菊名駅から徒歩数分のところにあった喫茶店「アカネ」。
北の大地の幼なじみに連れられて、友人と3人で初めて行ったのが高校生の時でした。
カウンターだけの小さなお店は、洋楽が流れていて、ちょっと薄暗く、サイフォンで淹れるコーヒーは香り豊かで美味しかったです。
何度か通ううちに顔見知りもできました。
仕事帰りに待ち合わせをする証券会社勤めのお姉さんはタバコを吸ってカッコ美しかったし、ウインドサーフィンが趣味のサラリーマンは冬も日焼けして真っ黒だったし、キクナアトリエに通う男の子の服はいつもセンス抜群で、バンドをやっていて特徴的な穏やかな語り口の年上の男の子はギターや音楽の話になるとちょっと早口で熱く語っていました。
中学でピアノかバドミントンかと母に選択を迫られ仕方なくピアノを辞めたのに、高校に入りすぐに部活を辞めてしまい、やりたい事が見つからなかったあの頃。別の高校や大学に通う少し年上の人や社会人の人達との会話はとても新鮮で刺激的でしたし、皆、目標があってステキに思えました。
そのうち、一人でお店を切り盛りしていたママさんに駅から電話をして、お肉屋さんや八百屋さんでお使いをするようになりました。
カリッと焼いたトーストに四角いハム2枚と卵を焼いてマヨネーズとケチャップを挟んだホットサンド、牛骨を入れたカレーライスは美味しかったです。
一番の特別メニューはコーヒージュレップで、ハンドドリップのアイスコーヒーにバニラアイスを乗せ、つまようじでチョンチョンとミントオイルを滴し、チョコレートシロップをかけるという何ともスペシャルな飲み物でした。
その頃、母は書道教室の先生をしていて、弟が小学校の友達を連れて来ることもあり、思春期のひつじは家族の知らない場所で過ごしたり、家族以外の誰かに認めて欲しかったのだと思います。
あの頃、遊びに来ていた弟の友達が、ギターを熱く語っていた男の子の弟だと知ったのは、しばらく後でした。
そしてギターを熱く語っていた男の子は、クレイジーケンバンドのギタリスト「のっさん」こと小野瀬雅生さんです。
あんなに通っていたのに、バンド活動やバイトで忙しくなり、すっかり足が遠のいてしばらく後、ママさんが救急車で運ばれ、そのままお亡くなりになったと電話で知らせてくれたのは、高校の同級生の女の子でした。
横浜線の線路沿いにあったアカネは、ステキな出会いをくれた大切な思い出のお店で、時々あのカウンターで飲んだコーヒーを思い出します。