投信メモ

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・『AI日本株式オープン(絶対収益追求型)(愛称:日本AI(あい))』03314172:JP

「トランプ・ショック」は、本当にAI(人工知能)が回避したのか?:AI日本株式オープン

2018-04-01 | 投信メモ:AI日本株式オープン

 

 

AI日本株式オープン(絶対収益追求型)の「特長」を示す具体例として、しばしば、次のような話が出てきます:

三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部 国内株式クオンツ運用課 チーフファンドマネージャー岡本訓幸氏

AIは、人間では気づかないささいな変化を捉えることも得意です。
一例を挙げると、ブレグジット(英国のEU離脱)の際、AIの運用はあまりうまくいきませんでした。ただ、その経験を踏まえて、米国大統領選でトランプ大統領が勝った当日、日本の市場は下落しましたが、AIは前日に『すべてヘッジせよ』というシグナルを出していました
おそらく、市場心理のデータのなかにフルヘッジすべき要因が潜んでいたのでしょう。人間だとなかなか見つけられない、ちょっとした変化をAIは読み取れていたのだと思います


 
 
 
 
その他のメディアでの紹介:
  • WBS『個人向け販売開始 AIが運用する投資信託[2017.02.01]
    • 試験運用では去年6月のイギリスのEU離脱決定の直後には損失を出したものの11月のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が優勢となり、株価が急落した局面では損失を回避するなど、自ら学習するのも大きな特徴です。
  • TBS『AI運用の投資信託販売、国内大手銀行で“初”[2017.02.01](リンク切れ)』
    • 試験運用でAIは、去年6月のイギリスのEU離脱では損失を出したものの、そこから「学習」し、11月の「トランプショック」では損失を回避したということです。

      <関連リンク先> NewsPicks | 個人ブログ
  • J-MONEY 2017年冬号『AIを投資判断や株価予想に活用 技術との関わりでは人の判断が重要に[2017.01.27]
    • 岡本氏は、「11月8日の米国大統領選挙を例に挙げれば、トランプ氏の当選確定直後、日経平均株価は一日で1000円近くの下げ幅を記録した。当選が確定する前日、AIはフルヘッジのシグナルを出していたことから、株価急落の衝撃は吸収できた。翌日以降、株価は国内投資家の予想に反して大きく上昇したが、AIは株価が上昇を始める直前に先物を買い戻すべきとのシグナルを出し、トランプ相場による株価上昇局面に追随できた」と語る。
  • 日経新聞『「市場が気付かぬ有望株発掘」 AI投信の運用力は[2017.04.02]
    • 昨年3月からテスト運用を続ける中で、本領を発揮したのが米大統領選の波乱相場だ。
      昨年11月8日に日経平均株価は1000円近く下落したが、その前日にAIは先物の売りを推奨するシグナルを出していた。投資家の心理(センチメント)を示す指標を読み取って警告を発したのだ。その翌日には「マクロ経済指標に対して株式は売られすぎだ」とのシグナルを株価が上昇を始める直前に発し、先物の買い戻しに動いて相場上昇にうまく乗れた。
  • 週刊エコノミスト『特集:AIで増えるお金と仕事 2017年6月27日号
    • 英国の欧州連合(EU)離脱や米トランプ大統領の当選などのイベントの際もAIが過去のデータを基に学習し、売りか買いか判断し、それを基に株価指数先物を売買して利益をあげる。
      AIには深層学習機能が備わり、自ら学習して今の運用手法が適切かどうかを考え、必要な場合は新たな運用手法を生み出すという。
 
 
 
 
という書き出しで、前回は、そもそも「トランプ・ショックを回避した」という評価は、眉唾ではないかと書いていましたが
 
 
 
ここでは、少し視点を変えたバージョンで、続きを書いてみたいと思います。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
AI日本株式オープン(絶対収益追求型)の「先物アロケーション戦略」は、
 
   「AIモデル」+「非AIモデル:転換点予測モデル(フラクタルモデル+人間の判断:テクニカル分析)」
 
の2つから成り立っていて、基本は「マーケット・ニュートラル」な状態を保つものの、これらのモデルが「買いシグナル」を出すと、
 
βリスクを取りに行く仕様になっているようでした。
 
 
 
しかもです、「AIモデル」が単独で買いシグナルを出しても、市場連動性は「小」にしかなりません。
 
そして、市場連動性の半分以上は、「転換点予測モデル(= テクニカル分析)」によって、制御されていたのです。
 
つまり、「先物アロケーション戦略」のメインは、転換点予測モデルといえる状態だったのです(下図参照)
 
 
 
 ● 出所:三菱UFJ信託銀行「人工知能を用いたファンド運用システム(特開2018-025851)」p12  特許情報プラットフォーム
 
 
 
