「夢ヶ崎(ゆめがさき)はさ、真っ直ぐ私の顔を見て話すよね」
友人の石動巫女姫(いするぎみこひめ)は僕に当然のことを言う。
「そりゃ、人と話す時は顔を見て話すことが多いけど」
もっと言うと目か。
会話の基本として、幼い頃から躾けられていたことだし。
そんなに大層なことではない。
「でも、私って巨乳じゃん?」
「は?」
「美巨乳じゃん?」
言い直しやがったこの女。
何が言いたいのだ、話が見えない。
「男の人は大体私のおっぱい見て話すから、夢ヶ崎は変わってるなって」
「は?」
「ソレ何、おっぱいに興味がないの? それとも我慢してる?」
「我慢してるんだよ悪いかコノヤロウ」
正直な思いだった。
この夢ヶ崎懐疑(かいぎ)、人一倍まともでありたい。
そして同じくらいおっぱいが大好きである。
石動は巨乳だ。いや美巨乳だ。
だからこそ、僕は意図的にそこを避けている。
顔と顔を突き合わせて話すべき、という言い訳をしながら。
「なるほどダサいな」
「ダサい!?」
「いや、失礼。夢ヶ崎なりに気を使ってるんだろうけど」
「そりゃ最低限気は使うだろ。おっぱい見て話すわけにもいかないし」
と言うと、石動は語り始める。
「人間の皮膚って全身繋がってるよね。
じゃあ、顔とその他の境目ってどこだろう。
例えば、頭皮は顔と一緒、みたいな。
デコルテまでは顔、とか言う人もいるよね。
私の場合――『おっぱいまでは顔の一部』」
こいつ、強いな!
「だから、夢ヶ崎に気を使わせてるなら申し訳ないなって。
私は全然気にしてないし、何なら自慢のおっぱいだから。
服の上からなら全然見てもらって構わないよ」
人によってはコンプレックスにさえなりかねないところを。
石動は軽々と、自分の美点だと言ってのける。
「し・・・しかし、女子のおっぱいを見ながら話すなど・・・」
「私がいいって言ってるんだから、いいんじゃないの?」
「いい、のかなぁ?」
「他の人は知らないけどね。私は全く気にしない」
公認が下りてしまった。
これで僕は石動と話す時はおっぱいを見ながら話すことが確定した。
ありがとう、石動巫女姫。
早速僕は視線を下へとおろす。
「尚――ワンチャンあるとは思わないこと」
デカい釘を刺された。
はい、僕ら仲のいい友達ですもんね。