以前、アクティブファンドや運用会社を選別する時のポイントについて、以下のような記事を書いていました。
☞ 「バフェットからの手紙」に学ぶ、投資信託選びで失敗しないための注意点 / 『“投資信託”文学』にご注意を
☞ ダメな「アクティブ・ファンド」の見分け方 / 日経新聞が「AI日本株式オープン」に見せた“忖度”!?
そこでの視点は「担当者には、少しでもファンドを良く見せかけようとする、非常に強いインセンティブが働く」という事実に注目して、
・ファンドの説明等に『不誠実な対応』(騙すような行為)が1つでもないか?(ゴキブリ理論)
・ファンドの良し悪しを判断するための情報を過不足なく、明瞭に提示してくれているか? 出来ないのなら、何かある。(背理法的推論)
が、チェックポイントとして重要ではないかと指摘していました。
今回は、それとは違った視点で、アクティブファンド、特に、クオンツファンドの良し悪しを判別するポイントについて書いてみようと思います。
最初に注目するポイントは「クオンツのセンス」を見るというものです。
ところで「クオンツのセンス」とは、何でしょうか?この点について、少し詳しく思う所を書いてみたいと思います。
クオンツは、運用に定量的なアプローチを採用していますが、変な話、そういう“テクニック”を使うだけなら、
その流行りの分野の研究室にいる学生さんを連れてくれば、簡単に出来てしまいます。運用なんてまったく知らない子でも出来てしまいます。
ですが、それでうまくパフォーマンスが出せるほど、運用の世界は簡単ではありません。
『高度で先端的な理論や技術を運用に採用している。理論や技術そのものを先駆的に研究している(流行りの研究室の学生さんを最近採用した)』っていう謳い文句だけでは、なんの価値もないのです。
重要なのは、そういった技術を使って、優れたパフォーマンスを出すファンドを多く提供してきたという実績があるかどうか、
ただ、その一点に集約されます。
実績(良好なパフォーマンス)を伴わない「クオンツ・アピール」は、無視して問題ありません。
というのも、クオンツというと、しばしば、頭の良さそうな人たちが出て来て、数式だとか難しそうなものがたくさん並びたてられます。
中には、そういうものに面食らってしまって、正しい評価が出来なくなってしまう人がいるのも事実です。
実は、そうなることを狙って、まるで詐欺師のように、冷静な判断をさせないよう、いろんな言葉を畳みかけている、という面もあります。
ですが、重要なことは、運用の世界での大原則は「結果がすべてである」ということです。
私たちは、芸術作品を買うのではありません。
仰々しい雰囲気の中、それっぽい評論家が出て来て、「素晴らしい芸術作品だ!美しい。人間離れした超絶的技巧だ!!」なんて言ってきたら、
「それで腹は満たされるのかね?」と、さも当然のように言える“場違いさ”が必要です。
私たちが注目すべきなのは『(高度で先端的な)理論や技術』を『パフォーマンス』に変換できるチカラです。
そして、これこそが「クオンツのセンス」なのだと思います。
さて、「クオンツのセンス」を見るときに、注目すべき点はなんでしょうか?
私は、その運用会社が作っている『予測モデル』(リターン予測や局面予測)の作り方・使い方をみると、だいたい判別がつくのではないかと思っています。
なぜなら、「予測」というのは、そもそもが、とても難しいことであり、単に、理論や技術をパッと持ってきてすぐに実用化する、なんてことが出来ないからです。
実用性のあるモデル(=「結果(リターン)が出せる」モデル)を作れる“センス”の有無、
つまりは、クオンツファンドとしての実力の程度が、そこには、如実に現れてくると思います。
簡単な事例で例えると、「円建てS&P500のリターン予測モデル」がイメージしやすいと思います。
円建てですから、素直に予測モデルを作ると
- 現地通貨建てのS&P500のリターン予測モデルを作る
- ドル円のリターン予測モデルを作る
- これらの予測結果を合成して、円建ての予測値を作る
となります。
ですが、これは、非常に難易度の高い予測をしようとしています。「株価予測」+「為替予測」というそれぞれ単独でも難しいことをしているのです。
各モデルの予測誤差を考えただけでもため息がでるのに、それらをさらに掛け合わせるのです。まともな予測値が出るとは、想像し難いと言えます。
そこで、工夫が必要になってきます。
では、どうすればいいのでしょうか?
