ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

手編みのカシミアスウェーター&粗羅紗のダッフルコート

2010-02-15 18:57:01 | 白井さん




 一週間ぶりの更新となりました。これには理由がありまして、実はこの時期、信濃屋の皆さんは来るべき春夏シーズンに向け大変お忙しく、白井さんも出張などでお店を留守にされるため、このブログ撮影も今週末までお休みを頂いています。しかし先日、そんなご多忙の最中にもかかわらず、白井さんのご好意で特別にお時間をいただき、大変貴重な“白井さんの休日スタイル”の撮影をさせていただくという僥倖を得ることができました!!以下いきなりですが、事の顛末についての余談からスタートです(長いです笑)。

 毎週、白井さんが出勤される木・土曜日に撮影し、私のお休みに合わせて月・金曜日に更新してきたこのカテゴリー“白井さん”でしたが、上述の理由で先週金曜日の更新はお休み。ならば替わってと、今シーズン銀座天神山さんで新しく作ったジャケットについてのアップを予定していたのですが、ここ数週間、実は結構動きが多い白井さんの撮影に慣れてしまっていたからなのか、前もって天神山さんの店内で撮影していた写真の殆どが、トルソーに固定されたジャケットの撮影にもかかわらず何故か殆どがピンボケ(汗)。“目にも止まらないパンチを紙一重で見切るボクサーがゆっくり投げられたピンポン球は避けられないと謂われるが、これがそれか!”と一人合点しつつ、さてどうしたものかと悩んでいました。

 そんな折、このブログで何度かご紹介した西麻布にある私のお気に入りのバーのオーナーバーテンダーSさんから『次の金曜日にランチをご一緒しません?』とお誘いを受けたので、“これは一旦ブログからは離れて気晴らしをしなさいとの神の啓示か?”とこれまた一人合点し、この日、先週の金曜日は新宿にある“パークハイアット東京”の52階にあるレストラン『ニューヨーク・グリル』に向かいました。

 パークハイアット東京は1994年オープン。当時はフォーシーズンズホテル椿山荘東京、ウェスティンホテル東京と並んで“東京外資系ホテル御三家”などと呼ばれていてたスモール・ラグジュアリホテル。客室を178室に限定し実にきめ細かなサービスを受けられることでつとに有名です。海外での評価も大変高いそうで、世界のトップ500の企業のCEOにアンケートしたところ、このパークハイアット東京は堂々の世界第2位に輝いたことがあるほどだそうです。丹下健三設計による『新宿パークタワー』の39階から52階に入居していて、ホテル正面玄関から専用エレベーターでまずはフロントレセプションのある41階に直行。さらに上層階に位置する客室やレストランへは、同フロアでも最も奥まった場所にあるフロント・デスク付近から別のエレベーターに乗り継ぐ必要があります。利用客が各セクションやフロアを通過するごとに少しずつ日常から離れていくように緻密に計算され、客室階のプライバシーが完璧に保たれた設計はまさに“大都会の喧噪を離れた大人の隠れ家”というこのホテルのコンセプトのため。

 ですが上述の薀蓄をSさんから伺うまでは、そんな素晴らしいコンセプトのホテルだとは露知らなかった私は、52階にあるレストランまで行き着くのにやたら迷ってしまい、クロークの方に『ここまで来るのにもの凄く時間が掛かりました笑。』と軽く嫌味を言う始末。無粋ここに極まれりという有様で、パークハイアットの皆さんごめんなさい(汗)。高い天井の店内は居心地が良く、窓からの眺めは素晴らしく、その日は夕食が食べれなかったほどお腹一杯になるまで美味しい食事をゆっくりと楽しみました。Sさんとは先日、西麻布のお店で美容師のW君、天神山仲間のT君と共に白井さんの話題で盛り上がったばかりだったので、ここでの話題ももっぱら白井さんについてでした(笑)。

 因みにSさんは実に独特なライフスタイルをお持ちの方なのですが、都内のラグジュアリホテルはほぼ完全制覇されていて、このパークハイアット東京もSさんお気に入りの“常宿”。この日もハイアットグループが世界中で営む多くのホテルの中でも数人しか存在しないという特別なバッジを付けたマネージャーが、『いらっしゃいませ、お待ちしておりましたS様。』とイの一番に挨拶に出向いてきたり、ここには書けませんが、ちょっと普通ではあり得ない特別なサービスも受けることができたりと束の間のセレブ気分も味わうことができました。私も憚りながら張り切って白井さん流の着こなしを実践していたお陰さまで、なんとかSさんに恥を欠かせないという最低限の振る舞いはできたと思います。

 さて無茶苦茶余談が長くなりましたがここからが本題。食事を終えた私が携帯電話を見るとなんとそこに白井さんの携帯から直々に着信&留守録のメッセージが(もちろん白井さんの貴重な肉声は永久保存済み)!!聞くとご丁寧にも撮影お休みについて白井さんから再度確認していただくという内容でしたが、兎に角取り急ぎ折り返しの電話をさせていただきました。この時の時刻は16時30分。

