ヒルネボウ

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夏目漱石を読むという虚栄 5510

2021-11-28 10:46:11 | 評論

   夏目漱石を読むという虚栄

5000 一も二もない『三四郎』

5500 「偉大なる心の自由」

5510 「表面にあらわれ易い事実」

5511 「昔の事」

 

『三四郎』に、おかしなアジテーターが登場する。彼は無名の学生だ。「麦酒(ビール)」(『三四郎』六)に酔っている。自分の言葉にも酔っている。作者も酔っているみたいだ。

 

<政治の自由を説いたのは昔の事である。言論の自由を説いたのも過去の事である。自由とは単にこれ等の表面にあらわれ易い事実の為めに専有され(ママ)べき言葉ではない。吾等新時代の青年は偉大なる心の自由を説かねばならぬ時運に際会したと信ずる。

(夏目漱石『三四郎』六)>

 

「政治の自由」は意味不明。「昔」とは、いつか。〈今は「政治の自由」が完全に保証されているので、それを説く必要はない〉という意味か。

「過去」は、いつまでか。〈現在は「言論の自由」が完全に保証されているので、それを説く必要はない〉という意味か。

「単に」の被修飾語が不明。「表面」と「事実」と「専有」は意味不明。〈「専有され」ていた〉という「事実」は示されない。誰によって「専有され」ているのかも不明。

「新時代」は「1859~62年にわたるプロシア王国の相対的自由化の時期」(『ブリタニカ』「新時代」)と関係があるか。「説かねばならぬ」は唐突。何かを「説いた」のが「昔の事」や「過去の事」だとしても、それらの「事」が、今、現在、別の何かを「説かねばならぬ」理由にはならない。「時運」は「運」であり、「際会」は「事件や機会などにたまたまであうこと」(『広辞苑』「際会」)だ。したがって、「昔」や「過去」との因縁で「説かねばならぬ」理由など、ありはしない。「偉大なる心の自由」は意味不明。「偉大なる」の被修飾語が決まらない。「偉大なる」は広田に関する「偉大なる暗闇」という言葉と関係がありそうだが、よくわからない。「偉大なる心」あるいは〈「偉大なる」~「自由」〉のどちらでも意味不明。「偉大なる心の自由」は〈「表面にあらわれ」難い「事実」〉だろうか。あるいは、「事実」ではなく、空想か。「説かねば」と言うが、どこにも説かれていない。「信ずる」は自説に何の根拠もないことを自ら暴露しているようなものだ。

 

<天より等しく受けた人権(天賦人権(てんぶじんけん))を実現し発展させようという思想。自由民権運動のなかで深められた。自由の語は中国からの伝来で、随意だけでなく権力からの自由、人間としての自由権の意味を持つようになった。民権の語はオランダ留学後の津田真道(つだまみち)が1868年(明治元)『泰西国法論(たいせいこくほうろん)』で国民の権利の意味で初めて用いた。自由民権思想の核となる民主主義思想は西欧諸国から流入したが、百姓一揆にみられる自由の要求、民衆宗教の人間平等観等が受容の下地になった。

(『日本歴史大事典』「自由民権論」江村栄一)>

 

〈「政治の自由」や「言論の自由」について説くこと〉は自由民権論のことだろうか。そうだとしたら、なぜ、この語を用いないのだろう。

作者は、過度の自由を警戒し、虚偽を暗示しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

5000 一も二もない『三四郎』

5500 「偉大なる心の自由」

5510 「表面にあらわれ易い事実」

5512 「政治の自由」

 

 『三四郎』の作者は、〈政治の季節は終わった〉と暗示しているのか。

 

 <若し平八郎が、人に貴賤貧富の別あるのは自然の結果だから、成行の儘(まま)に放任するが好いと、個人主義的に考へたら、暴動は起さなかつただらう。

若し平八郎が、国家なり、自治団体なりにたよつて、当時の秩序を維持してゐながら、救済の方法を講ずることが出来たら、彼は一種の社会政策を立てただらう。幕府のために謀ることは、平八郎風情(ふぜい)には不可能でも、まだ徳川氏の手に帰せぬ前から、自治団体として幾分の発展を遂げてゐた大阪に、平八郎の手腕を揮(ふる)はせる余地があつたら、暴動は起らなかつただらう。

この二つの道が塞がつてゐたので、平八郎は当時の秩序を破壊して望(のぞみ)を達せようとした。平八郎の思想は未だ醒覚せざる社会主義である。

未だ醒覚せざる社会主義は、独り平八郎が懐抱してゐたばかりではない。

(森鴎外『大塩平八郎』「附録」)>

 

「社会主義」が「覚醒」したのは「昔の事」か。

 

