何が悪かった?
どこを間違えた?
誰の責任だ?
――非難する声は、所詮幻聴と分かっている。
そう、今、この場に彼を責める者はいない。
皆、死んでしまったから。
無残に刃こぼれした名剣を地面に突き刺し、息を整える。
そして、無駄と分かっていても生き残った者を求めて周囲を見渡す。
中堅クラスの魔物、3体の死骸。
それ以上の力を持っていたはずの――部下3名の遺体。
どうして、こうなった?
例えば。
勝負において意味のない仮定の話だけれど――例えば。
相手が3体でなく1体で、こちらもパーティの中の誰かひとりだった場合。
1対1の戦いだった場合。
恐らく、全員が全員、8割方勝てるくらいの力はあったはずなのだ。
しかし、結果はこの通り、全滅寸前。
勝つには勝ったが、パーティ中最強のリーダーひとりが生き残ったに過ぎなかった。
国の宝とまで呼ばれた3人を引き連れての初戦が、この有様だ。
これはもう、事実上の負けと言っていい。
ここまでの失態は、初めての経験だった。
類稀な膂力を持つ屈強な剣士。
彼は、命令の意図を理解するだけの知力が足りなかった。
最初に単独で魔物の群れに突っ込んだのは彼であり、不運な一撃を受けた時点で勝負は決まった。
――だから、あれだけ注意しろと言ったのに。
自身では回復手段を持たない彼が力尽きるのは、そのわずか数秒後だった。
教会の敬虔な信者であるシスター。
彼女の治癒術は世界最高峰だった。だが、その心は意外なほど脆かった。
目の前で瞬殺された剣士に、回復魔法をかけることもできず、ただ呆然としていた。
信頼を寄せる者が目の前でいとも容易く死にゆくという現実を受け入れ切れなかった。
結果、この戦いで回復魔法は一切期待できないものとなった。
全ての攻撃魔法を極めた賢者。
彼は、そのわずかの間で究極の選択を行った。
つまり――剣士を殺すため密集した魔物の群れへの魔法攻撃。
それは、もしかしたら助かったかもしれない剣士ごと焼き払うことを意味した。
彼の冷酷とも言える判断で、パーティは全滅を免れたと言っていい。
しかし、唯一の誤算はその一撃が魔物にとって致命傷になりえなかったことか。
最後に――万能の勇者であるリーダー。
彼は、剣士の命令違反が理解できず。
シスターの心が折れたことが理解できず。
賢者の冷酷すぎる判断が理解できなかった。
自分なら、ひとりで無駄に突っ込むこともなかったのに。
自分なら、素早く回復魔法を使えたのに。
自分なら、剣士を諦めることなく対処できたのに。
役割を分担し、任せた者が、全て自分以下の能力だった。
どうして、皆がこんなにも低能なのか、理解できなかった。
何よりもそのことに唖然としてしまった。
そしてリーダーが正気に戻ったとき、3人は魔物に囲まれており。
個々が肉弾戦で突破するしか道は残されていなかった。
リーダーとしては、特に問題ない局面。
しかし、遠距離からの支援魔法と魔法攻撃が専門の者にとって、それはもはや詰みであった。
そして賢者は、またも冷酷な判断を下す。
――自身への、痛みを伴わない攻撃魔法。自害である。
次に、あまりのショックに腰を抜かしたシスター。
ようやく状況が理解できたらしいが、もう遅い。
魔物の一撃で、あっけなく絶命する。
これで、あっという間に1対3。
何だ。
結局、こうなるのか。
いつも通りの戦闘じゃないか。
部下を引き連れることで、安全になると思っていた。
負担は軽くなり、楽になると思っていた。
――彼は、パーティを、自分と同等の者が4人になると考えていたのだ。
「だから、俺は悪くない」
3体の魔物を倒し終えた男は、呟く。
「何で皆、こんなに愚かなんだ。脆いんだ。弱いんだ」
弱いヤツが足を引っ張るのが、悪いんだ。
そんなヤツは、死んで当然なんだ。
だから――悪くない。
ぶつぶつ、ぶつぶつと、誰も聞いていない独り言。
初めて味わう絶望に、とても耐えきれそうになかったから。
俺は悪くない。
俺は悪くない、と――呪文のように、そう繰り返した。