ウロシだった。
~『こころ』の挫折
昨日、本屋で夏目漱石に関する資料集のような物を見た。新刊書。題名も著者も覚えていない。わざわざ調べに行く気はしない。
その本の『こころ』に関する記事だけ、立ち読みした。〈『こころ』を読み出して挫折する人が多い〉というようなことが記されてあった。ほっとした。ちょっとね。ちょっとだけだよ。
挫折が正解。丁寧に読むから挫折するのだ。
若い頃、私の周囲にいた人で『こころ』を読んだ人は、全員、面白がっていた。その中には、あまり小説を読まない人もいた。挫折した人は沈黙していたのかもしれない。沈黙は共犯だよ。
学校で『こころ』の読書感想文を書かされた。挫折するわけにはいかなかった。無理をして読み終え、「漱石は頑迷だ」と私は書いた。それを読んだ教師は憎々しげに私を睨み、「君はとんでもない誤読をしてるんじゃないか?」と言った。私は何も言い返せなかった。
ウロシだった。
(終)