答えは現場にあり!技術屋日記

還暦過ぎの土木技術者のオジさんが、悪戦苦闘七転八倒で生きる日々の泣き笑いをつづるブログ。

〈私的〉建設DX〈考〉その10 ~ 後方2回宙返り1回ひねり

2024年06月27日 | 〈私的〉建設DX〈考〉

「のぞかない」測量機の誕生

かつて、近年のレベルやセオドライト(トランシット)はもちろん、かの日本測量界の父である伊能忠敬が使っていた象限儀に至るまで、測量機は「のぞく」ものというのが相場でした。

【のぞく】(デジタル大辞泉より)

1.物陰やすきま、小さな穴などから見る。
2.装置を用いて物体を見る。
3. 高い所から低い所を見る。
4. ひそかにようすをうかがう。また、隠しごとや秘密にしている物などをこっそりと見る。
etc・・・

言わずもがなですが、この場合の「のぞく」は2。望遠鏡を覗くの「のぞく」です。
コペ転の起点となったのは2012年、株式会社トプコンが自動追尾・自動視準のトータルステーションPSシリーズを発売したことでした。これが「のぞかない」測量の萌芽です。

さらにトプコンは、2014年、建設現場における杭打ちや墨出し作業を「誰でも簡単に1人で素早く」行うことをコンセプトに開発した「杭ナビ」(LN-100)をリリースします。専用機として特化した杭ナビには視準するレンズがなく(ということはすなわち、「のぞいて」指示する人が要らない)、操作はレーザーを受信するプリズム(ターゲット)の持ち手がAndroid端末で行うという画期的な測量機でした。しかし、その画期性がすぐに発揮されたわけではありません。

杭ナビというツールをデジタライゼーションへと展開させたのは、株式会社建設システムが開発した端末アプリ「快測ナビ」とのマッチングです。快測ナビは、3次元設計データを活用し、それまでの線的管理から面的管理を可能にしました。データさえ準備しておけば、あらかじめ計算しておかなくても、現場空間のどこにでも位置出しができることで、杭ナビが本来目指していたであろうワンマン測量を現実にしたのが「杭ナビ+快測ナビ」のコンビであったと言えます。このツールの誕生で、杭ナビの利用用途は一気に拡大し、あっというまに土木現場のスタンダードと言ってもよいぐらいに普及しました。


「ひねり」を加えることで次元が変わる

しかしあくまでも、ここまではツールの進化であり、それを使う側にとっては「あたらしい技術」の導入です。そこに「ひねり」を加えて、「あらたな仕事のやり方」を導き出した企業がありました。徳島県牟岐町の地元ゼネコンである株式会社大竹組です。
大竹組では、専門的知識が必要ではないこのツールの特性に目をつけ、測量=技術者の仕事、という固定観念を捨てました。「杭ナビ+快測ナビ」による測量作業を若手の軽作業員に担当させることにしたのです。現場技術者は多忙で、その業務の内容は多岐にわたります。やることは他にいくらでもあります。従来は、残業をすることでこなしていた書類作成などの内業を、軽作業員が測量をしているあいだに済ませることで、技術職員の時間外労働削減を実現することができました。


あれはぼくが中学3年生の夏でした。
ミュンヘンオリンピックの体操競技(鉄棒)で塚原光男が演じたその技を、テレビの画面を通して見たとき、驚きのあまり目が点になってアタマがぶっ飛んだのを、きのうのことのように覚えています。のちにムーンサルトと格好のよい名前で有名になったその技を、そのときの実況アナウンサーはたしかに「月面宙返り」と呼んだはずでした。
技の正式名称は「後方2回宙返り1回ひねり」。ポイントは最後の「ひねり」です。
今でこそ、クルクル回ってキリキリひねるのは体操という競技のあたりまえになっていますが、人間が空中で自らを「ひねる」というその行為は、全世界の体操関係者以外のひとたちを、「アッと驚くタメゴロー」状態にしたものでした。

これを書きながら、この「のぞかない測量機」の一連の経緯に対して、何かよい比喩はないだろうかとアタマをひねっていたぼくの脳裏に浮かんだのが、52年前の塚原光男の勇姿と「後方2回宙返り1回ひねり」という技の名前でした。

1回目の宙返りはLN-100という測量機の誕生です。
2度目はそれに快測ナビというアプリを加えたことです。
そしてそれに「ひねり」を加えたのが、作業員にそれをやってもらうというコペ転的発想です。
繰り返しますが、ポイントは最後の「ひねり」です。「ひねり」を加えることで異なる地平がひらけます。「ひねり」が次元を変えたのです。


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