ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

チョークストライプのフランネルスーツ&カシミアのポロコート

2010-02-23 04:00:00 | 白井さん




 ときはなる 松の緑も 春くれば 今ひとしほの 色まさりけり

 朝晩の冷え込みの厳しさは続いていますが、日中、空気の密度が微かに緩んでその隙間を初春の陽射しが少しずつ暖め始めているように感じる今日この頃。皆様大変お待たせいたしました。一週間ぶりの“白井さん”更新、2週間ぶりの“お仕事スタイル”、テンポ良く参りたいと思います。

 今日の白井さんの装いは冬の定番、チョークストライプのフランネルスーツとカシミアのポロコートを使いながらも、合わせた小物で春の風物詩“霞”を連想させる、そんな着こなしです。

  
     

 この日の横浜は冬らしい西高東低の気圧配置ながら、最高気温が10日振りに2桁を記録し、澄み切った青空から明るい日差しが降り注ぐ爽やかな、もし春と冬の境目が何時かと問われればこの日がそうだと答えたくなる、そんな陽気でした。

 微妙な季節の変わり目、きっと何か捻ってこられるに違いない、そう予測していた私でしたが、この日白井さんにお会いして、まず目に最初に飛び込んできたのはこの鮮やかなシャツの色。著名な紳士服飾評論家の影響か、近年つとに巷でもてはやされているサックス無地のシャツですが、このブログでは初登場。“フリャア(白井さん談、伊FRAYですね・笑・・・でももしかしたらFRYAというバッタもん!?ありえませんね・汗)”のピンホール。ネクタイは写真ではグレーにも見えますが、極々淡いブルーに同系色のグレンチェック柄を配したもの。ポケットチーフはやはり同系色、ブルーのドットがあしらわれた白いシルクを柔らかくパフで挿して。

 胸から上を全てブルー系統の色で、柄と色調を変えながら纏めるというちょっと余人では真似のできない超々高度な合わせ。白井さんは鏡をご覧になりながら『今日はボケちゃってるなぁ~。』と仰っていましたが間違いなく“敢えて”だと思います。無難に纏め過ぎても破綻を来たしても、有言不言問わず人の謗りを免れぬVゾーンのコーディネート。第一印象を左右すると云われるこの魔のトライアングルに、白井さんは日々挑戦し続けているのですね。

 おっと、主役を後回しにしてはいけませんね。チョークストライプのフランネルスーツはミディアムグレー。ガエターノ・アロイジオ氏の手によるス・ミズーラです。『最初はゴージがこ~んなに高くってさ、ダメだよこんなのって作り直させたら今度はこんなに低くなっちゃった。』と些かお嘆きのご様子でしたが、実はこのスーツは一昨年暮れの信濃屋さんのクリスマスパーティーでお召しになっていたもの。その時のテンガロンハットにウェスタンブーツという型破りなコーディネートには度肝を抜かれましたが、カントリーウェスタンをこよなく愛する白井さんならではのお茶目な着こなしでした。



 

 今日のシャツはフレンチカフ。カフリンクはクレメンツ(kremetz)製。クレメンツは1866年創業で『うち(信濃屋)と同い年』(白井さん談)のアメリカ合衆国のカフリンク専門メーカーで、タイバーや、タキシードスタイルの時に用いるスタッズなんかも作っているそうです。展示用のロゴマークも見せて頂きました。“14KT. GOLD OVERLAY”との表記を見て、『あ、これが住所ですか?』と言ってしまった粗忽な私に、白井さんすかさず『違う違う!“14金の張り”って意味だよ。メッキとはまた違うやつね。』と教えて下さいました。化学変化を応用した金属装飾技術である“鍍金(メッキ・plating)とは一味違う“張り”という技術や言葉があることを教わりました。この時のお話で“藤田商店さん”という輸入元のお名前が登場しましたが、こちらの初代の社長さんが、日本マクドナルドの創業者としてあまりに有名な藤田 田さん。白井さんが50年前にフローシャイムのロングウィングティップをご購入したされた時のお話でも藤田さんのお名前が出てきましたので、白井さんにとっても特別な方のようです。

