(み)生活

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浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

ep第48話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2018-03-19 13:00:57 | ガラスの・・・Fiction
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愛都にとって地獄のような5月も下旬となり、
いよいよ舞台初日まであと一週間と迫ってきた。
例年より早くおとずれそうなジメジメとした梅雨空が
広がっている。

舞台『NATASHA』

北島マヤが露出度の高い衣装とセクシーなダンスを
披露することでも話題の本舞台、
マヤ演じるナターシャの子供時代を演じる子役
松多愛都は、今だ不調に悩まされていた。

里美茂を意識して演技ができないーーー

当初こそ、棒立ちのような状態で周囲を心配させていたが
そこは芸歴=年齢の経験を生かして、なんとか
平静をつくろって演技していた。

"本番では、私のシーンに里美さんはいないし・・・きっと大丈夫"
この不調の原因が"恋"であることは明白だったが
愛都は自身が最も忌み嫌う恋愛にうつつを抜かして
演技に集中できない自分を認めることなどできなかった。
"私は里美さんに恋してなんかいない。ただ、助けてもらって
 感謝しているだけ・・・"
その時、目の前から里美とマヤが楽しそうに話をしながら歩いてきた。
「あ」
「あ!愛都ちゃん、お疲れ様。」
こちらの気持ちなど知る由もなく、北島マヤはいつものように
屈託のない笑顔を向けてくる。
今の愛都には苦痛でしかなかった。
「おはようございます。今日も仲がいいんですね、お二人は」
言わなくてもいいことを言っている自覚はあるが止められない。
「あいとちゃ・・」
「失礼しますっ・・・」
タオルを握りしめ、愛都は足早に舞台へと向かった。

"・・・・まあ、こんなもんだろう"
及第点を出す演出家が心中そう思っているのだろうことは
分かってはいたが、今の愛都はそれが精いっぱいという
状態だった。
「じゃあ、子供NATASHAのシーンはこんな感じで」
演出家の声を聞きながら、足早に舞台を後にしようとした
愛都の背中に、落ち着きながらも刺すような声が響いてきた。
「本当に今のでいいのですか?」
「?」
振り向いて見つめる先には、背が高く美しい、それでいて
どこまでも冷たい男の姿があった。
「このNATASHAが本当に成長してあのNATASHAになると
 観客は思えるでしょうか」
「は、速水社長・・・」
決して大きな声ではないはずなのに、その低く響く声は
一言一句こぼれずに愛都に突き刺さった。
「こんな子供時代なら、マヤにやらせたほうがいい」
最後の言葉が終わるか終らないかのうちに
愛都はその場から逃げるように走り去っていた。


