(み)生活

ネットで調べてもいまいち自分にフィットしないあんなこと、こんなこと
浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

ep第47話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2018-03-19 12:58:23 | ガラスの・・・Fiction
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5月も半ばを過ぎ、舞台「NATASHA」の舞台稽古もいよいよ熱を帯びていた。

"日本初上陸『NATASHA』の世界とは?"
"舞台『NATASHA』徹底解剖"
"『NATASHA』を演じる魅力的な俳優陣を一挙紹介!"

TV、WEB、雑誌、ありとあらゆる媒体を使った宣伝効果もあり
6月の舞台チケットは平日昼公演数回をわずかに残し
殆どの回が既にソールドアウトとなっている。
記者会見直後こそ、マヤと里美の過去のラブロマンスに
興味の矛先を向けるメディアはいたが、
その後は、舞台稽古の取材や積極的なキャストのTV出演など
徹底した情報公開作戦が功を奏し、驚くほど二人の過去を
気にする風潮は消えていた。
もっとも、裏では当然速水真澄の剛腕があったことはいうまでもないのだが。

「今の時代は、上から圧力で抑えることに限界がある」
それこそ昔であれば裏社会の力を使うこともいとわなかったであろう、そして
その手段が何より有効的に働いたであろう。
しかし時は流れた。
一億人が全員情報発信の拠点となりうるこの時代
旧態依然としたやり方に限界が来ていることに気付かず
大衆を敵に回した結果想定以上のダメージを食らうかつての大物も多い。
「力を使わない手もある、しかし力はなければ使えないからな」
世の中の目を過剰に気にしすぎて小さくなるつもりはない
いざという時はどんな汚い手でも行使するのにためらいはない
「何か不審な動きがあったらすぐに報告するように」
いつものように人目を避けた地下駐車場で聖からの報告を受けた真澄は
目を合わせることなく受取った封筒を小脇に抱えて車に戻った。

マヤ、そして里美を週刊誌記者が追っていることは気づいていた。
どんな些細な現場でも写真を撮られ、勝手にキャプションをつけられれば
一気に噂は加速する。
むしろ誰よりも確実な目撃者として、二人の間になんの
関係もないことを知らしめるために、真澄はあえてそれらを排除することなく
泳がせていた。
もちろん、マヤの日常生活は全てマネージャーの大原に完全に管理させ、
家と稽古場の往復には常に同行させている。
たまにある役者仲間との食事会は必ず複数人数で大衆的な店に限定し
そこに里美がいることもあればいないこともある。
完璧なまでの「普通」の演出に、週刊誌もスクープを取りあぐねているようだ。

その代わり・・・・・
ここしばらく真澄はホテル暮らしを続けている。
大都芸能所有の社宅マンションの存在は業界内では知られた話で
そこに社長として出入りする姿が見られても問題があるわけではない。
もっとも出入は完全に地下から、その姿を見られること自体が皆無なのだが。
念には念を、
自身のプライベートなど、マヤの演劇に賭ける情熱の肥やしになれば本望だ。
薄く開けた窓ガラスから、フーーと薄い煙を吐いた。


その頃稽古場ではーーーーーー

「今日初めて同じシーンの稽古だったんだけど・・・」
「どうなの?やっぱりさすが北島マヤって感じ?」
「うん・・・、それよりやっぱ里美さんよ!なんてさわやかでかっこいいんでしょう!」
「きゃ~~~、あなたそういえば里美さんと絡みあるわよね、うらやましい!!」
「えへへへへ。」
「でもどんな気分なんだろうね」
「そうよね、元カレと共演って・・・。そもそも
里美さんと北島さんってほんとにつきあってたの?」
「付き合ってたって言っても、北島さんは高校生の時だし、
 すぐに例のドタキャン事件で破局したんでしょ。」
「ドタキャン事件?」
「あ、そうか、あの事件は大都の力ですぐにお蔵入りになってたんだっけ」
里美と付き合っていた頃、北島マヤは母親を亡くし、
そのショックから付き合いのあった暴走族仲間と
姿をくらまし、結果主演舞台の初日に穴をあけたのだ、
当時その舞台に出演していた劇団の先輩女優から聞いたのだと
興奮気味に話をする。
「噂によるとその時彼女、飲酒もしてたらしいのよ。」
「え??当時ってまだ未成年でしょ。あんな純朴そうな顔して意外!」
「でしょ?でも、大河ドラマで里美さんと共演してる時も
 結構公私混同で演技に集中出来ないことがあったみたいで」
「そうだったんだ・・・・。ちょっと見る目変わっちゃうな~」
「でもさ、私ちょっとびっくりしちゃったんだけど、愛都ちゃんってすごいわよね」
「私も見た!小っちゃいころから演技力は有名だったけど、生で見てちょっと
 鳥肌立っちゃった!」
「正直、私あのまま愛都ちゃんの大人シーンも見てみたいな・・なんて」
「ちょっと!北島さんに失礼じゃない?」
「ゴメンゴメン。」
「さ、人の事より自分たちのことがんばりましょ!」