 このブログでは初登場のフレンチカフ&カフリンクですが、実は白井さんはこれまでにも数回程スーツスタイルの時にはお召しになっていました。私がフレンチカフのシャツを全く着用しないのでこれまではスルーしていたのが原因です。カフリンクフリークの皆様申し訳ありませんでした(汗)。これからは気をつけて意識するよう心掛けます! 私、『フレンチカフの時は時計は腕に直接巻かれるんですね~。』白井さん、『そうそう、シャツの上からじゃ巻きにくいからね。』そんな余りに初歩的な私の疑問を遠くで聞いていた牧島さんは呆れて笑っていました(笑)。

 

 靴は今年最初の更新以来2度目の登場、白井さんが『何にでも合わせ易く履き心地がとても気に入っていて、新橋の大塚製靴でオールソールリペアしてもらったくらい。』と仰っていたシルヴァーノ・ラッタンツィ(伊)の一文字スウェード。『これもスウェードが剥げてきて良い感じになってきた。』とのこと。

 余談ですが、今日のネクタイはスイスの“a.mouley(ムーレイ)”のもの。私も同社のレジメンタルタイを一本所有していて、タグに確か“Paris”と表記されていたのを思い出したので、白井さんからこの名を伺ったときに『あ、フランスの!』と唱えたのですが、白井さん曰く『元々はスイスなんだよ。』とのこと。因みに、私が所有しているa.mouleyのネクタイは、数年前に初めて白井さんにお会いした時に“記念に”と見立てていただいた、実は思い出深い品です。このブログをお読みいただいている諸兄の中にもきっと同じようなご経験をなさっていて共感される方もいらっしゃるのでは?(笑)。

 今を去ること数年前、数多の洒落者が通った威厳漂う門扉を抜け、一階婦人服フロアに居並ぶ信濃屋撫子の皆さんの視線を掻い潜り、やっとの思いで辿り着いたエレベーターの中でほっとしたのも束の間。地階に降りた私を、『いらっしゃいませ。』と最初に迎えてくださったのは、紳士服飾会にその名を轟かせる白井さんでした。いきなりの邂逅に私の緊張がピークに達したのは言うまでもありません。兎に角白井さんから逃げなければ!と思った私が最初に向かったのはネクタイが陳列されたコーナー。ですが、この時は運悪くお客様は私一人。白井さんはお仕事柄私を背後から追いかけてきます(汗)。白井さんの気配を背中に感じ背筋が凍る私。

 『この辺が縞です。』と白井さん。

 “ストライプじゃなくて“縞”って言うんだぁ~かっこいい~!”と心の中で呟く私。

 思い切って『すみません、チャコールグレイのスーツ(当時の私の一張羅)に合わせるネクタイを探しているのですが選んでいただけますでしょうか?』とお願いすると、白井さんは『これとこれなんかどうでしょう。あとはお好みでよろしいと思います。』と仰って2本のネクタイを並べてくださいました。私は“こんな小僧にもきちっとした丁寧な接客をなさるんだなぁ”と驚きつつ、ちょっと悩んでからボルドー地にネイビーの両脇に細いシルバーが入った縞のほうのネクタイを選びました。今考えると藪から棒なお願いをしたもんだと恥ずかしいのですが、それがa.mouleyのネクタイで、私が信濃屋さんで買った最初の品でした。白井さんは勿論覚えていらっしゃらないでしょうけど、私には一生忘れられない思い出の詰まった一本です。

  
   