 
    • ただ、重要なことは、AIがすべて決めているわけではない点だ。代田氏は相場の大きな変わり目をみるのは人間の役割」と強調している。大局の判断が人間に残された仕事だという。
      岡本氏は2008年の米金融危機に代表されるような大きな変化が起きないかをみている。全体を見通すひとつのツールとして、株価指数取引のデータをもとにしたチャート分析を使う
 
 
 
 
また、実際の運用を見ても、確かに、転換点予測モデルの影響は、大変大きなものになっていると言えます。
 
 
 
 
 
 
 
 
だとすると、です。とにかく、試験運用時に、「トランプ・ショック」を回避したという事実はあるようですが、そもそも
 
  AI(人工知能)の学習効果(英・国民投票時の失敗を経験したこと)によって、回避した
 
と説明できるような仕組みだったと言えるのでしょうか?
 
 
 
 
というのも、「トランプ・ショック」を回避できたのは、
 
  「AIモデル」+「非AIモデル:転換点予測モデル= テクニカル分析
 
の2つが、ともに、「買いシグナル」を発していなかったからなのです。「AIモデル」単独によるものではありません。
 
 
 
それに、もしも、「AIモデル」が間違って買いシグナルを出していたとしても、市場連動性は「小」にしか高まりませんので、
パフォーマンには大きな影響はなかったと思います。
 
 
一方で、「非AIモデル:転換点予測モデル(= テクニカル分析)」が間違っていれば
市場連動性は「中」にまで引き上げられていたので、それなりの影響が出ていたと言えます。
 
 
 
 
 
どこからどう見ても、「トランプ・ショック」を回避できた、主な理由は、

  「非AIモデル:転換点予測モデル(= テクニカル分析)
 
が買いシグナルを発しなかったおかげではないでしょうか?
 
(つまり、テクニカル分析でみて、上昇トレンドが発生していると判断できる局面ではなかった)
 
 
 
 
 
このような状態にありながら、「AIモデルのフルヘッジ・シグナルによって」などと表現するのは、誇大広告そのものではないでしょうか?
 
一般の商品・製品であれば、問題になるような内容だと思います。
 
 
もしも、私が、次のような商品(自称:AIの判断に基づく、AIが主役の、AIが運用するファンド)を作っていたらどうなるでしょうか?
 
『基本はキャッシュポジションを取り、AIモデルによる買いシグナル(ファクターは逆張りシグナルのみ)で、ウェイトを0.01%だけ動かす仕様の運用を行う。
(これとは別に、私の独断で買いシグナルを出し、ポジションを大きく動かしていきます。これを「転換点予測モデル」と呼称します。)』
 
※ コメント:
ところで、AIモデルに使用するファクターを「人の判断に基づき、逆張り指標のみにする」などという行為は恣意的であり(事実上、ほぼ人がモデルを決めている)、そのようなAIモデルの使い方は間違っていると思われたかもしれませんが、AI日本株式オープン(絶対収益追求型)的には問題ないアプローチではないかと思います (cf. 予測精度評価の不誠実さ:AI日本株式オープン(絶対収益追求型))。

ただし、今のところは、分析にあたってどの範囲までのデータを使わせるかは、人間の力が必要だという。市場への影響度を考えずに手当たり次第にデータ取得してAIに分析させようとすると、むしろ精度は落ちてしまう。将来的には世の中のあらゆるデータを投入しても正しく分析できるようになるかもしれないが、現在のAIの性能では不可能だ。
そこを勘違いして「とりあえず全データを分析させよう」とすると、思うように成果がでないため、AI活用時には注意すべきだと岡本氏は指摘する。
 ※ 三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部 国内株式クオンツ運用課 チーフファンドマネージャー岡本訓幸氏
 
 
これですとトランプショックのような急落発生時の直前は、絶対に買いシグナルは出さず(=急落直前だけを切り出せば、直前に「売りシグナルが出ていた」と言い張れます!))、ある程度下げたところでは、買いシグナルを出します。
 
この状態で、『トランプ・ショック発生時に、AIモデルがフルヘッジシグナルを出した(=買いシグナルを出さなかった)おかげで、損失を回避出来ました。しかも、その後のトランプラリーにも(逆張りシグナル点灯で)見事に乗れました!AIモデルがやってくれました!!!』と説明したら、どうでしょうか?
 
誇大広告もいいところのような気がします。
 
 
 
 
 
ただ、それが「金融商品」であるのなら、問題にはならないようです。
 
でも、問題にはならないからといって、やはり、やって良いことだとは思えません。
 
事実、このような状態こそが、投資信託(アクティブファンド)、ひいては、金融機関のビジネスのあり方そのものに対する不信感に繋がっているように思います。