クワガタ~スズメバチ等の覚書

   Photo & Text by こよみ

PC版テンプレート画像は
朽木屑を運ぶオレゴンルリクワガタ♂

シェンクリングオオクワガタ・2-羽化

2020-05-04 23:39:09 | シェンクリング

はじめに

この記事には最後に『おまけ』があります。

クワガタの蛹室について書いていますので、その部分だけでも読んでみてください。

 

シェンクリングの羽化

昨年7月13日に卵・初~2齢幼虫で割り出したシェンクリングが羽化をはじめました。

幼虫の管理温度は約15~24度の範囲で穏やかな季節感を持たせました。

 

 

メスは割り出しから7か月前後で羽化、オスは10か月ほで羽化しています。

 

↓ 2020年1月羽化 49㎜台

↓ 2020年2月3日 

↓ 最初はカワラ菌床800cc

 

途中の餌交換(菌床)は同じ製品が品切れであったため

仕方なくヒラタケ菌床を使いました。

私のよく使用する菌床は『品切れ』というのが珍しくなく、欲しい時にない。

これは困ります。客が逃げてしまいます。

 

↓ ヒラタケ菌床1500cc

 

投入した幼虫は不安をよそに異なる菌床への拒絶反応らしきものもなく

特にオスは 蛹室のような空間で居食いするという感じでした。

 

↓ 室内にとどまりほとんど移動しない

 

今日現在で3♂4♀が羽化しており、大きな個体は出ていませんが

餌交換時の♂体重と羽化時の体長は次のようになりました。

 

 

内心ではもう少し大きく育つと思っていたのですが

75mmにすら到達しない途中結果となりました。

菌床にかかった費用を考えるとマットでもよかったかな?

そんな思いのGW中盤です。

 

『おまけ』

メスの人工蛹室はNG?

5月に入り、気温の上昇とともに飼育ではクワガタムシの羽化シーズンを迎えています。

また、最近では蛹を羽化させるために

人工的に作られた蛹室が用いられることも珍しくはありません。

 

クワガタムシのメスの体内腹部末端付近には「菌嚢」と呼ばれる器官があり

そこでは、幼虫が食べた餌を分解〜栄養吸収するのに有用な

共生酵母が生育されています。

また、それらの菌類は産卵時に卵に付着し

孵化した幼虫がそれを受け継ぐと考えられています。

 

生物の科学 遺伝vol.72  2018 No.4 [特集Ⅰ]クワガタムシ研究最前線」

   発行:株式会社エヌ・ティー・エス

によると

幼虫の糞で固められた蛹室には

菌嚢由来の共生酵母が付着していると考えられており

クワガタムシのメスは羽化後に菌嚢を露出させて蛹室壁にこすりつけ

蛹室作成時に排出した共生酵母を再び菌嚢に取り込んでいるらしいのです。

そのため人工蛹室で羽化したメスは体内に共生微生物を取り込めず

それを次世代に伝えることができなくなるそうです。

ということは・・・

 

↓ 菌嚢は表皮組織で、脱皮・羽化の時に脱ぎ捨てられる

↓ 人口蛹室で羽化したヒョウタンクワガタ 

↓ 本来の蛹室で羽化したシェンクリング ♀

 

そういえば羽化した新成虫が(雌雄の記憶はなし)

お尻を蛹室壁にこすりつけている場面を何度か見たことがあります。

その時は何をしているのか判りませんでした。

 

↓ 羽化後のシェンクリング ♀

 

メスを人工蛹室で羽化させることはあまりないと思いますが

共生酵母のことなど考えると

人工蛹室はどうやらオスだけにしておいた方がよさそうです。

 

↓ ティッシュ蛹室で羽化するグランディスオオクワガタ

 

最後に

生物の科学 遺伝vol.72は、2年前に発行されたものですが

特集Ⅰ「クワガタムシ研究最前線」は全51ページにわたります。

私には読みこなせていない部分もありますが

飼育と直接結びつく内容のオススメ本です。

 

参考文献:

 2018年7月1日発行. 

