一般的なイメージとして、AI日本株式オープン(絶対収益追求型)の特徴を、端的に述べるとしたら、次のようになるのだと思います。
「AIの判断に基づく、AIが主役の、AI運用のファンドです。」
実際、AI日本株式オープン(絶対収益追求型)の担当者の方は、インタビューの中で、次のように答えています:
「朝、出社してくると、今日売買すべき銘柄と株数がパソコンに表示されている。いま『日本AI』の運用担当者の仕事はAIが出してきた売買の指示を確認し実行すること。AIの判断に基づくAIが主役の運用です」
三菱UFJ信託銀行資産運用部の岡本訓幸チーフファンドマネージャーはそう笑う。
- Yahoo!ニュース『「AIファンド」は、人間のトレーダーを駆逐するのか』
とは言え、販売用資料(下図)を読めば(月報とかには明確には書いていないのですが)、AIモデル以外のモデルも使われていることがわかります。
ただ、その図をボーっとみてると、非AIモデルの存在は、多くの「AIモデル」がある中での、ほんのごく一部(❝誤差のようなもの❞)にも見えてきます。
図の出所:販売用資料 https://safe.tr.mufg.jp/cgi-bin/toushin/tsl.cgi/funds/03314172/hanbai_shiryou.pdf
ですから、担当者の方が説明するように、「AIが主役の、AI運用のファンドである」と、視覚的には、見えなくもありません。
それに、AIのことばかり、すごく強調して説明されるので、尚更です。
その上、このファンドでは、対外的な説明がなされる場合、 非AIモデル(転換点予測モデル)は、「ほぼ誤差」のような扱いで、まったく触れられないことが多々あります。
カブドットコム証券:https://kabu.com/item/fund/feature/fund_analist_aijapan.html
ですが、本当にそうだと言えるのでしょうか?
何度か、このブログでも指摘したように、パフォーマンスへの寄与を見ると、「AIファンド」でありながら、
実は、非AIモデル(転換点予測モデル)の影響も非常に大きくなっています。
参照:『×』のない世界 : AI日本株式オープン(絶対収益追求型)
では、なぜ、このように非AIモデル(転換点予測モデル)の影響が大きくなっているのでしょうか?
それは、そもそも、そのように設計されているから、というのが真相のようです(結果を見ていれば、当然、分かることではありますが)。
実際、以下の資料によると、非AIモデルによるウェイト変更の影響度は、「AIモデル」以上に設定されていました:
● 出所:三菱UFJ信託銀行「人工知能を用いたファンド運用システム(特開2018-025851)」p12 特許情報プラットフォーム
※ 資料にある「フラクタルモデル」が「転換点予測モデル」のことです。
つまり、AIモデル単独では、買いシグナルが出ても、「市場連動性」は「小」にしか変更されません。
非AIモデル(転換点予測モデル)単独の買いシグナルが「市場連動性・中」に設定されるのとは、大きな差があります。
AIモデルが「上昇しない」と判断していても、非AIモデルが「上昇する」と判断すれば、AIの判断に反していても、市場連動性が中程度にまで引き上げられるのです。
また、AIモデルが「上昇する」と判断しても、非AIモデルが「上昇しない」と判断すれば、AIの判断があっても、市場連動性は小程度にしか引き上げられないのです。
これは、AIが主役のファンドであるにもかかわらず、そのように設定されていたのです。
ちなみに、実際の運用結果を見てみても、非AIモデル(転換点予測モデル)によるウェイト変更が行われた時期というのは、
市場連動性が、普段よりもかなり大きくなっていました。
この点については、『補足:転換点予測モデルによるウェイト変更が行われた期間について』で、以前、確認していた通りです。
ですから、実際の運用でも、上記資料(図7)にあるような運用が行われているのだと思います。
※ なお、実運用では、「市場連動性・大」の時で、つまり最大で、「先物ショートの比率を半分程度に減らす」という設定になっているようです。
図の出所:カブドットコム証券 https://kabu.com/item/fund/feature/fund_analist_aijapan.html
出所:交付目論見書 https://www.am.mufg.jp/pdf/koumokuromi/252629/252629_20171031.pdf
このように、運用システム上、そしてまた、実際の運用結果をみても、「先物アロケーション戦略」では
「転換点予測モデル」こそが主役であり、そのおまけとして、「AIモデル」があるにすぎないのが実態だと思います。
その点は、特許申請時の「発明が解決しようとする課題」の部分の記述を読んでも、明らかではないでしょうか。
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1(特表2011-503727号公報)は、人工知能モデルを用いて金融取引を行うものであるが、人工知能だけでは十分に市場の動向を解析して機動的に資産を運用することができなかった。