ケータリングルームから人の気配が去ったのを確認して
ゆっくりと松多愛都はロッカー室から出てきた。
「・・・信じられない」

物心つく頃には既に演技の仕事をしていた愛都にとって
北島マヤの子役というのはそれほどのプレッシャーではなかった。
周囲の人々はあの天才女優の子ども時代ということに
かなり興奮と緊張をしているようだったが、
勉強のためと見に行った『紅天女』も、確かに世界観はすばらしいもの
だったが、正直自分でもできるのではないかと思ったくらいだ。
"時代劇だから言葉が難しいってだけで、要は悲恋物でしょ"
有象無象の自称"役者”達とたくさんの共演経験を積んでいるだけに
確かに北島マヤがそこら辺の二流女優とは違うということは
稽古が始まってすぐに理解できた。
"確かにセリフも完璧、雰囲気もナターシャそのもの・・・って感じはするけど"
正直圧倒的なオーラを感じない、愛都はその点に微妙な気持ちを
抱くのだ。
"これだったら姫川亜弓さんと共演したかった・・・かもな"
随分と昔、テレビ局ですれ違っただけの姫川亜弓は
その圧倒的オーラが桁違いだった。
"あれぞまさしく、女優・・・・"
華やかさと確かな実力、松多愛都にとって姫川亜弓は
憧れでもあり目標でもある。
そんな姫川が唯一ライバルと認める北島マヤの才能を
愛都はまだ感じきれずにいた。
そんな時耳にした北島マヤ過去のスキャンダル。
“しかも事務所の力でそれを隠してなんて・・・・“
演技に対して潔癖なまでにストイックな愛都には理解できない世界だった。


***
「北島さん、このシーンのナターシャの気持ちってどんな感情なんでしょうか」
この前ロッカー室でマヤと里美の過去を聞いて以降、
愛都は執拗にマヤに役作りのことを尋ねていた。
「・・・・ええと。。そうね、きっと"もっと楽しい事はないかなーー!!"とか」
「だから北島さんはあんなに無邪気に楽しそうな演技なんですね。
 でも、あの時家族の事を思ったら、心のどこかにひっかかりのようなものが
 あると思うんですよね・・・、あ、私だったらですが。」
「そ、そうか。そうね、そういわれれば・・・」
「・・・・まあ、大人のナターシャは北島さんのものなので、
 子役の私がどう思おうが関係ないので気にしないでください」
淡々とした口調はいつもと変わらない、少なくとも周囲の大半の人間は
そう思っているだろう。
"個人的理由で仕事に穴を開ける人を私はプロと認めない"
ましてやそれが恋愛なんて浮かれた理由ならなおさらのこと。
"おまけに私とはナターシャの解釈が違いすぎる"
落ち着いた表情の裏には、ここ数日で急速に膨らむ
北島マヤへの不信感でいっぱいになっていた。

自分の出演するシーンは前半の数場、しかし女優として
たかが子役と流すつもりは毛頭ない。
今日も様々な解釈で演出家と意見を交わしながら
自分なりのナターシャを作り上げてきたつもりだ。
自分の演技で急遽他の部分の演出が変わったこともある。
しかしその過程で徐々に大人役を演じる北島マヤの演技との
つなぎ目の違和感が広がっている、愛都はそう感じているのだが
おかしなことに演出家もスタッフも誰も北島マヤにそのことを
忠告しようとしない。
"天下の紅天女女優、ただそれだけで?"
もしくはこれもまた大都の力によるものなのか。
“大きなものに守られてヌクヌクと演技するなんて
北島マヤもその程度の女優だったってことなのかしら・・・・“


「愛都ちゃん、マヤちゃんと何かあった?」
稽古終わり、着替えに向かう廊下で愛都を呼び止めたのは他でもない
里美茂だった。
「え?」
「・・・試してるでしょ、いろいろ。マヤちゃんに」
演出家も共演者も、誰も指摘しなかったことをよりにもよって里美に
言い当てられたことに愛都は驚きを感じた。
「・・・・別に。ただ、自分の演じるナターシャを理解したかったからです。」
「ふぅ~ん。そっか・・・」
言葉とは裏腹に、その目は愛都の返事に納得した様子はない。
「甘く見ないほうがいいよ」
「・・・甘くなんて」
「思ってたほどじゃない、みんながいうほどじゃないって、マヤちゃんのこと思ってるでしょ」
そう思って舞台上でコテンパンにされた俳優を、山ほど見てきたよ、と
壁にひじをついて寄りかかりながら微笑む里美の表情と言葉の厳しさのギャップに
愛都は息をのんだ。
「マヤちゃんはヘタなんだよ」
「・・・そんなこと」
「演技が、じゃなくて言葉にするのが。」
自分がどうやってその役をつかんでいるのか、どういう意図でこのシーンこの表情を
するのか、説明するのがヘタなんだ。
「何が正解なんてわからない。君の演技は確かにすばらしいし、みんなが言うように
 何十年に一人の逸材だと思う。何よりまじめだし。」
だけどね・・・そういって里美は愛都の顔を改めてまっすぐに見つめた。
「君のナターシャには恋できないよ。マーレー(僕)は」