****
急に、降り注ぐ雨が遮られた。
雨なのか涙なのかわからないぐらい濡れた顔を上げると
そこには背の高い男が立っていた。
「・・・・」
「舞台初日目前に、傘もささずに外に出るとは
 体調管理も大事な仕事だぞ」
風邪でも引いたらどうするんだ、と冷徹な顔のまま
愛都を見下ろす男はまぎれもなく先ほどの言葉を発した人物だ。
「・・・すみません。すぐに戻ります、大都芸能の速水社長。」
ペコリと頭を下げてそのまま稽古場に戻ろうとする愛都の腕が
ぐっと速水につかまれた。
「そんな恰好で戻ったら、みんなびっくりするだろう。」
とりあえず少し落ち着いてからにしたらどうだ、そういうと
いかにも高そうなスーツのジャケットを愛都の頭からすっぽりとかけた。
「5月とはいえ、雨はまだ冷たい」
屋根のあるベンチを見つけるとそこに誘導し
そつのない動きで、気付けば愛都の手には温かいミルクティーの
缶が握らされていた。
「・・・・すみません。」
「気にすることはない。」
まるで仕事だといわんばかりの冷たい口調、しかしいったん口にしかけた
タバコをそのまま吸わずに戻したのはきっと、未成年の愛都への配慮
なのだろう。
"冷血漢の仕事の鬼、敵に回すと恐ろしいといわれる速水社長"
"女優北島マヤをここまで育て上げた人物"
愛都の横には座らず、柱にもたれかかるように立っていた速水は
何か問いかけて来ることもなく、
ただ、愛都が落ち着くのを待っているようだ。
「・・・・・ですか?」
「ん?」
「・・・北島さんと里美さん、昔付き合ってたって本当ですか?」
一瞬、シャンパングラスでも割りそうな殺気を見せた速水だったが
すぐに先ほどまでの冷静な作り笑顔に戻った。
「君が芸能界のゴシップに興味があるとは意外だな。まあそれなりの年頃か」
「そんなんじゃありません!」
バカにされたようであわてて言い返したものの、興味があるからこそ
質問したのは明白で、言い訳のしようもない。
「・・・・・俺が知っているのは
 二人がドラマで共演したこと、
 記者たちの前で"初恋宣言"をしたこと、それぐらいだ」
遠い昔の話だが、という速水の顔に嘘はなさそうだ。
もっともこの百戦錬磨の鬼社長の本音など、たかが13歳の自分に
分かるはずもないのだが。
「・・・あの噂は」
降りしきる雨の音、時折遠くからクラクションが聞こえるくらいの
静けさと、ほかに誰もいない雰囲気がそうさせたのか、
愛都は通常ならば誰も聞けないような質問を当の本人にぶつけた。
大河ドラマ途中降板、舞台初日すっぽかし、その言葉を聞いた速水は
とたんに何かとてつもなく物憂げなものを瞳に奥に漂わせる。
「大都芸能だから、うまく事を大きくせずに済ませたんですよね。
 さすが大手事務所。北島さんは守られてますね。」
昔も今も・・・・その言葉は身を切るような速水の鋭い視線に遮られる。
「・・・守られてなどいないさ、むしろ・・・」
という速水の目は怒っているような、苦しんでいるような
今までに見たことのない複雑な感情を内包していた。

「人を好きになったのは初めてか?」
「え?」
不意打ちの質問に戸惑う。
「気になっているんだろう?里美茂のことが」
それで舞台に集中できずにいる・・・
あわてて否定しようとするが、いかにもそうに決まっていると
言わんばかりの速水の様子に言葉が続かない。
「・・・・女優失格ですよね
 私情に影響されて演技ができなくなるなんて。」
「まあな。しかし」
女優として、決して悪いこととは限らない
「芸の肥やし、というのはいささか時代遅れだが、
 恋する気持ちを知らないよりは知っていたほうが
 演技の幅が広がるだろう」
「そうでしょうか?」
"先ほど私の演技を見ていたでしょう・・・
それでそんなこと、言えますか?"

「彼女の母親が直前に亡くなったことは知っているか」
「はい。」
「彼女は母一人子一人で育った。演劇の道を進むため、
 たった一人の母親を捨てて、東京に出てきたんだ。
 その後母親は病気で視力を失い山中の療養所にいたのだが
 娘会いたさにそこを抜け出し、交通事故に遭って亡くなった」
本来ならば、女優として成功し、生き別れた母と再会する直前に・・・

「原因を作ったのは、俺だ。」
「え?」
「俺が、母親を療養所に軟禁し、一番いいタイミングで母娘再会の
 演出をするために情報を遮断した。その結果、母親はそこを逃げ
 死んだんだ」
冷たくも美しい顔で、何よりも冷酷なことを淡々と話す速水の顔から
愛都は目を離すことができない。
「すべて、当時所属事務所の社長である俺が、大都芸能の速水真澄が指示をした」
言葉を発することができない愛都に
速水はこれまでで鋭利な視線を向けてきた。
「わかるか?自分が演技の道に進んだせいで母親を亡くした、しかも
 曲がりなりにも所属する事務所の社長に殺されたんだ」
「そのことを・・・・北島さんは」
「知ってたさ」
だから、行方をくらませたんだ・・・
「・・・・だがな、それでもあの子は帰ってきた。演劇の世界、この
 虹の世界に」
そういう速水の顔は、もはや愛都ではなく、遠い昔のことを
見ているようだった。