そこで、本発明は、複数の異なるモデルを用いて市場の動向を解析して資産運用が可能なファンド運用システムの提供を目的とする。
- 三菱UFJ信託銀行『人工知能を用いたファンド運用システム(特開2018-025851)』公開特許公報(A)2018.2.15
ちなみに、非AIモデル(転換点予測モデル)が、どのようなモデルなのか理解できるだけの説明は、販売用資料や月報にはありませんが、
特許申請時の資料によれば、「フラクタルモデル」であるとのことです。
これは、テクニカル分析の一種になります。
フラクタルと聞くと、ヨコ文字でちょっと難しそうな感じ?とも思われるかもしれませんが、運用において重要なのは、
「そのモデルで、何をして、それによって、どのようにパフォーマンスにつながるのか?」という部分を理解することだと思います。
その意味で言うと、このモデルがやっていることは、
「テクニカル分析の一種で、トレンド分析とオシレーター分析を行い、トレンド発生時に順張りシグナルを出し、行き過ぎと判断すると逆張りシグナルを出す」
ただ、シグナル生成方法自体は、「ちょっと凝ったことをしてるね」っていう程度の評価になると思いますが、
だから儲かるのかと言えば、そういうものでもありません(もちろん、「学術的な価値」はあるとは思います)。
実際、他のテクニカル・アプローチよりも明らかな優位性があるわけでもなく(もしあるなら、世間一般でもっと使われています)
また、何より、セールスポイントとして積極的に宣伝されるはずですが、実際には、まったく説明がありません。
とはいえ、宣伝しにくいような、変なことをしているわけでもありません(テクニカル分析は、世間一般でよく使われてる、とてもポピュラーで実践的な手法です)。
むしろ、積極的に宣伝することでの「デメリット」の方が大きかったのかもしれません。
というのも、「なぜ、非AIモデルがあるのか、合理的な説明がつかない」という点が、否が応でも、目立ってくるからです。
そもそも、抽出している情報が、『テクニカル』であるならば、AIモデルのインプットデータとして使っている他のテクニカル指標(株価データに基づく情報)と同種のものなのですから、
わざわざ、AIモデルから外出しにしなくても、AIモデルのインプットデータとして使えば良いだけの話です。
本当に、AI(人工知能)を使うことに、運用上、意味があるのであれば、ですが。まさに、この部分が矛盾となってくるように思います。
もちろん、複数の異なるモデルを組み合わせることで予測精度が上がるという考え方もありますが(etc. Bayesian Model Averaging)
AIが主役であるのなら、ウェイト変更の影響度は、AIモデルの方を高く設定すべきです。
それに、もし、そのような考え方を採用しているのであれば、もはや、アプローチ上、これは、「AIモデル」とは呼べません。
ただ、実際の運用では、それ以外の情報も、非AIモデル((転換点予測モデル)の中では、使われているかもしれません。
というのも、『「AI」と「ヒト」の役割分担に関する説明での矛盾点:AI日本株式オープン(絶対収益追求型)』で
AI日本株式オープンでは、「人間の判断(担当者のテクニカル分析などに基づく相場見通し)」も使っているという記述があったと書きましたが、
実は、それが、非AIモデル(転換点予測モデル)のことを言っていたのではないか、とも思っています。
-
日本経済新聞『AI開発にも倫理を、実現するか「人道知能」[2017.3.31]』
-
売買する銘柄やタイミングを助言しているのは三菱UFJ信託銀行だ。運用20年を超すベテラン、岡本訓幸チーフファンドマネージャーがAIと二人三脚でアドバイスする。ただ、重要なことは、AIがすべて決めているわけではない点だ。代田氏は「相場の大きな変わり目をみるのは人間の役割」と強調している。大局の判断が人間に残された仕事だという。
岡本氏は2008年の米金融危機に代表されるような大きな変化が起きないかをみている。全体を見通すひとつのツールとして、株価指数取引のデータをもとにしたチャート分析を使う。
運用の詳細をみると、集めた資金のうち最大24%までは、AIが何を助言しようとも、人間が動かせる設計になっている。
- 日経コンピュータ『ディープラーニングで資産運用、三菱UFJ信託が新たな金融商品[2017.02.06]』
- 三菱UFJ信託銀行では、2016年3月から2017年1月までの10カ月間にわたって、深層学習を使った投資ファンドを試験運用してきた。
検証の結果、人間の判断に深層学習を使った判定を加えることで、人間よりも投資成績が良い結果が得られた
投資ファンドでは、深層学習が判定した結果を、人間の運営担当者にアラートで通知。染谷次長は「最終的な判断は人間の担当者に委ねている。AIの予測モデルに完全に任せるわけではない」と説明する。
※ ところで、AI日本株式オープン(絶対収益追求型)は、「試験運用」の際に、AIによる学習効果によって、『トランプショック』を回避したと喧伝されていましたが、その説明は、本当に正しかったのでしょうか?
