霊の「関東……もとい、長州ウォーキング」

「関東歩き旅」の続編で、「長州歩き旅」を始めました

第9回「防府能」

2011年12月11日 | 能楽鑑賞

2011年12月11日(日)
今年8月の「山口薪能」以来、久し振りの能楽鑑賞に出かけてきた。関東に居たときは、例えば毎週でもどこかの能楽堂で自由に能を楽しめていたのだが、いかんせん山口の田舎では、年に数回程度しかその機会が無いのは寂しい限りだ。
山口から関東に転居してすぐは、気軽に超一流の芸術に触れることのできることに大きく感激したものだが、しばらく居る間にその感激も次第に薄れてしまい、再度、山口に帰ってみて改めてその落差に落胆してしまったのだ。そういう意味で、関東に住んでいる人はある意味幸運なのだが、果たしてどれだけの関東人がそれを実感しているかどうか。ま、仮に実感していたとしても自ら実行しない人が、私の周りにも多くいた訳だがネ。

ともあれ「防府能」だが、以前は防府天満宮で「薪能」が奉納されていたのが、10年で終わってしまった後にこの催しが始められたと聞いている。能楽があまりメジャーな芸術ではないこの地で、隔年開催とは言え既に9回も継続されたことも驚きだが、ひとえに、日本でも数少ない女流能楽師の長宗敦子師(防府市在住)を始め、観世流の「防長閑祥会」の方々による多大なご尽力があってこそと思う。
室町時代から現代まで延々と600年以上も続いてきたこともさることながら、日本人特有の感性を「静の中の動」として観衆の想像力に訴えるという、世界でも他にあり得ない完成された芸術を、何とか後世にも伝え続けて欲しいものだ。


演目は次の通り(敬称略)。
■解説 稲田秀雄(山口県立大学教授)
■独吟「葛城」 三輪修太郎
■舞囃子「高砂〜八段之舞〜」 長宗敦子
■狂言「口真似」 茂山良暢
■仕舞「笠之段」 津田和忠
   「網之段」 関根知孝
■能「蝉丸」 関根祥丸、関根祥六、福王知登、茂山良暢

以下、感じたことを幾つか書いてみる。…多少の辛口はご容赦を。
・稲田教授の解説は、能楽の初心者にとってはそこそこ参考になったかも知れない。…が、逆に、初めて能楽を鑑賞する方にはマナーとして事前に予備知識として入れておいて欲しかった内容であり、更に、全部の演目について触れられたので結局焦点がぼやけてしまったように感じた。教授が、是非今日はここに注目して欲しいと思った内容に絞って頂いたほうが良かった。『まぁ~』や『えぇ~』の口癖や「自己笑い」ばかりが気になってしまい、もしこれが大学の講義だったら、オイラは聞きたいとは思わない。
・長宗敦子師の「八段之舞」は、以前見させて頂いたときよりも「舞のキレ」と言うのか或いは「舞さばき」と言えばいいのか、一つ一つの舞の所作がキリッと決まって、とても気持ち良く感じた。大変失礼ながら、お年を経るに従って、却って軽快かつ優美な舞に感じられるのはどうしてでしょう?
ただ、謡の部分はやはり女性の限界なのかどうか、謡が囃子方に負けてしまう部分もあるのは仕方がないのでしょうか。
・茂山良暢師の「口真似」は、やはり流石はプロだと唸らせる朗々とした台詞回しで、PA(拡声装置)が一切無いステージであっても、これだけ大きなホール内に響かせることができることを再確認できた。
・そしていよいよ「蝉丸」だが、特に前半部分で、平成5年生まれの関根祥丸師演ずるシテツレ(蝉丸)と昭和56年生まれの福王知登師演ずるワキとの、若手コンビによる主従の掛け合いの、何と爽快でありつつも荘厳なことか。例えまだ若年であっても、厳しい能世界の研鑽を積んでこられた方達の凄さを感じる。この対比もあって、後半、関根祥六師のシテ(逆髪)の演技が、「姉宮」というよりも「老女宮」に感じられてしまったのはちょっと皮肉ではある。ま、それは、オイラの感性が未熟だと言われれば、その通りだが…。
囃方では、曲の全般を通して、大鼓の白坂保行師が相変わらず通りのいい鼓の音と合いの手を聞かせていただいたのに比べて、笛の音色と響きが今一だったのは残念。
・観客の様子はどうだろう。悲しいかな、演能の真っ最中でも平気で自分の荷物を出し入れして『シャカシャカ』と平気で雑音を出しまくったり、ヒソヒソと隣同士でお喋りをはじめたりと、観客マナーはかなり最低のレベルであったのはここらでは仕方がないのかナァ。
おまけに、シテが揚幕に去るやいなやの盛大な拍手には、ちょっと面食らってしまった。ここは、姉弟が『かすかに聲のする程聞き送り、顧みおきて泣く泣く別れ』るところだから、その別れの悲しさ切なさに暫しの間浸ると共に、姉弟のその後の行く末を、観客それぞれの感性で案ずる時間である筈と思うのだが、間髪をおかない拍手でそれを見事に打ち消されてしまった。思わず拍手をするのを忘れてしまうほどの感動は、皆さんには無かったみたいだ。
ただ、関東で能を鑑賞した時は、多くの観客が、演能後に囃方が舞台を下がる頃になってようやく思い出したように拍手をしていたところ見ると、オイラの感じ方もそう違ってはいないと思うのだがネ。
・しかし、防府市公会堂の客席の狭さや窮屈さはどうにかならないものかねぇ。建物自体もかなり古いとは言え、内部だけでも改装して欲しいものだが、今の防府市長に文化や芸術を理解してもらうのは………無理だろうなぁ~



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