ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

打ち上げ

2006年12月18日 | ケネディスクールのイベント

 今日のお昼12:00の統計学の試験終了を持って秋学期が終わりました。Thanks giving休暇をほとんど唯一の例外として、あとはひたすら図書館と学校に夜遅くまで、時には明け方までこもる日々もこれでようやく一段落です。

 もちろん、このようなストイックな生活を送っていたのは僕ばかりではありません。そもそも僕が所属するMPP(Master of Public Policy)Programはケネディスクールで最も厳しいコースとして知られます。また所属する学生についても、他のプログラムと比してこれまでの職務経験が平均で4~5年程度と比較的若い、つまり、これから本格的な就職活動を控える学生が多いため、日本以上の学歴社会であり、就職活動で大学院のGPA(平均成績)が極めて重視されるアメリカでは、友人たち(特にアメリカ人)の成績へのこだわりは相当強く、皆、寝不足続きの厳しい3ヶ月を共に送ってきた訳です。(例えば、24時間営業のLamont図書館で明け方4:00頃クラスメートとよく出会ったものでした。)

   

 ですから、期末試験の終了、そして一月の終わりまで続く長い冬休みのスタートである今日は、僕たちにとって本当に開放感に満ちた日となりました。こんな気分の日には、皆でビールで乾杯しない訳には行きません!という訳で、大学から徒歩10秒のところにあるRed Line というバーでクラスメートが集まって打ち上げが企画されました。

   

 先日の記事(Matsuzakaの挑戦)でも触れましたが、学期の始まった当初は飲み会で楽しい気分を味わうのも一苦労でした。日本で飲み会や交流会ばかり企画していた僕のキャラクターを知る人がこの記述を見たら驚くことと思いますが、事実です。騒々しいBGMの中で、より一層英語が聞き取りづらかったこと、また飲み会の形式も日本のように「飲み放題3,500円」のコースを注文して、あとは皆で座敷に座って飲み、語り・・・という形では必ずしもなく、立食スタイルで、ビールをオーダーするのにもカウンターに行ってその都度個人で会計をするという形式に慣れなかったこともあると思います。なので、一時間ぐらいすると、「課題やリーディングもまだたくさんあるし、そろそろ帰ろうかな・・・」という気分に自然となってしまったものでした。

 ただ、それも今となっては大分解消され、今日も普段中々話すことの出来なかったクラスメート、あるいは、よく図書館で顔を合わすのでお互い顔は知っていても話したことのなかった新しい友人とも、秋学期の感想や冬休みの予定、卒業後のビジョンなどなど、色々と語り合うことが出来き、気付くと3時間近くがあっという間に経っていました。

 中でも印象的だったのが、このブログでも「Speech or Communication??」の中で紹介した「A Mobilizing for Political Action: Communications & Advocacy(人々を動かす政治コミュニケーション)」で一緒のクラスだったパキスタン人の友人タニヤと、彼女がスピーチの中で取り上げたパキスタンのZina Ordinanceについて交わした会話でした。

 Zinaとはアラビア語で「婚外性交」を意味し、Ordinanceは法律という意味です。パキスタンでは、婚外性交は法律で禁じられており、この罪を犯した女性は最高で死刑に処せられてしまうとのことです。さらに問題なのはこの法律では、婚外性交とレイプの区分が曖昧だということです。

 例えば1983年にこんな事件が起こりました。目の不自由な18歳の女性が地主とその息子に乱暴された結果妊娠してしまいました。彼女は裁判所に訴えますが、この行為がレイプであると立証するには、目撃者としてイスラム教徒の男性4人以上を集める必要があります。彼女はこの理不尽な要件を満たすことが出来ず、逆に、「Zina Ordinance」を犯したことを裁判所に自白したとみなされ、15回の鞭打ち、1,000ルピーの罰金、そして投獄に処せられてしまったそうです。挙句の果てに、その二人のレイプ犯は無罪放免。

 こんな理不尽なことがあっていいのか、と女性の人権団体をはじめ、様々な人々がパキスタンでZina Ordinanceの廃止を訴えてきましたが、一部のイスラム聖職者を初めとする保守派の壁に阻まれてきました。タニヤの主張では、Zina Ordinanceの根拠をイスラム教の聖典であるQur'an(コーラン)に求めるのは明らかな拡大解釈、局解であり、それは心あるイスラムの聖職者やイスラム法学者も認めるところだということです。

 彼女がこんなスピーチをしたのが確か10月のはじめ。そして今日、彼女が嬉しそうに言うには、先月パキスタンでZina Ordinanceが改正されたそうです。改正の内容は十分とは言えないそうですが、少なくとも上に挙げたような悲惨な判決が下らないよう、婚外性交とレイプの区別がより明確になったほか、その立証についてもより被害者に配慮したものとなったとの事でした。

 僕が「君のハーバードでのスピーチが遠くパキスタンまで届いたのかな」と言うと、「ありがとう。それは無いけど、卒業してからも国連で女性や子供の人権保護のための仕事をしていきたい。パキスタンの問題を解決するには、外からのプレッシャーと協力が絶対必要だって、これまでも感じてきたから」と彼女。

 タニヤとはスピーチのクラスが10月下旬に終わってしまってから話す機会がありませんでしたが、今日、こうした打ち上げのお陰でまた色々話を聞くことができました。来学期以降は僕のほうから、積極的にこうした場を企画できればと思っています。

 さぁ、明日から冬休み。1ヶ月半という信じられないくらい長いお休みの始まりです。まずはクリスマスを祝うためニューヨークへ。その後、1月の上旬はニューオリンズでボランティア、そして下旬は中米のプエルトリコで「充電」する予定。職場に復帰したら二度とないであろうこの貴重な休みを一日一日大切にすごして行きたいと思っています。


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