「演じることができなくなった彼女は、再び自分自身で
 演じることの喜びをつかみ直し、そして全てをぶつけて
 演じることができる場所へ戻ってきたんだ。」
その時見せた速水のなんともいえない優しさと慈愛にみちた微笑みを
愛都は忘れることができなかった。
"この人に、こんな顔をさせるなんて・・・"
女優北島マヤの存在が、自分が思っているよりずっと
大きなものであることに、いまさらながら気づかされる。

ふいに速水が愛都の頭に手をやりくしゃくしゃと触れる。
「!?」
「少しはマシになったようだな。」
それが単に愛都の髪の毛が乾いているか確認していただけだと分かっても
愛都はこのつかみどころのない男の動きに緊張を覚える。
「そんな大事な話、どうして私に話してくれたんですか」
「・・・・さて、どうしてだろうな。」
そういってにやりと口元を上げた速水の目はすでに笑ってはいなかった。
「なんとなく・・・いや。なんでもない」
そういうと愛都から湿った上着と飲み終わった缶を
スマートに受け取った。
「そろそろ戻るか。」
「・・・はい。」
いつの間にかやんだ雨空にはうっすらと虹がかかっていた。


「速水社長!あ、愛都ちゃん!」
「外で見かけたので雑談に付き合ってもらっていたら
 遅くなってしまった。申し訳ない。」
愛都が勝手に飛び出してしまい、稽古の雰囲気を乱してしまったのに、
何気ない速水のフォローで、現場の愛都を取り巻く雰囲気は一気に変わった。
"速水社長って、噂よりずっとやさしい人かもしれない・・・"
湿った体をふくためにスタッフがタオル持ってきてくれたタオルに
くるまりながら、愛都はすでに遠く離れた速水の後姿をずっと見つめるのだった。

「は、速水社長!」
「?」
ゆっくりと振返った速水に
「私のNATASHA、楽しみにしていてください」
そういって微笑む愛都の顔は、いつものような勝気で自信にあふれたものだった。


****
舞台『NATASHA』上演
北島マヤの新境地!妖艶なダンスにコケティッシュな演技で観客を魅了!
元恋人里美茂との息もぴったり!観客を虜に!
松多愛都の完璧な演技!まるで第二の北島マヤ!!
違和感なく進む時系列に息つく暇もなく引き込まれる至福の体験
本場ブロードウェー監督も絶賛の舞台、早くも再演決定か!?



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~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
やっと『NATASHA』編が終わりました。
この後裏『NATASHA』書いて一応終わり。
最近更新をあけることが多かったので
とりあえず話の区切りがいい所まで
あげようと思いました。

ということで、現段階でのストックは
全放出しております。
~~~~~

2 コメント

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面白かったです! ()
2018-08-04 14:56:14
ふとしたきっかけで、中学時代に先輩から借りて読んだガラスの仮面の結末が知りたくて、こちらのサイトにたどり着きました。お話の流れがわかっただけでなく、フィクションも面白くて、一気に読んでしまいました。続きを楽しみにしています。
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面白かったです。 (まりあ)
2018-10-17 00:22:27
久しぶりに二人の王女の話を読みたくなって、でも漫画は手元にないし、で、検索して辿り着きました。

そしたら、架空の話ですけど、続きがあるじゃないですか!つい気になって読み出したら止まらなくて深夜まわっちゃいました。
すっごく良かったです。
ハッピーエンドにしっかりなってて、その後のエピソードもそうだろうなって思うマヤ達で。
しおりさんも、ステキな(笑)しおりさんに戻ってて。
マヤと速水さんのラブラブも楽しめて、すっごく素敵な時間でした。相変わらず私生活では、ちょっとだけポンコツで、でも成長してるマヤとか、相変わらず水城さんに読まれてる社長とか、亜弓さんが亜弓さんらしく堂々と復活したりして、ガラスの仮面の登場人物たちが、そのまま生き生きと描かれてて、でもしっかり未来に進んでて。

もしかしたら、ガラスの仮面は未完のまま終わるんじゃないかとヒヤヒヤしていたので、自分の中のモヤモヤが軽くなりました。

ホント読めて幸せです。
幸せな時間をありがとうございました。
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