 私、『こんにちは。わざわざお電話ありがとうございます。今新宿にいるのですが、さっきまで友人と食事をしていましてお電話に気が付かずに申し訳ありませんでした。』

 白井さん、『そう、今日はお休みなんだけど、今ね、お店に居るんだよ。』

 私、『ええ!そうなんですか!ああ~残念!もう少しお電話に気が付くのが早ければ良かったんですが、今から自宅に戻ってカメラを取ってきて横浜に向かっても、白井さんがお帰りになる時間(18時)には間に合わないと思うんです。』

 白井さん、『そう、それは残念。今日はちょっと面白い恰好してるんだよ。』

 私、『ええ~!そうなんですか!ああ~本当に残念です(涙)』

 白井さん、『ちょっとくらいなら待っててもいいんだけどね。』

 私、『本当ですか!?わかりました!直ぐ伺います!』

 白井さんにそこまで仰っていただいて『行かない』と言うのは大逆の徒の所業。あんなに走ったのは学生時代の部活動以来。私は、秀吉の中国大返し並の大急ぎで、まず自宅に戻ってカメラをピックアップ。一旦自宅の最寄り駅で白井さんに電話をして『18時10分にはそちらに着けます。なんとかなるもんですね(笑)』と息も絶え絶えにお伝えすると、電話の向こうで白井さんは、静かに声を出して笑っていらっしゃいました(笑)。JR桜木町駅で電車を降り、馬車道を駆け抜け、転がるように信濃屋さんに入った私を待ってくれていたのは本当に貴重な、ご自身もまずお店ではあり得ないと仰っていたスウェーター姿の白井さんでした。
 
 白井さん、『早かったね~!いや、本当だ、18時10分ピッタリだ(笑)』

 私、『“なせばなる”ですね(笑)』

 白井さん、『“なせばなる、なさねばならぬ何事も・・・”』

 そして二人で『“ナセルはアラブの大統領”!』と唱和して、余談が異常に長くなって申し訳ありませんでしたが、今回の撮影開始となりました。



    

 日頃お店で、頭の天辺から爪先まで、完璧なスーツもしくはジャケットスタイルでお客様をお迎えする白井さんが“まず滅多に無いね”と仰っていたスウェーター姿だった訳は、この後プライベートで日頃親しくされている方々との集まりがあるため。分厚くしっかりとした織りの真っ赤なカシミアのスウェーターは、白井さんが『これは4着くらいしかなかったね。』と仰るかつて信濃屋さんで扱ったマーロ(伊)のカシミアで、驚くことになんと手編み!その下、オフホワイトのタートルネックのスウェーターはバランタイン(蘇格蘭)で当然カシミア。グレンチェック柄のパンツはアットリーニ(伊)。私が『カラチェニですか?』と伺うと、『違う違う、この色はアットリーニだね。』と仰っていましたが、何故かツープリーツが鉄則の“白井流”では珍しいワンプリーツ。『ダブルのスーツを作った時にアットリーニが間違えたんだよ。直ぐにツープリーツでもう一本作り直させたけどね、まったく!』と怒ってました(笑)。

 靴はオールデンのコードヴァン。『これは“雨靴”。買ったのはフィレンツェだったかな?アメリカの靴を何もイタリアで買うことも無いんだけどね。』と仰っていましたが、この日の天気は朝から厳しい寒さの中、小雪交じりの雨が断続的に降るというものだったのでこの靴をお選びになったのでしょう。因みに以前、白井さんはお客様との会話の中で『雨でも靴は革底が一番良いよ。』と仰っていました。それから銀座天神山のIさん曰く『わざわざ雨用に新しい靴を揃えるよりは、お気に入りの靴を新たに購入して、今使っている靴の中で一番お気に入り度が低い靴を雨用に転化した方が良いよね。』と仰っていました。Iさんのお師匠である白井さんですから、確認はしていませんが、もしかしたらこのオールデンもそういう経緯で“雨靴”になったのかもしれませんね。

 折角の機会なので、白井さんにニットの着こなしで特に気をつけていらっしゃることはありますか?とお伺いしたところ、『柄物は着ないな~昔は持っていたけど、みんな人にあげちゃったよ。』とのこと。『お腹が出てきちゃって・・・』と気にされていた白井さんですが、変な柄物の悪趣味なニットで体型を誤魔化すよりは、今日の白井さんのように綺麗な色のシンプルなスウェーターをあっさりと着こなす方がよっぽどカッコいい大人の“休日スタイル”だと私は思います。



     

 『 映画「ナバロンの要塞」(1961米国映画)のグレゴリー・ペック、デヴィッド・ニーブンの二人が甲板上で着用している。「第三の男」(1949英国映画)では少佐役のトレバー・ハワードが、その他にも色々な戦争映画でジェネラル モンゴメリーに扮した役者がしばしば着用。因みにイタリーではモンゴメリーコートと呼んでいる。
 
 そもそも元はノルウェーの漁師が着ていたものをイギリスのモンゴメリー将軍が貰い、後に海軍の制服に採用したと云う説がある。本物はCASEYと呼ばれる粗羅紗を使用。重量があって小柄な日本人にはやや不向き。まるで厚手の毛布を纏っているようで、暖かい事この上ないのではあるが。1945年大戦後放出品として世に出回った。