<「さうすると文学の本に発売禁止を食はせるのは影を捉(とら)へるやうなもので、駄目なのだらうかね」

木村が犬塚の顔を見る目はちよいと光つた。木村は今云つたやうな犬塚の詞を聞く度に、鳥さしがそっと覗(うかが)ひ寄つて、糯(もち)竿(ざを)の尖(さき)をつと差し附けるやうな心持がする。そしてかう云つた。

「併し影を見て動くものもあるのですから、影を消すのが全く無功ではないでせう。只(ただ)僕は言論の自由を大事な事だと思つてゐますから、発売禁止の余り手広く行はれるのを歎かはしく思ふ丈(だけ)です。勿論政略上已(や)むことを得ない場合のあることは、僕だつて認めてゐます」

(森鴎外『食堂』)>

 

『三四郎』に「鳥さし」は登場しない。だが、「糯(もち)竿(ざを)」はある。それは、アジテーターに向けられたものではなく、作者に向けられたものだ。読者は、ひやりとする。

 

<斯くて今や我々青年は、此の自滅の状態から脱出する為に、遂に其の「敵」の存在を意識しなければならぬ時期に到達しているのである。それは我々の希望や乃至其の他の理由によるのではない、実に必至である。我々は一斉(いっせい)に起(た)って先ずこの時代閉塞の現状に宣戦しなければならぬ。自然主義を捨て、盲目的反抗と元禄の回顧とを罷(や)めて全精神を明日の考察――我々自身の時代に対する組織的考察に傾注しなければならぬのである。

(石川啄木『時代閉塞の現状』)>

 

意味不明。隠語か、暗号か、自分語か。私が無知なだけか。うんざりだ。

 

 

 

 

5000 一も二もない『三四郎』

5500 「偉大なる心の自由」

5510 「表面にあらわれ易い事実」

5513 リバタリアン

 

〈自由〉には二種類ある。

 

<本書のテーマは、いわゆる意志の自由ではない。本書で論じるのは、誤解されやすい哲学用語でいう必然にたいしての意志の自由ではなく、市民的な自由、社会的な自由についてである。逆にいえば、個人にたいして社会が正当に行使できる権力の性質、およびその限界を論じたい。

(ジョン・ステュアート・ミル『自由論』「第1章 はじめに」)>

 

「政治の自由」や「言論の自由」が「市民的な自由、社会的な自由」のことだとすると、『三四郎』の内部の世界において『自由論』などに学ぶ必要はなくなっているのだろう。

 

<「お前が得意になって妾に喋(しゃべ)ってたヤマトダマシイは、〈東洋の精神文明〉は、どうしたの?」

「クララ。自由平等や男女同権を定めた日本の憲法は、占領軍が作って与えたんです。人権自由は日本人が独自に考え出したものじゃない。植民地の独立運動を支えた諸民族平等の理念だって、東洋にはなかった。人類社会の指導理念と言えるような大思想はみんな西洋の、白人文化の産物です」

(沼正三『家畜人ヤプー』「第四九章 無条件降伏」)>

 

日本語の〈自由〉という言葉を自由に操るのは難しい。

 

<Four Freedoms

1941年1月アメリカ大統領F.D.ルーズヴェルトが議会への教書で述べたもの。彼は四つの基本的な人間的自由、すなわち、(1)言論と意志表明の自由、(2)信教の自由、(3)欠乏からの自由、および(4)(侵略などの)恐怖からの自由、が全世界で実現されることへの希望を表明した。なお、この考えは大西洋憲章にも採り入れられ、日本国憲法にも影響を与えた。

(『山川 世界史小辞典』「四つの自由」)>

 

「四つの自由」以前に「人間的自由」がある。

 

<移民や他宗教、LGBTQ(性的少数者)、人工中絶などに寛容なリバタリアンの姿勢はリベラル派のそれに近い。しかし、銃規制や公的医療保険制度などをめぐる立場は正反対。「政府は自由にとっての障壁」と見なすリバタリアンと「政府は自由のための手段」と見なすリベラル派の意識の裂け目はあまりに大きい。

(渡辺靖『リバタリアニズム』「第1章 リバタリアン・コミュニティ探訪」)>

 

「裂け目」は悪くない。

 

(5510終)

 


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回文~窓

2021-11-24 22:06:25 | ジョーク

   回文

     ~窓

大敵が来ていた

(たいてきがきていた)

狼狽えたろう

(うろたえたろう)

汽笛強いけり 形式的

(きてきしいけりけいしきてき)

行き止まりなり窓消ゆ

(ゆきどまりなりまどきゆ)

(終)


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腐った林檎の匂いのする異星人と一緒 27 「そいつ」(2)

2021-11-23 18:12:07 | 小説

   腐った林檎の匂いのする異星人と一緒

            27 「そいつ」(2)

「そいつ」は開かれた。同時に閉じられた。箱の中には小さな生き物がいた。「箱の中には小さな生き物がいた」と本に記されていた。そんな本を小さな生き物が読んでいた。と、本に記されていた。小さな生き物は、開かれた箱の中で慌てふためき、隅にうずくまり、小さくなって本を貪るように読み始めた。と、本に記されていた。出られない。無理だ。とても無理。絶対に出られない。

やっぱり終れないね。

「そいつ」は街路樹の枝にうまく載った。

うますぎるけど、まあ、いいか。

バキューン! 

