Dr. Jason's blog

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ナノ粒子の健康への影響 市民シンポジウム「ディーゼル排ガスと健康」

2005-04-25 | Environment
 4/24の午後は, 酸性雨調査研究会 日本環境学会 の共催による,市民シンポジウム「ディーゼル排ガスと健康」に参加した.

パンフレットによると,
「自動車メーカーは自動車NOX・PM規制の対処方法として、ディーゼル燃料の高圧噴射化をすすめていますが、このことによつて排気ガス中のPMが、人の目に見えないナノ粒子となり、人の健康に新たな悪影響を与える可能性も指摘されています。」
ということがテーマの背景となっている.

講演は以下の4件だった.

1) 米国毒性学会(3月)報告: ナノ粒子研究の世界的な動向
  島田章則 鳥取大学獣医病理学教授
 
2) ディーゼル微粒子の呼吸器及び生殖器等への影響
  嵯峨井勝 青森県立保健大学健康科学部教授

3) 短期的健康影響を明らかにする疫学研究の動向
  山本英二 岡山理科大学総合情報学部教授

4) 常時監視データーからみた東京の画的汚染
酸性雨調査研究会/日本環境学会プロジェクトチームによる報告


1) の島田先生の講演は
 a) 呼吸器系の構造と機能の復習
 b) ナノ粒子の概要
 c) 米国毒性学会の報告
 d) 14nmのナノカーボンが肺胞の血管壁を突破した実験の報告
というもので,大変よくまとめられていた.c) では,米国ではすでに,ナノ粒子の毒性について様々な可能性が具体的に指摘されていることが報告された.d) では,マウスでの実験で,14nmのナノカーボンの粒子が肺胞の細胞壁(肺胞上皮細胞,基底膜,血管内皮細胞)を通りぬけた様子,赤血球の周辺にナノカーボンが付着した状態などの,電子顕微鏡写真が示された.
 島田先生は,獣医学がご専門であり,ナノ粒子に加わる力,ナノ粒子の肺胞血管壁突破のメカニズムの詳細や,突破される粒子の大きさの閾値については,今後の研究課題となっている.
 ウィルスの大きさは,だいたい20nm-250nmであり,その殆どは,空気感染で容易に血管内に侵入するのだから,14nmのナノ粒子が肺から血管に入っても当然かもしれない.(ヘルペスやHIVのウィルスがちょうど100nmのオーダである.)
 この発表を聞いて,神様がほ乳類の肺を設計したときには,ウィルス以外の100nmオーダーの粒子は,自然の大気中にはほとんどなかったのだろうと思った.
 
2) の嵯峨井先生は,ディーゼル微粒子の生体への影響の研究の第一人者である.国立環境研から青森県立保健大学にうつられてからの研究だけでなく,10数年前の議論や,大気汚染訴訟での被告側とのやりとりなどについてもお話があった.

3) の山本先生からは,日本の環境関連分野での疫学研究の弱さが指摘された.

4) の酸性雨調査研究会/日本環境学会プロジェクトチームからは,1985-1995年の,東京都周辺の2次元的に広い範囲における,大気汚染状況についての分析が報告された.

このままいくと,高圧噴射の軽油ディーゼルは,ちょっとあぶなくて使えないのではないかと思う.(排ガス中の粒子が100nm以下では,普通のフィルターなどの現在の技術では排気を制御することはできそうもない)

 市民シンポジウムということで,一部冗長な説明,工学的に不十分な考察もあったが,全体としては,勉強になったシンポジウムだった.

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1 コメント

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報告ありがとうございました (けいすけ)
2005-04-27 16:04:02
僕のブログで紹介した集会の報告なので、とても参考になりました。ありがとうございます。「山本先生からは,日本の環境関連分野での疫学研究の弱さが指摘された」とあり、僕自身そう感じていたところなのでリンク先を見てみましたが、どうも山本先生というより、共著の津田先生が、この話題については主体のようですね。取り寄せられるものは読んでみようと思います。
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