あばたもえくぼ。
恋する者の目には、相手のあばたでもえくぼのように見えてしまう。贔屓目に見れば、どんな欠点でも長所に見えてしまうものだということの喩えだ。
といっても、土木施工においてはそうはいかない。
「あばた」は欠陥。しかも施工不良がもとで生じる欠陥のひとつだからだ。こと土木の世界では、どこからどう見ても「えくぼ」に見えることはない。
先日、お城下でひらかれた「よいコンクリート」をつくる施工技術の講習会に行ってきた。斯界の第一人者であるTさんが来ると聞き、自ら志願をしての参加だ。特段あたらしい発見があったわけでもなく、基礎技術を学び直したという形だが、歳を取ると、覚えていたことを次から次へと忘れていくのだから、こうやって再確認するのもわるくない。特にそれが基礎的なことならなおさらだ。
途中、施工不良による不具合の話のなかで、豆板の説明があった。業界で施工に携わるものなら知らないものはないが、ご存知ない一般の方にかんたんに説明すると、豆板とは、型枠に流しこんだコンクリートが隅々まで行きわたらず、砂利などの骨材が表面にあらわれた欠陥のことを指す。岩おこしとか雷おこしを想像してもらうとわかりやすいだろうか。
その豆板、別名をジャンカと呼ぶ。
ところが、「ジャンカという言葉は今は使ってはいけない」とT氏は言う。
同様に、表面気泡をあらわす「あばた」もNGらしい。
初耳だ。
いったいなぜ?
その場で検索してみると、すぐに理由が判明した。内輪でもっとも的確だと思われる文章を引用する。
******ジャンカはカタカナで記載するので外来語のようですが、これは、あばた(天然痘にかかった後の顔のぶつぶつ)を表現する古い日本語であるじゃんこ(あばた顔のことを「じゃんこ顔」と呼んでいたらしい。)から派生した言葉で、じゃんこのような状態を意味します。実際に現場では「あばた」と呼ぶ職人もいます。また、痘瘡(あばた)は「かさぶた」を意味するサンスクリット語である「arbuta」の音写である「あ浮陀(あぶだ)」がなまった語であり、かつて病人の治療をもしていた寺の僧侶の間で使われるようになった言葉です。従って、日本語としては「じゃんこ」がぶつぶつ状態を表す言葉であり、ジャンカは、その派生語である日本語です。******
ナルホド。さては差別語あつかいなのか?と検討をつけ、さらに探すと、日本コンクリート工学会(JCI)が設けた「コンクリートに関する推奨用語一覧」にたどり着いた。
そこには「ジャンカ」は「豆板」、「あばた」は「表面気泡」と表記することが推奨されている。理由は推して知るべし。たぶん「あばた」という容姿の別名が「ジャンカ」だから、両方揃ってアウトとしたのだろう。といっても、あくまでも一学会の推奨だから、いわゆる禁止用語ではないのかもしれないが、いずれ使われなくなってしまうのだろうと推測される。
そういうぼくだとて、「ジャンカ」や「あばた」といった表現を使うことができないからといって、別になんの不都合もないのだもの、少なくとも公の場においては、そのような理屈に対して異を唱えてまで、あえて使おうとはしないだろう。
以上、余計なお世話かもしれないが知識として。
もちろん、けっしてそれがよいことだとは思っているわけではないが、そのうちに、昨今流行りのアバターという言葉なぞも、NGになったりするかもしれないし。
ん?ないない、ゼッタイない?わからないよぉ。