ポジションの半分以上は、非AIモデル(人間の判断?)によって制御されていたにも関わらずです。
☞ 「トランプ・ショック」は、本当にAI(人工知能)が回避したのか?:AI日本株式オープン [作成:2018.4.1]
実際、記事には『集めた資金のうち最大24%までは、AIが何を助言しようとも、人間が動かせる設計』とありましたが、
先物アロケーション戦略での先物売り比率の下限が半分程度(50%)、その中程度(半分位?)が転換点予測モデル単独で制御できるシステムなので
この値(最大で24%までは人間の判断だけで動かせる)とも整合的であると言えると思います。
※ 厳密に言えば、「集めた資金のうち」ではなくて、「組入株式のβのうち、25%程度は、転換点予測モデル(人間の判断等)によってリスク制御できる」ということなのですが。
ところで、「人間の判断なのに、モデル?」と思われるかもしれません。
ですが、「景気ウォッチャー調査」(AIモデルのインプットデータの1つとして使用されています)などの、サーベイデータのように
例えば、5人の担当者がいたとして、それぞれに、この先の相場見通し「上昇・ヨコヨコ・下落」を聞き取り、集計して指標化することは可能です。
これを、モデルのインプットデータとして使えば、立派な「転換点予測モデル」(etc. ハウスビュー > 80% =上昇局面)が出来上がります。
とにかく、転換点予測モデルについての説明が全くないので、実運用における、実態はまったく分かりませんが、
ただ、いずれにしても、抽出している情報は、
「転換点予測モデル」=「テクニカル分析」
であるという理解でよさそうに思います。 (仮に、人間の判断が、チャート分析以外も参考にしていたとしても、話の本質は同じままです)
そして、そうであるならば、です。
転換点予測モデルは、AIモデルのインプットデータとして使われている「テクニカル指標」と同種の情報を持ったシグナルにすぎませんので、
運用システムとして、AI(人工知能)が主役であり、そしてまた、本当に意味があるのなら、
外出しするのではなく、AIモデルのインプットデータとして使うべきだと言えるのではないでしょうか?
少なくとも、「AIモデル」自体よりもウェイト変更への影響度を大きく設定するのは、やめるべきだと思います。
では、なぜ、そうはしていなかったのでしょうか?
それは、AI(人工知能)は、「運用上の主役」なのではなく、「販売上の客寄せパンダ」に過ぎないからではないでしょうか?
今の状態を「AIの判断に基づく、AIが主役の、AI運用のファンド」と呼んでいいのであれば、もう、何でもありの世界になってしまうと思います。
明らかに、優良誤認をもたらすような悪質な宣伝であると、私は思います。
「金融商品」であるから許されるのかもしれませんが、一般の商品・製品であれば、問題になっているレベルだとしか思えません。
極端な話、AIモデルの結果を使って、ウェイトを0.1%でも動かせば、これはもう「AIの判断に基づく、AIが主役の、AI運用のファンド」と呼んで販売してもいいのでしょうか?
(なんだか文句ばかり言ってますが、要は、パフォーマンスが冴えないから、こんなにも目くじらを立てている、ということなだけなのですが。。。)
それにしても、こうまでして、AI(人工知能)を運用システムに組み込むことの意義とは、いったい、何だったのでしょうか?
本当に、そう思います。
(「個別銘柄戦略」で使われているというAIも、運用戦略上、ほとんど意味(付加価値)がないと思っているのですが、これは、また別の機会に触れたいと思います)