***
『君のナターシャーには恋できない』
里美から言われた言葉が愛都の頭から離れない。
"やっぱり里美さん、北島さんのことが・・・・好きだから、だからきっと"
里美が共演者としてマヤの才能を評価しての発言だと、これまでなら
落ち着いて解釈できただろうことを、今の愛都は素直にそうとらえることができずにいた。
"もしかしたら二人は今も・・・"
そう考えるだけで愛都の集中力がとぎれそうになる。

"だめだ、こんなんじゃ。もっと集中しないと"
自分のシーンの稽古が終わり、舞台を降りながら愛都は
タオルで汗を拭くふりをしてギュッと目を閉じた。
いつもならすぐに客席側に回ってマヤの稽古を食い入るように見る愛都だが
今日に限ってうつむきがちに控室に向かう。 

その時ーーーーー

「危ない!!」
誰かの叫び声に振り向いた次の瞬間には、目の前が真っ暗になっていた。
柔らかく、でもしっかりと包み込まれるような感触と共に床に倒れ込む。

「さ、里美さん!愛都ちゃん!」
「大丈夫??」
「・・・・だいじょう・・・イテテテ」
「里美さん!血が!!」
「すぐに救急車だ!!!」

周辺が一気に殺気立つ中、里美茂は冷静に
「だ、大丈夫です。自分で病院に行けますから」
と答え、それまで胸の中に抱いていた愛都をようやく解放した。
「愛都ちゃん、大丈夫?けがはない?」
やや顔をゆがめながら、それでもいつものように優しい笑顔で
話しかけてくる里美は、右手を抑えている。
「・・・大丈夫、、、です。」
自分の身に降りかかった事態を飲み込めない愛都は
とりあえず自身の体に何の問題もないことを確認してそう答えた。
「よかった。。」
愛都ちゃんに別状がないか、しっかり確認してあげてね、
そう言い残すと里美はゆっくりと手を抱えたまま立ち上がり
すぐにマネージャーとおぼしき男性数名に抱えられるように
稽古場を後にした。

その後スタッフから、作業員が誤って落とした工具が愛都の頭に
当りそうになったのに気付いた里美が
右手でその工具を受けながら抱えるようにして
愛都をかばったのだということ、
病院での診察の結果、里美の手は骨にひびが入った程度で
大きな怪我には至らなかったこと、そして
もし里美がかばっていなかったら愛都の頭への直撃は避けられなかっただろう
ということを聞かされた。
"里美さん・・・・!"
すぐにでもお見舞いに行きたいとマネージャーに訴えたが
特に入院したわけでもなく、すぐに復帰するからとなだめられ
ようやく愛都も納得した。
"里美さんが復帰したら、すぐにお礼を言わなきゃ"
それからの数日は、里美になんといって謝ったらいいか、
何かお見舞いを渡せるものはないか、そればかりを考えていた。

そしてようやく里美が稽古場に復帰する。
「ただいま~~~!マーレー復活!」
いつものように太陽のような明るい笑顔と、おどけたようなポーズで
稽古場に入ってきた里美を、共演者もみな笑顔と拍手で迎える。
"よかった、里美さん元気そう・・・"
みんなと一緒になんとなく拍手をしながら、愛都の目には涙がにじんでいた。
「・・・あ!よう!元気だったか?」
人の輪のなかから愛都を見つけ出した里美が笑顔で向かってくる。
「特に傷もついてないって聞いて、安心したよ」
そういってポンポンと愛都の頭をなでる手は、利き手でないせいか
少しぎこちない。
"・・・・あったかい。里美さんの手"
里美の手の感触を思い出しながら、稽古が再開された。
"よし、里美さんが見てるんだ!頑張らなきゃ!"
勢いよく舞台に上がった愛都だったが・・・・・

「・・・・・」
「・・・・・??」
「・・・・・どうした?」

進むごとに周囲のざわめきが大きくなる。

「・・・・あれ。」
(どうしちゃったんだろう・・・)
「・・・・・で、・・・・・」
(なんだかおかしい、わたし・・・・)

舞台袖に立つ里美を認識するだけで、
愛都は演技に集中できなくなっていたのだ。

"私、里美さんが気になって演技ができない・・・・"



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~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
現代っ子愛都ちゃん、演技の才能とストイックさは
まさに亜弓さんとマヤを足して2で割ったような
天才子役、ちょっとクールで冷めた目をしています。

若さゆえの自信と、割り切った考え方で
マヤと対照的ですが、マヤがスロースターターなのは
読者にはもうおなじみなのよ!愛都ちゃん!!
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