 40年後の1985年、倉庫に眠っていた当時の生地でグローバーオール社が復刻版を作製。750着が世に出た。 勿論エディショナル・ナンバー入り。それ以前には60年代のアイビーブームの折り多少の改良が加えられ若者達の人気を集めた。当時、銀座のメンズウエアーでは店の奥に断ち台を置きオリジナルを製作していた。私も学生時代に購入している。

 現在は85年の復刻版を持っているが何しろ重くてめったに着る機会もない。何年か前に一時ブームが再燃し、その時に流行ったものは、革だかビニールだか分からないループと水牛の角だかプラスティックだかわからない、なにやら猪の入れ歯の様なトッグル?との組み合わせ、大の大人が着るには少々はづかしい代物であった。』(信濃屋HP“信濃屋オリジナル・ダッフルコート”より)

 上述は2007年8月21日に信濃屋さんのHPに寄せた白井さんの一文。そこにはこのコートについての全てが綴られていますので私の説明など不要です。文字だけで知っていた白井さん所有の粗羅紗を使ったダッフルコートを遂にこの日この目で見ることが叶いました。“CASEY(カージー)”と呼ばれる粗羅紗を使った、これぞ大人の男のための“本物の”ダッフルコート。『ほら、持ってごらん。もの凄く重いから年に一回、雪の日に着るか着ないかだけどこれは良いよ~(笑)』と仰っていましたが、確かにど~んと重かったです(汗)。コートの内側に刻まれたエディショナルナンバーは“476”。

 ターコイズ、もしくはスカイブルーのカシミアマフラー。形の呼び名はわかりませんが、古の海軍士官風のネイビーの帽子は英国の“JamesLock(ジェームス・ロック)”。一瞬“白井さんが軍手!?”と我が目を疑い、どこのものか伺い忘れてしまった暖かそうな手袋も手編みのもの。更に“魔法の杖か!?”とハリー・ポッターもびっくりのステッキは薔薇の根っこを使った一本。白井さんからは『○ート・ブライ○○だよ。』と教えていただいたのですが、私の記憶力の低さとメモした字の汚さが原因で○の部分が不明です(汗)。次回、チャンスがあれば今日の小物についてもう少し伺ってみますが、今日はそれぞれが実に“個性的”なアイテムばかりで、白井さんをご存じ無い、服飾についての興味が一般的な方が、今日の帰り道の白井さんの装いを見たら“一体何をしている人で、これから何処へ行くのか??”ときっと驚かれたことでしょうね(それは今回に限ったことではありませんが笑)。

 前回訂正分については、白井さんから『訂正はほぼ無かったね。』とお褒めの言葉をいただきました。本当は細かい部分で気になることはたくさんあると思いますが、白井さんのさりげないお心遣いに感謝しつつホッとしています。ただ白井さんと、前回登場した“グランド・ホテル”についてもう少し調べてみる約束をしましたので、横浜の近代建築に詳しい以下のURLをリンクさせていただきます→横浜近代建築アーカイブクラブ

 しかし、それにしてもあの白井さんが私の携帯に気軽にお電話をしてくださり、普通に会話をされているのが不思議で、更に、私の来着を待ってくださるなんて今でもちょっと信じられないようなシチュエーションで、その日ランチタイムに過ごした贅沢な時間も重なり、なんだか夢を見ているみたいな休日でした。               

                  

 

 さて、最後に、私などが余計なお節介ながら、ご紹介をさせてください。白井さんがその手縫いの技術と作りの確かさを『今のエルメスよりずっと良い。』と褒め称えつつご愛用し、世の数多の拘りある紳士諸兄をも唸らせる『Fugee』の鞄職人・藤井 幸弘さん の個展が、『Fugeeのしごと 16点の鞄展』と題し、過去25年に渡って、藤井さんが製作し、それぞれがお客様の手によって経年変化を遂げた16点の鞄を展示するという趣向で、明日、2月16日から28日までの2週間、近年恵比寿にオープンした『ギャラリープラーナ』にて開催されます。以下詳細は、

 場所       ギャラリープラーナ(恵比寿)

 期間       2月16日~2月28日(22日・月曜日はお休み)

 開廊時間     11時~19時(最終日は11時~18時)

 藤井さん在廊日  16日(火)18日(木)20日(土)21日(日)

           23日(火)25日(木)27日(土)28日(日)

 となっています。不肖、私もその芸術的な美しさに一瞬で魅了され、“奇貨おくべし”と清水の舞台から飛び降りるつもりで購入したスウェードの抱え鞄は、愛着を抱くのはもちろん、今では所有することそのものが誇りにもなっています。長年その美しき鞄を手にする者にそんな喜びを感じさせ続けてきた『Fugee鞄』16点が一堂に会する。私も白井さんにお誘いいただいて(嬉しい!)珠玉の名品を鑑賞させていただく予定になっており、今からとても楽しみです!