散日拾遺

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ザカリアに起きたこと / モノのなかった豊かな時代

2019-12-09 11:35:02 | 日記
2019年12月09日(月)
 待降節の第二主日、小学科のメッセージ担当。
 与えられた箇所はルカ1章の57~65節だが、ここだけでは意味が分からない ー なぜザカリアの口がきけなくなっているのか、命名をめぐる悶着がなぜ生じるか等々 ー 結果、自ずと洗礼者ヨハネの誕生物語全体をなぞることになる。
 告知の天使ガブリエルは、イエスの場合は母マリアに臨んだが、ヨハネについては父ザカリアに現れた。ザカリアとエリザベトは篤信の夫婦だが、既に老いて子がなかった。ガブリエルから妻の懐胎を予告された時、当然ながらザカリアは信じない。
 もとよりこのモチーフは、創世記18章のイサク誕生予告譚を踏まえている。そちらでは妻のサラが、うっかり笑みを漏らして天使に見とがめられ - 信じて喜んだのではなく、あり得ないと考えての苦笑 - それがイサク(「彼は笑う」の意)という命名にユーモアの深みを加えている。ザカリアはより能動的で、しるしを示せと天使に食い下がった。恐ろしいことをするものだが、これも旧約以来の伝統で、奇跡を予告された者は直ちに納得せず、しるしを求めるのが常である。
 さらに驚かしいのは、天使あるいは主御自身が決して拒まずしるしを与えることである。尻込みするモーセは奇跡を起こす力と右腕アロンを与えられ、.死病に戦くヒゼキヤは日時計の影が10度戻る(=太陽が10度後戻りする)のを見た。これ既に比類なき恩寵の確固たる裏書きであろう。
 そうとなれば、天使はザカリヤにも当然しるしを与えるものと予想され、かつそのしるしはモーセやヒゼキアのそれに相当する厚意的なものでなければならない。そして実際に何が起きたか。

 ザカリヤは口がきけなくなり、それが赤ん坊の誕生まで続いた。正確には、赤ん坊の名が通念の定めるザカリア・ジュニアでなく、天使の指示するヨハネとすべきことを証言する瞬間まで、続いたのである。
 口がきけないのは、その実質が構音障害であれ運動性失語であれ、たいへんな不便に違いない。「自分の組が当番で」(1:8)とあるところ、実際には生涯一度巡ってくるかどうかの大役で、その内容は至聖所で示された神意を人々に伝えるというものだから、口が利けないのでは勤めにならずすべて台無しである。
 まことに災難という他はないが、それというのも「時が来れば実現するわたしの言葉を信じなかったからである」(1:20)というのだから、つべこべ言い逆らったザカリアへのユーモラスなお仕置き、天使の口チャックと考えたくなるのが自然である。僕も以前に、そんなふうに話をした。
 しかし、ちょっと待った。前述の通り天使はしるしを求められて拒んだことがなく、与えられるしるしは常に聖なる厚意に満ちたものであった。そうだとすればここをどう読む?
 「口がきけなくなったこと」は罰ではなく、それこそが恵みなのである。そう考える他はない。
 我々は、しゃべり続ける限り聞くことができない。「黙って聞きなさい」と母は子をたしなめる。そのように天使はザカリアをたしなめた。黙って聞く、聞き続ける時、囁くように確かな恵みの声が初めて聞こえるからである。
 「すると、たちまちザカリアは口が開き、舌がほどけ、紙を賛美し始めた。」(1:64)

***

 この朝、教会への道で鞄のもち手がいきなり切れた。不吉? いやいや単に長年、使い続けただけのことで。20代の頃の知り合いに、ハンドバッグを毎年買い換えるという令嬢があったっけ。全体として贅沢や無駄遣いとは縁遠い堅実な人柄で、それだけに不思議の印象が強く残ったものだった。
 当方いたって物持ち良く、これこのとおり、ぶっつりと。



 荷物の多い日で一瞬途方に暮れたが、もち方を工夫すれば意外に耐えており、そのまま目黒から千葉まで移動して卒論発表会に臨んだ。夕からの忘年会まで無事に終え、帰りの総武線でY先生とO先生がこれに目を止めて、
 「直りますよ、それ」 
 「うん、直ります。上野駅界隈には修理屋さんが何軒かある。」
 「直したいですね、お金の問題ではなく、」
 「お金の問題だった頃もありましたが、」
 楽しそうに昔話へ流れていく。両先生は僕より数年上の同い年で、モノが大切であった心豊かな貧乏時代を経験しておられる。「直して使う」って、何て素敵なコンセプトだろう、控えめの酒で軽く上気した頭がぽかぽか温かくなった。
 こちらも元気な昭和の子ども、どうせなら店へ出すより自分で直したい。帰宅するなり家の中を見回して、ありあわせのもので軽くやっつけた。
 どうです、立派なもんでしょう!

 

Ω

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