 お帰りはルチアーノ・バルベラのポロコート。今では到底お目にかかれない分厚い織りのしっかりとしたカシミアを使用した極上の逸品。手袋はエルメスのペッカリー。チェック柄のマフラーはフランコ・バッシのカシミア。ステッキはお馴染みの銀の握りの一本で、この度確認したところやはりスネークウッド使用のこれまた極上の逸品です。因みに、前回記憶が曖昧だった“魔法の”ステッキについては『ルートブライアーだよ。パイプによく使われるやつだね。』と再び教えていただきました。『腕に引っ掛けるところが無いからちょっと使いにくいんだけど、古美術商をしていたおじが亡くなって形見分けにいとこから“俊ちゃん使う?”“おう!使う使う!”って譲り受けたんだよ。生涯洋服を着たことが無かったおじでね。テレビはおろか電話も家に置かなかった人でね、相手の都合構わずいきなり呼び出すなんて失礼だってね。』とエピソードも交えていただきました。

 私見ですが、今日のコートスタイルのポイントは擦れたグレンチェック柄が印象的だったボルサリーノ(伊)の八枚剥ぎのハンチング。これまでポロコートには必ずソフト帽を合わせてきた白井さんでしたが、帽子一つ変るだけでガラッと雰囲気が違ってきますね。重厚なポロコートスタイルがほんの少し軽やかな印象に変ります。牧島さん曰く『白井さんは一枚天井より八枚剥ぎがお好きだね。“皆んな一枚天井が好きだよな~。八枚剥ぎのほうがクラシックで良いんだけどな”ってよく言ってるよ。』とのこと。

 白井さんからは『昔の映画なんかにはスーツにハンチングを被った男達がいっぱい出てくるよ。“コットンクラブ”とか“炎のランナー”とか観てごらんよ。衣装は“ミレーネ・カノネロ”が担当だから素晴らしいよ。時代考証がしっかりしてるから。ラストシーンでリチャード・ギアが着ているヘリンボーンのコートなんて俺が持ってるバルベラとそっくりだから。』とも教えていただいたので、今日早速“コットンクラブ”のDVDを借りて観てみました。“コットンクラブ”は1920年代の禁酒法時代のニューヨークハーレム地区に実在した高級ナイトクラブを舞台にした映画。監督はフランシス・F・コッポラ、主演リチャード・ギア。もちろん映画の内容話はここでは控えますが、昨年末からこうして白井さんを見続けていたからこそ“なるほどなぁ~”と目から鱗なシーンのオンパレード!という映画でした。

 そろそろ冬の終わりが近づいてきています。コートを脱ぐ季節になる前に、白井さんから帽子の所作について、ステッキの使い方、など冬の着こなしについて、余人では決して語れない奥深いお話をもっともっと伺わねばなりません。白井さんの美的センスに影響を与えたルーツについて、白井さんが見てきた内外の洒落者列伝などについてもまた然り、まだまだ知りたいことは山ほどあります。私はこのブログ上での“フランシス・F・コッポラ”にならねばならないのだと(コッポラ監督が知ったらさぞ不愉快でしょうが・汗)、そんなことばかり考えながら映画を観ていました。もちろん主演と衣装担当は不世出の洒落者・白井俊夫さんです。次は“炎のランナー”にも挑戦してみたいと思います。

 ※前回訂正・・・バランタインについて『(伊)』と表記していましたがこれはとんでもない誤りで、正しくは『(蘇格蘭)』つまりスコットランドが正解でした。この場をお借りして訂正とお詫びに替えさせていただきます。

 ※更新のタイミング変更について・・・毎週月・金曜日に更新してきたこのカテゴリー“白井さん”ですが、これまでは私の都合上更新時間にバラツキがあったため、“もう更新されたかな。あれ、まだだ。”と、折角ご愛読頂いている皆様の貴重なお時間を無駄にし“がっかり”されたことが多々あったと思います。もちろん撮影については白井さんのご都合を最優先としますが、更新時間については今回から、基本的にですが、火・土曜日の深夜4:00に固定したいと思っています。