ぱらぱらとあちこちの部屋で点灯。二階の窓が上がり、全裸の女が身を乗り出す。オッパイのサイズは……

そっちかよ。いいけど。

「どうした?」

男の声。

「あれ、何かしら」

「ああ。本だろう」

「本なんか、もう読み飽きたわ。箱じゃなくて?」

「箱なんか、邪魔になるだけだぜ」

「そうね」

「じゃ、続けよう」

「いやよ」

「どうして?」

「やり直し」

消灯。

悪くないけど。ううん。どうしよう。やり直し? どこから? 

「そいつ」は、なぜか、地下に落ちている。地下道は迷路だ。所々、崩れている。迷路にはいろんな物が落ちている。役に立つ物もあれば、そうでない物もある。拾えば却って邪魔になる物もある。その「それ」に誰かが近づく。拾うか。拾わないか。拾うとしたら、何者か。勇者か。シャーマンか。歌手か。商人か。詩人か。異星人か。司書か。あなたか。

と、こんなんでよろしいかな? 

(終)

 

 

 


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腐った林檎の匂いのする異星人と一緒 27 「そいつ」(1)

2021-11-23 00:07:01 | 小説

   腐った林檎の匂いのする異星人と一緒

            27 「そいつ」(1)

靴を見ている。手を伸ばす。手と靴の間に杖が差しこまれた。元工兵が靴を拾い、受話器みたいに耳に当てた。

「もしもおし。こちら異星人対策室の者ですが、聞こえますか」

元司書が靴を奪おうとする。

「そいつをこちらに寄越せ」

その声は別の場所から届いた。街路樹の前に元刑事が立っていて、拳銃を見せびらかす。彼の言う「そいつ」とは、本のような箱、あるいは箱のような本のことだ。「そいつ」としか言いようがなかった。急いているからだが、本でも箱でもなかったら恥だからでもある。恥以前に、通じないと困る。

元工兵は「そいつ」を自分のことだと誤解した。叩けば埃の出る体だ。元工兵は半歩退いた。元刑事は一歩前に出た。元工兵は消火栓に腰を掛けた。元刑事の拳銃は、右に左に揺れた。元工兵の杖はさっきからきっちりと水平に保たれている。受話器は耳に当てたまま。腐った林檎のような匂いがする。不快だが、耐えられる。なぜだろう。元刑事は杖が弓であることを見破っていた。さすがだ。元司書は箱のような本のような箱のような「そいつ」を喉のあたりに当てた。「そいつ」が防弾の役目を果たすとでも思っているのか。ふざけるな。ところが、「そいつ」を放り投げた。その放棄が合図だったかのように、二人の男は同時に引き金を引いた。

バキューン! 

元工兵は銃弾を受けて転がった。元刑事の胸には矢が突き刺さった。元工兵は何の痛みも感じなかった。元刑事は矢羽に触れた。元工兵は自分の赤く染まりつつある腹を見た。元刑事は含み笑いを始めた。元工兵は何人もの死者を見ているので、自分がやがて死ぬことを悟った。ああ、死ねる、やっと。元刑事は、頭と足の裏だけで全身を支えていた。痙攣し、仔馬のように跳ねる。もう何も考えられない。彼は幸福だった。それが矢尻に塗られた猛毒のせいかなどと考える余裕はなかった。彼は口から泡を吹きながら、しばらく泣き叫んでいたが、突然、ブリッジのまま、凍ったように動かなくなった。頭の周りに赤黒い液体が広がる。

元司書は項垂れて、その場を離れた。

「君たちを軽蔑する。君たちを軽蔑する。君たちを軽蔑する」

後姿を見た者は、彼を異星人と思ったに違いない。肩から上に何もないようだったからだ。

パトカーのサイレンが近づく。二つの死骸が運び去られた。そして、「そいつ」は……

ちぇっ。どうしよう。「そいつ」は、ええっと、新米の警官が拾った、と。しかし、何だか、わからないから、科学捜査官に…… 

ああ、つまんねえ。

つまんねえ。つまんねえ。つまんねえ。

終れねえよ。くそ。

もっと殺すか? 

誰にしよう? 

ええっと、そうだな。

ええい。面倒だ。人類滅亡! 

パッキーン。地球が捻じれて割れたぜ。まっぷたつ。

あははは。林檎みたい。

食うかい? 

(続)

 

 

 


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聞き違い ~九日目

2021-11-21 08:30:05 | ジョーク

   聞き違い

     ~九日目

破天荒 這って憩う

対人関係 退治歓迎

九日目 孝行の仮面

大和魂 山と騙し

(終)


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