Book revue
エンツェンスベルガー著 ベルナー絵 丘沢静也訳『数の悪魔』(晶文社)
高校の数学の教師が「1+1は、なぜ、2か」と質問した。誰も答えない。すると、そいつは得意げな顔をして、「そう決まっているからだよ」と啖呵を切るのだった。
ナンセンス。問いに対する答えになっていない。
実は、このナンセンスな台詞は噂で広まっていた。しかし、誰も答えない。答えると怒りだすのだそうだ。
児童書の『数の悪魔』に、〈1+1=2〉に関するラッセルの証明が載っている。私にはチンプンカンプン。これを見たとき、なぜ、あいつが〈1+1=2〉に拘っていたのか、推測した。これは難問だからだ。あいつは数学者に成り損ね、その挫折感か何かを生徒たちに見透かされまいと悶えていたようだ。
〈1+1=2〉は規則だとしよう。〈2+1=3〉も規則だとする。〈3+1=4〉も同様。しかし、こうして次々に1を足しているだけでは、計算はできない。
〈1+2=3〉は規則ではない。では、〈1+2=2+1〉とやっていい理由は何か。
1+2=1+(1+1)=1+1+1=(1+1)+1=2+1
ということか。不明。
交換法則や結合法則などは常に正しいのか。不明。
法則って何。
*
- 必ず守らなければならない規範。おきて。
- いつでも、またどこででも、一定の条件のもとに成立するところの普遍的・必然的関係。また、それを言い表したもの。「自然の―」
(『広辞苑』「法則」)
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「規範」って何。「おきて」って何。「普遍的・必然的関係」って何。不明。
なぜ、人を殺してはいけないのか。
私は知らないよ。知ってるつもりの誰かに聞いてね。
(終)