生物の科学 遺伝vol.72  2018  No.4 [特集Ⅰ]クワガタムシ研究最前線」

  発行: 株式会社エヌ・ティー・エス,

参考URL:

 クワガタムシ・コガネムシ類における昆虫-菌類の

 共生関係の解明と保全生物学的応用

 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-14J09621/2016/


シェンクリングオオクワガタ

2019-07-15 23:11:29 | シェンクリング
はじめに
 
台湾のクワガタムシの分布や生態等に関しては
 
書籍に加え、独自に収集した資料と訪台時の経験を交えて記します。
 
 
 
シェンクリングオオクワガタ
Dorcus schenklingi  (Moellenkamp,1913)
 
分布:台湾ほぼ全土
   対岸の中国大陸ラベルもあるようだが真相は不明
 
標高:1000~2500m
 
体長:オス野外最大88mm メス50mm台
    (台湾大学に93mmの標本の噂)
 
発生時期:おおよそ3~12月(5・6月最多)
     南部の藤枝地方が最早発生
 
発見場所(おおよそ比率):
    灯火90% 樹木5% 路上等5%
    材割での発見は困難 
 
雌雄発見比率:オス約20% メス約80%
 
その他:
フルーツトラップでは中小型が集まる
 
大型個体は多少の雨でも飛翔する
 
二度の訪台時には(2000・2001)
 
ライトトラップに40mmにも満たないオスが飛来。
 
公衆トイレの便器横でひっくり帰った65mmほどの個体を発見。
 
個体数に関しては、個人の感覚的な見方として
 
東北地方でライトトラップに飛来するオオクワガタより
 
やや少ないといった印象でした。   
 
 
シェンクリンオオクワガタは台湾特産種で、保護されており(以下シェンク)
 
野外個体の市場流通は事実上ありません。
 
また、シェンクは大陸に分布するアンタエウスオオクワガタの
 
代置種ともいわれており、産卵形態は似ています。
 
実は2000年のはじめの頃
シェンクとアンタエウスの交雑実験をしたことがあるのですが
 
産卵した10数卵は全て腐敗し、異種間の雑種(*F1)の発生はありませんでした。
(*F1=first fillial generation)
 
↓  アンタエウスオオクワガタ(インド産) 
 
久しぶりのシェンク
 
 2018年5月 久しぶりにシェンクを入手しました。
 
改めて見ると他種と間違えることのない特徴的な種です。
 
入手したペアは、オスが同年3月30日、メスは同年4月10日に羽化したもので
 
今年になってやっと産卵するようになりました。 
 
 ↓ オス 合望山飼育個体80mm 
  
↓ 大型になると内歯はより前方に位置する
 
 
↓ メス 合望山飼育個体50mm
 
↓ メスの前胸背板側縁はギザギザ風 
 
 
  
産卵~割り出し 
 
割り出しは、連休初日の7月13日に行いました。
 
 
 ↓ 割り出し直前
↓ 初齢
↕ 2齢初期
↓ 坑道中のメス
 
 
 割り出しの結果は、卵=2 初齢=5 2齢=3 計10頭
 
今回の割り出しでは朽ち木からのみ卵・幼虫が発見でき
 
マットからの発見はありませんでした。
 
↓ カワラ菌床800ccへ投入
 
↓ 棚も少しずつ埋まってきました
 
 
以前飼育していた時はマットでも80mmを超える個体が出てきました。
 
カワラ菌床で飼育するのは初めてなのでこの先どんな成長を遂げるのか楽しみです。
 
最後になりましたが
 
台湾のクワガタムシに関する多量の資料と情報を提供してくださった
 
呉氏・朱氏・林氏には心からお礼申し上げます。  謝謝
 
 
 
*記事中のF1とは
本来の意味である異種間の交雑個体第一代目
(first fillial generation)ということであり、
生き虫界で使用されている表示とは意味合いが異なります。
 
参考文献:
李恵永著,台湾鍬形蟲(自然観察図鑑4)
2004年9月発行:新親文化事業有限公司,