今日の日経新聞に次のような記述がありました:
日経新聞・朝刊『低コスト投信こう活用 長期運用だと差は歴然』(2018.3.24)
アクティブ型投信の場合、コストが多少割高でも運用成績そのものがよければ補える。
ただ長期ではコスト負担を補えないことも多い。
中には長期で指数を大きく上回る投信もあるが、問題は好成績の投信を事前に選ぶことが難しいことだ。
投資助言会社イボットソン・アソシエイツ・ジャパンの小松原宰明最高投資責任者は20年以上の運用履歴がある日米の投信について、成績が指数の動きを上回るか下回るかを示す「アクティブリターン」に継続性があるかを調べた。
しかし「日米ともに前半10年と後半10年の成績にはっきりした相関はなく、過去の成績からだけでは将来の成績は予想しづらい」(小松原氏)という結果だった。
「金融機関などプロは運用体制を含めて実力を総合的に見て判断するが、個人投資家には難しい」
ただ、私たち個人投資家でも、ダメなアクティブ・ファンド(クオンツ・ファンド)を見分けることは、ある程度は、出来ると思います。
例えば、AI日本株式オープン(絶対収益追求型)という、今話題のAI(人工知能)が資産運用してくれるというファンドですが、
この販売用資料などを見ていくと、「運用体制を含めた実力」をある程度評価できると思います。
このファンドは、分析期間の設定が極めて恣意的だったり、都合の悪い期間を意図的に図に載せなかったり、ファンドの説明が曖昧であったりと
投信の購入者に対してとても不誠実な対応を取っていると、調べていて私は感じました:
- AIモデルの予測力が非常に高く見えるように、見栄えの悪い期間を意図的に図から除外して、見栄えを良くしている
☞ 見栄えの良くない期間を意図的に除外している?( ⇦ 冒頭の見出し図については、この記事の中で詳しく書いています) - AIモデルの予測力が非常に高く見えるように、予測精度評価する期間を、恣意的に選択している
☞ 予測精度評価の不誠実さ - 「全ての年度でプラスのリターンを獲得」と宣伝するために、バックテスト期間を恣意的に選択している
☞ バックテスト期間の設定について - AIモデル以外のモデルの影響が大きいのに、AIモデルの機能を誇大に説明している
☞ AI日本株式オープンは、「AIファンド」ではないかもしれない? / 「トランプ・ショック」は、本当にAI(人工知能)が回避したのか? - AIモデル以外のモデルの影響が大きいのに、そのことをきちんと説明していない
☞ 月報での『非AIモデル(転換点予測モデル)』の扱いについて / 「AI」と「ヒト」の役割分担に関する説明での矛盾点
AI日本株式オープンで使われているのは、「人口知能」??? 販売会社の説明について - AIモデルが「売りシグナル」も作っているように、AIモデルの性能を誇大に説明している
☞ AI(人工知能)は、本当に「売りシグナル」を発していたのか?:AI日本株式オープン - 販売時手数料・信託報酬のステルス値上げを行っており、コスト負けしやい商品設計になっている
☞ 現金比率20%制約の存在について
そして、結局は、その程度であるからこそ(そうせざるを得ない程度の商品しか開発できない上に、そんなものを商品化してしまっている)、
「AIファンド」としてのパフォーマンスは、冴えないのだと思います。
参照:AIの実力評価:AI日本株式 / パフォーマンス評価:AI日本株式
このように、アクティブ・ファンドに関しては、運用手法や検証結果、運用哲学等を積極的に発信してもらえれば、
その情報から、ダメなアクティブ・ファンドかどうか(真剣に投信購入者のことを考えて商品開発・運用を行っているか、行えるだけの実力があるか)
を判断するヒントが多く得られると思います。
もちろん、アクティブ・ファンドは、次々と誕生して来ますし、掃いて捨てるほどあります。
これらをいちいち細かく検討していくのでは、時間がかかり過ぎて、あまりにも非現実的です。
事実、あまり時間が掛けられないので、通常は、表面的な説明を受けて、投資するかどうかを判断しなければならない人が大半だと思います。
だからこそ、上記で見てきたように、運用会社は「イメージ」だけの商品開発・説明をしがちにもなります。
ですから、優良誤認をもたらすような悪質な宣伝文句が横行し、
結果的に「投資して失敗した・思っていたのと違った」と後悔してしまうことが多いのだと思います。
であるならば、「君子、危うきに近寄らず」でインデックス投資をしようと考える方も多いと思います。
ただ、その悪質さゆえに、悪いものをすぐに見分けることも、実は、意外と簡単に出来るように思います。
つまり、販売用資料などにざっと目を通し、「なにか違和感を感じる」と思ったら、
その時点でダメなアクティブ・ファンド(商品開発・運用能力は高くなさそう)だと判断してしまう、ということです。
とても雑な感じがしますが、しかし、往々にして、このような判断だけで十分だと思います。
これだけで、選択肢は、ぐっと減らすことが出来ると思いますし、これが、現実的な対応だとも思います。
☞ ティーブレイク:日経新聞が「AI日本株式オープン」に見せた“忖度”!?