これが正解というわけではありませんが、例えば、以下のような対応が考えられると思います。
- ドル円のリターン予測は止めて、足元の局面判断(トレンド判断)をするモデル(=将来予測ではない)を作る
- ドル円の足元の局面判断に基づき、それが、今後もしばらくは継続すると予測する(ホワイトノイズ・モデル的な予測)
- ドル円の局面に応じて、ドル建て資産のウェイトへの反映度を調整するパラメータを導入
- 各モデルの予測精度を評価し、精度が低下している局面では、ウェイトへの反映度を低下させられるよう、調整パラメータを導入
ポイントとしては
- 何を予測しようとしているのかを正確に把握し、見た目のカッコよさなどは無視して、その難易度を出来るだけ下げるような設計をしている
- 予測がそもそも上手くいかない場合への対応を用意している
という点になります。(個人的には、「良い予測モデルの設計」とは、出来るだけ予測をしないようにしているモデルである、と考えています)
予測モデルについては、こういった辺りを注視してみると、センスの有無について、掴めることが多いように思います。
(ここから、さらに具体的にどう作り込んでいくかでパフォーマンスに差が出てくると思いますが、その部分についてまでは細かく検討はしなくて良いと思います。その辺の良し悪しが判別できるだけのノウハウがあるのなら、むしろ自分でモデルを作った方が良いです。普通はそうではないので、後は、実働実績のあるファンドをいくつかみて、実際のパフォーマンスを評価してみると、だいたい、この辺の細かい部分の作り込みが上手そうかどうかは判別出来ると思います(運用結果は、ある意味で、本当に正直です)。上手ければ、検討中のモデルも信頼してよいと思います。)
そうではなくて、何の工夫もなく、単に、先進的で高度な技術を活用すれば解決できる、なんて簡単に言ってくる人は、センスを疑います。
なぜなら、今、目の前にある「先進的で高度な技術」が登場する以前には、その当時の「先進的で高度な技術」が存在し、
その当時の目新しい技術を使えば、問題は解決できるはずだと、まったく同じことを言っていたような、当時から何の進歩もしていない連中だからです。
予測モデルの設計(何をどう予測し、それをどうリターンにつなげるのか。上手く行かないときはどうするのか)が良く考えられているかどうか、
ここが何より重要だと思いますし、まさにセンスが問われる部分です。
予測の肝は「どんな技術を使ったのか」ではありません。「どう活用したか」です。
そして、実績というのは、こういう所に現れ、差を生んでくるものです。
小手先の技術論ばかりを目くらましのように並びたて、肝心の「予測モデルの設計」については、その意義と目的をきちんと説明しないファンドなら
最初から、検討の対象外にして問題ないと思います。
例えば、「AI(人工知能)技術を導入することで、高い精度での株価予測が可能となる」などという“学生レベル”の主張をするところは、
往々にして、過去のシミュレーション結果で右肩上がりのきれいな図を作ることだけに集中して、オーバーフィッティングを起こしてしまっています。
(人工知能を使っているのに?と思われたかもしれませんが、インプットデータの与え方などを変えることで、チューニングすることは可能だと思います。
また、以前、収束条件の精度をチューニングしている人を見かけて驚いたこともあります。一般にはあまり気にかけないところで、悪さをして来る人もいるのです)
そして、オーバーフィットさせているので(さらに、手癖が悪ければ、上手くいっていない局面自体を分析期間から除外する)、
シミュレーション上は、上手くいっていない局面がありません(高度な先端技術を導入した効果である!と主張するためです)。
そのため、逆に、モデルがワークしない局面になった時の対応が、システムに組み込まれていなかったりします。
結果として、実運用では、パフォーマンスが悪化してくると、その場その場での改良が頻発することになります。
それも本質的な改良ではないため(その場しのぎの対応に終始)、パフォーマンスの改善には繋がらないケースがほとんどです。
これは、実用性という視点が欠けているところが商品開発を行ったときに、よく起こる“症例”と言えます。
さて、では、この視点でみた時に、AI日本株式オープン(絶対収益追求型)は、どう評価できるのでしょうか。
これをテストケースとして、「クオンツのセンス」の有無についての見方を、次回、考えてみたいと思います。
注目したいポイントは『足元での「安定配当モデル」によるパフォーマンス悪化、及び、その対応方法』です。
この点にフォーカスすると、モデル構築時の設計のちぐはぐさ(=センスのなさ)が浮かび上がってくるのではないかと思います。
また、パフォーマンス悪化時の対応方法にセンスが感じられない理由も明らかになってくると思います(=運用システム全体としてのセンスのなさ)。
今回は触れませんが、日次予測モデル(前日終値から当日終値の変化予測)で、日本のマクロ指標(主に月次データ)をインプットデータに採用している点、
逆に言えば、予測期間のタームを『日次(東京時間)』に設定している点(トレンドを予測するわけでも(このタームではノイズが大きすぎて、そもそもが無理)、新たな情報(ex. 当日夜間の海外指標の発表)が出た瞬間の織り込みを予測するわけでもない)、
つまりは、「AIは短期予測が得意なイメージがある。検証用のデータベースの最小単位が日次だった。そこで、日次予測をすることにした」と考えたとしか思えない程度の思慮のなさ。
これも「センス」の有無(よく考えてモデル設計されているかどうか?)を見る上での評価ポイントになると思います。
☞ 予測精度評価の不誠実さ:AI日本株式オープン(絶対収益追求型)
三菱UFJ信託資産運用情報 2016年6月号 (pdf)
批判的な事ばかり言っている面もありますが、
ただ、私は、ダイエットサプリ商法のような、ダイエット出来ない人の心理を利用して銭儲けしようとする類のビジネス・スタイル
『最新の研究で判明した驚愕のダイエット成分を含むサプリメントをご提供します!』と大々的に宣伝して、
仮に“ダイエット成分”を含んでいたとしても、それを摂取することで、ダイエットに成功するだけの実用性はないサプリを堂々と売りつける商売。
つまりは、今のような投信ビジネスのスタイルではなく、ただただ、実用性のある投資信託を開発し、販売することに注力して欲しいと思っています。
そして、それこそが、健全な資産運用ビジネスの発展につながることだと考えています。