーストラリア、ウェスタンオーストラリア州)の、携帯電話を所有しているか使用している456人のドライバーで、2002年4月~2004年7月に自動車で衝突事故を起こして救急処置室に運ばれたことがある人々だ。

 事故発生前10分間の各ドライバーの携帯電話の使用状況と、事故が起こらなかった前週の同時刻の状況とを比較した。この調査では、各ドライバーが事実上、それぞれの対照群となっている。

 IIHSはこの調査を米国で実施しようとしたが、電話会社から通話記録を入手できなかったため断念した。通話記録が入手できたウェスタンオーストラリア州では、2001年以降、携帯電話を手にした運転が禁止されている。
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 場所が,オーストラリアに限られていること,サンプルが 456人であることで,データがやや偏っているという指摘はあると思う.


 人間の「見る,聴く,話す」という活動の間には,脳の情報処理において相互作用があることは,心理学,認知科学,脳科学等の分野では知られている. 特に,「話す」という活動は,一般に考えられている以上に,脳の中で色々な情報処理が行われる.「話す」ことは,脳の言語野だけでなく,運動に関わる部分も使うのである.また,「見る,聴く,話す」という活動の相互作用は,手足の動作にも影響していることも,生理学,スポーツ科学の分野では知られている.
 つまり,脳における「情報処理の並列性」には,ある種の「限界」あるいは「弱点」があると考えられている.

 今回のIIHSの研究の結果は,音楽をBGMとして聞き流すことは運転動作には大した影響がなくても,電話等で他者と何かの話題について「聴く,話す」という活動が,脳の処理において,運転動作に大きな影響(反応が遅れる,動作が不正確になる等,事故の確率を高くするような影響)可能性があるということを,間接的に示していると思う.

 上記の仮説にもとづいて,ある種の会話==通話が,運動の反射や正確さに与える影響を定量的にテストする実験をすると,もっと色々なことが判るだろう.
 (自動車の運転よりも航空機の操縦の方が影響が重大なので,もしかすると,米国の空軍,海軍では,既にそのような定量的なデータを持っているのではないかと思う.)


 結局のところ,人間の脳は,「話しながら,他の動作を充分に俊敏に行うようには設計されていない.」と考えるべきなのではないだろうか?

  
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