投資してもらうためなら、嘘をついてでも「優れたファンドである」と思わせたい、という非常に強いインセンティブが働く業界ですので
そもそも、嘘の必要がない、まともな商品であれば、こちらがお願いするまでもなく、ポイントを抑えた、過不足のない、明瞭な説明を当然のようにしてくれます。
わざわざ「違和感・不自然さ」を感じさせるような資料なんて作りません。
実際、たいてい、時間をかけて検討すると(ダメなファンドであることを確認するために使った時間や労力は、完全な無駄でしかありませんが)
そんな風に感じた部分には、「鉛筆をなめる行為」みたいなものが潜んでいたりするように思います。
そして、そんな行為を1つ見つけたら、「ある害虫」と同じで、程度の差はあれ、そんな行為が他にも潜んでいる可能性は高いと思います。
図の掲載期間で変なところを見つけて、さらに調べてみたら、予測精度評価やバックテストでも「優良誤認をもたらす行為」が次々と見つかった、という感じです。
これでは、まともな商品など、そもそも開発出来ているわけがありません。
例えるなら、万能細胞の存在を予見し研究出来るだけの「それなりの見識と頭脳を持ったその分野のプロフェッショナル」であったとしても、
それで万能細胞を直ぐに作り出せるわけではないと思います。
もちろん、「あるもの」が欠けていれば、いとも簡単に「万能細胞」を作り出してしまうかもしれませんが、それでは、何の意味もありません。
cf. 運用会社は平然と嘘をつく
と、書いていると、
なんだか、特定のファンドのことばかりを批判しているようにも思われてしまうかもしれませんが、
決してそんなつもりはありません。
AI日本株式オープン(絶対収益追求型)に注目したのは、ちょうど「AI(人工知能)」が旬なテーマとなっており、
また、各メディアでも大きく取り上げられてきた投資信託だったからです。
参考:AI日本株式オープン(絶対収益追求型)関連の記事等の一覧
ですから、たまたま、詳しく調べたのがこのファンドであっただけで、おそらく、他を調べていれば、程度の差はあれ、
どこも同じような問題を抱えているかもしれない(このファンドだけの問題ではない)とも思います。
そして、また、運用会社を批判しているようにも感じられるかもしれませんが、そんなつもりも全くありません。
例えば、AI日本株式オープン(絶対収益追求型)を運用している会社からは、
一方で、「eMAXIS Slim」という商品も誕生している点は、大いに、強調すべきであると思います。
この商品は、「パッシブ運用(インデックス投資)」というひとつの確立された運用スタイルを採用している方にとって、
最適な商品の代表例ではないかと思います。
間違いなく、投資家(顧客)目線に立った、すぐれた商品開発が行われている、素晴らしい具体例の1つであると思います。
このような商品が作られたのは、運用会社と投資家の一体感があればこそだと思います。
であるからこそ、取り組み姿勢を見ていると、本当に同じ運用会社なのか?とも思える、この大きな落差があるという事実は、
私たちにある重要なことを教えてくれているように感じています。
それは、アクティブ・ファンドの「ガバナンスの欠如(情報開示等の欠如など)」であると思います。
少なくとも、アクティブ・ファンドについて、もっと積極的に、責任をもって、情報が開示されるようになれば、
また、投信購入者自身の声に耳を傾け、その声に対して、答えるような機会が出来るだけでも、
ガラッと変わってくるように思います。
これは、皮肉にも、運用会社自身が、上場企業に対して、「コーポレートガバナンス」の重要性を強調しているのと、全く同じ構図であると思います。