ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

ピンポン

2007年10月05日 | 日々の出来事

 

 ここ最近、ケネディスクールのコートヤード(中庭)を囲む4つの建物のひとつ、Taubman棟の一階のホールでは、ピンポンの軽快な音が響いています。先月の末にある人から学生に立派な卓球台、ボール、ラケットのセットが寄付されたのです。

 寄付した人物は今年から僕が所属するMPP(Master in Public Policy)プログラムのFaculty Chair(学部長)を務めているMalcolm Sparrow教授。イギリスはスコットランド出身のSparrow教授は鋭い眼をしたひょろ長い人物で、一見すると非常に厳しく気難しそうで近寄りがたい雰囲気を醸し出しています。そしてうっかり彼のキャリアをウェブサイトで知ろうものなら、学生たちはますますそんな先入観を強めてしまうでしょう。

 何しろSparrow教授はイギリス警察庁(British Policy Service)出身で犯罪捜査の専門家、最後はDetective Chief Inspectorという何とも物々しい役職についていたのです。授業は、Strategic Management of Regulatory and Enforcement Agencies(規制・執行官庁の戦略的経営論)を担当していますが、クラスディスカッションでは厳しい“尋問”が繰り出されるのだろうか?うっかり宿題やリーディングを疎かにしようものならたちまち「タイホ」されてしまうのだろうか???と言う感じで、偏見がドンドンと広がってしまうに十分な顔つき(失礼!)と経歴の持ち主なのです。

 そんなSparrow教授が9月初めのオリエンテーションの時期、MPPの二年生に対して、卒業要件や卒論の概要について説明をするセッションを開いていたのですが、自己紹介がてら彼はこんなことを言ったのです。

 「私はイギリス警察で10数年仕事をしてきたけど、取り調べよりも得意なのは実は卓球だ。色々なトーナメントに出て優勝したこともある。もっとも、アメリカ人は卓球のような小さなスポーツには興味もないかも知らんし、ああいう繊細なスポーツは向かないかもしれんがね・・・」

 コトはその翌日の夜起こりました。

 僕のクラスメートで陽気なアメリカ人のナビードから、Sparrow教授とMPP2年生全員に宛てて「Table Tennis Challenge」と題するメールが送られてきたのです。

 「Sparrow教授。僕らMPP2のメンバーはあなたを新しい学部長として歓迎しているが、一方で、昨日のMPP2のInfromation Sessionでのアメリカ人の運動能力を侮辱するあなたの発言は容易に看過できない

 よって、わたくしナビード、生まれも育ちもアメリカはシカゴ、卓球を愛してやまないピンポン・ボーイが米国の威信回復を賭け、ここにピンポンの決闘を申し込む!

 場所・時間は教授、あなたが指定してよろしい。そして決闘の敗者はHarvardを去る!(えっと、やっぱり“勝者を昼飯に招待する”にしましょう・・・)

 他のMPP2の同志たちよ。ともにSparrow教授に挑戦したくば、僕に続け!!」

 ・・・

 ちなみに、挑戦状を叩きつけたナビード本人は卓球をやったことがありません。。。

 あんな強面の教授にこんな冗談メールを送って大丈夫なのだろうか、、、と心配していたところ、何と次の日の深夜にSparrow教授から長文のメールが返って来たのです。

 「ナビードよ。君の挑戦的なメールを有り難く受け取ったぞ。無論、決闘に応じるのはやぶさかではない。しかし見ろ。君がメールを送ってから丸一日たっているのに、誰一人君に続く同士として名乗りを上げないじゃぁないか。やっぱり、私が言ったとおり、アメリカ人はピンポンができないんじゃないか?

 悔しかったらMPP2の中で、熱狂的なピンポンファン20名をまずは集めたまえ。ピンポンを愛する20名以上の署名が集まったら、私は自分が長年大事にしてきたピンポンテーブルとラケット、そしてボールを寄付することを約束しよう。

 そしたらナビード。まずはその仲間たちでトーナメントをやりたまえ。そのトーナメントで君が優勝したら、僕が相手になろう。」

 ナビードは早速MPP2の学生たちに、「ピンポン連盟」に加入を求めました。するとたちまち数十人の署名が集まります。そして、ナビ―ドからリストをうけとったSparrow教授は約束通りピンポン台を学生たちにプレゼントしてくれたのです。

 ちなみに、ナビード本人は腕に覚えのある中国人の学生(本当にツヨイです・・・)をはじめ、他のクラスメートにコテンパンにやられて未だSparrow教授にチャレンジできないでいます。。。

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 話は変わりますが、実はこの日曜日(9月30日)、僕はこんなSparrow教授の別荘に遊びに行っていました。

 学部長として僕たち9名のClass Advisorの仕事振りを見ていたSparrow教授は、僕たちに「新入生と大学のために時間を惜しまず貢献してくれた君たちの働きぶりに本当に印象付けられた。感謝の気持ちをこめて、私の別荘でのんびりと時間を共有したいのだが、如何だろうか?」という何とも有難いメールを送って下さったのです。

 場所はボストンから車で2時間程北へ向ったところにあるNew Hampshire州。最高の秋晴れの中、既に紅葉が始まっている美しい風景の中を走らせると、キラキラと輝く湖の湖畔にSparrow教授の立派な別荘が見えてきます。

 別荘には卓球台はもちろん、テニスコートもあったため、本当に久しぶりにテニスに汗を流すことができました。その後は紅葉の木々が映える美しい湖を皆でカヤックやカヌーで繰り出して楽しみます。昼は教授の奥さんがつくってくれた美味しい料理とワインで乾杯。

 「Sparrow教授、お招き頂いて本当にありがとうございます。」と声をかけると、「違う、Sparrow教授じゃなくて、Marcolmと呼んでくれと言ったろう?!」という厳しい指令?が。

 学期が始まって以来、日光を浴びることすらなく、ひたすら図書館にこもっては教室で戦う日々が続いていたため、久しぶりに本当にリラックスした時間をClass Advisorの仲間、そしてMarcolm夫妻とともに楽しむことができました。

   

 以上、日々のちょっとしたエピソードでしたが、授業中は緊張感に満ちた真剣勝負であっても、一歩教室を出れば、学生に対して担当教授という役割を超えて、人生の先輩として、時に友人として打ち解けた時間をもってくれるのが、ケネディスクールの教授陣。研究者あるいは実務家としてそれぞれの専門分野で名を馳せ、また教育者としての情熱を持ち、そして学生との時間を楽しんでくれる、そんな教授が多いのもケネディスクールの魅力の一つです。

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