クワガタ~スズメバチ等の覚書

   Photo & Text by こよみ

PC版テンプレート画像は
朽木屑を運ぶオレゴンルリクワガタ♂

キュウシュウヒメオオクワガタ・2-割り出し

2019-10-20 19:40:46 | キュウシュウヒメ

今日はヒメオオクワガタ2種の割り出しを行いました。

最初はキュウシュウヒメオオクワガタです。

 

↓ 左:キュウシュウ ・ 右:本州

 

  

2016年12月からキュウシュウヒメオオクワガタの飼育をはじめましたが

残念ながらその翌年には産卵しないまま雌雄ともに死亡してしまいました。

 

初めてのキュウシュウヒメオオクワガタは

あまりにもあっけなく終わってしまったため 

昨年の8月に、再び野外個体(メス)を入手し

この春から産卵セットを組んでいました。

 

↓ 大分県産 ライトトラップ採集個体

 


産卵セット

春から硬めのブナの朽ち木を転がしておいたのですが

一向に産む気配がなかったため8月に朽ち木の交換を行いました。

交換した朽ち木はカワラタケの生えるブナ材で

それを縦に半分に割りキュウシュウヒメオオクワガタと

本州のヒメオオクワガタそれぞれに使いました。

 

↓ 夏のブナ帯

 

ヒメオオクワガタの棲息する現地では地上に横たわる倒木や、立ち枯れはありますが

飼育下で行うような土(マット)に埋まった朽ち木はほぼありません。

今回はそれに倣い(ならい)、朽ち木をマットの上に置くだけとしました。

 

↓ 朽ち木を置くだけのセット

 

 

朽ち木を取り出してみると派手な齧り痕が現れました。

お~これは期待できる!?

 

 メスはすでに越冬体制

 

早速に材を削っていきましたが食痕は硬い部分に進んでおり、なかなか削れません。

そして、ようやく出てきた幼虫は2齢でした。

 

↓ 硬い部分から2齢

 

期待しながら硬めの材を更に削っていきますが

最初みたメスの齧り痕とは裏腹に一向に幼虫がでてきません。

そして、ついには割り出し終了というところでやっと2頭目が出てきました。

 

↓ 2頭目、こちらも硬い部分

 

 

割り出しを終え、出てきたのは2齢幼虫2頭だけでした。

あんなに齧り痕がたくさんあったのに・・・

 

 ↓ 計2頭!

↓ 割り出し終了!

↓ プリンカップのカワラ菌床に投入

 

 

期待したキュウシュウヒメオオクワガタ割り出し。

いざ割り出してみると2頭のみ回収というさみしい結果に終わりましたが

採れただけでもよしということで・・・

 

この後は本州のヒメオオクワガタの割り出しです。

本州のほうも齧り後があるので期待しながら次につなげました。

 

↓ 本州のヒメオオクワガタ

 
 


キュウシュウヒメオオクワガタ

2016-12-29 21:32:30 | キュウシュウヒメ

今年もあと2日を残すだけとなりました。

今年も沢山の方にご訪問いただき、ありがとうございました。

先日、九州からヒメオオクワガタが届きました。

届いた箱の中には凍らせたペットボトルが横たわっており、その近くに小さなタッパーが二つ。



普通、この時期の生体発送はカイロが入っているのですが

冷えたペットボトルの理由は、冬季休眠中の個体に刺激を与えないための処置で

ひんやりした空気とともに無事届きました。



オス=34mm・メス=32mmのかわいらしいサイズですが

キュウシュウヒメオオを見るのは初めてです。

このペアは 熊本県で今年12月に朽ち木から採集されたもので

恐らく同腹ペアではないかと想像します。

また、越冬中の新成虫であるため本来の活動は来年春以降になると思われます。

もちろん未交尾であることは言うまでもなく、ブリードするにはもってこいのペアです。

基亜種との違い

ヒメオオクワガタは現在2つの亜種に整理されています。

ヒメオオクワガタ(基亜種)
Dorcus montivagus montivagus
分布:本州・四国・北海道

キュウシュウヒメオオクワガタ(九州亜種)
Dorcus montivagus adachii
分布:九州

ヒメオオクワガタ(基亜種)


↑↓ 左:兵庫県産54mm 右:北海道利尻島産38mm



↑↓ 左:兵庫県産33mm 右:北海道利尻島産38mm


利尻島の個体採集者のお話では分布数は多くなく、1日歩き回って10ペア見つかればよいほうで

オスメス共形状に利尻っぽいものを感じておられるそうです。

キュウシュウヒメオオクワガタ(九州亜種)

キュウシュウヒメオオクワガタは、基亜種に比べオスメス共に体と大あごが太短く

オスの体は艶消し状のようになり、メスもやや艶が少ない傾向にあります。

↑↓ 頭部・前胸背板に艶は殆どない


画像と実際はさほど違いがなく

光の角度を変えてもオスの違い(艶)は明瞭でなるほどと思えるものでした。

そうなると広島県で採集された個体の中にキュウシュウ亜種に似たオスが1頭含まれていたという

過去の事例が気になります(漆山誠一,1994)

↓ 左:兵庫県産45mm 右:熊本県産34mm

↑↓ 左は艶が強い(基亜種)



↑↓ キュウシュウヒメオオクワガタのメス、結構艶がある



↑↓ 右:兵庫県産35mm 右:熊本県産32mm 
 
↑ 兵庫県産は野外活動個体のためスレており

艶も消失個所が多いため、個体差等も考慮すると見慣れない私にはメスの区別は難しいです。

かなり前に九州在住の方から聞いたお話では

「キュウシュウヒメオオのルッキングではツタの絡まる木で発見することが珍しくなく

また、比較的木の高いところで見つかることがある」との事でした。

私のよく行く山でもそういうことはありましたがその頻度は少し違うように感じました。

ヒメオオクワガタは関西地方では標高850mあたりから

1000m位のブナ帯で発見されることが多いのですが

緯度の高いところではもう少し低いところでも発見できると聞きます。

仮に山が繋がっていても限られた環境でのみ生息するヒメオオクワガタにとっては

それぞれの棲息地が隔離された状態にあることも多く

その垂直分布を見ると海に囲まれない島みたいなものかと思います。


↑ ブルーライン内が分布域

また、成虫のホスト樹や発生木の影響により自然下でも血縁での交配は珍しくないものと私は考えます。

撮影を終えたキュウシュウヒメオオクワガタは

自然温で暫く冬を感じてもらい覚醒後に繁殖を試みたいと思います。

↓ 右 キュウシュウヒメオオクワガタ


参考文献:
漆山誠一,1994,月刊むし283号,18-19.
吉田賢治,1996,日本産クワガタムシ大図鑑.
藤田宏,2010,世界のクワガタムシ大図鑑6,むし社.