貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

十勝玲瓏石

2023-08-15 19:24:18 | 国産鉱物

国産鉱物の白眉、隠れた「日本の至宝」!(個人の感想ですw)
十勝玲瓏石。

前々からツイッターで(もうその名前廃止だろ?)何人かの採集・加工者さんの投稿を見て、いつかは欲しいなあと思っていたのですけど、この度ちょっとした慶事がありまして、その記念に大奮発で2つ購入。貧石領域外、星の彼方。@玲瓏石さんという、自ら採集して、磨いて、メルカリで販売してらっしゃる方から。

まずは「ブルー系」。
ぱっと見は真っ黒なガラス。光を吸収する不思議な黒。横の二つはおまけのチビ石です。

ところがそこにぼんやりと同心楕円系の光る輪が浮かび上がる。

何かくらっとする神秘的な光景です。
さらに光を強く当てると、鮮やかなブルーシルバー、そして所々に虹色の輝きが浮かぶ。

水の中に入れて表面反射を抑え、強く光を当てると、もっと絢爛に輝く。いろんな色が見える。

何か不思議な天体を見ているような神秘的な美しさ。
あちきの写真術ではなかなか写らないけど、@玲瓏石さんのツイッター動画だともう少しダイナミックに見える。よろしかったご参照あれ。

こちらは磨いていない裏面。明るい青と黒い紺が層構造を作っているのがわかる。そして全面にきらきらと輝く点々。赤や金色に光ったりもする。

おまけのチビ石は模様は出ないみたいだけれど、同じような輝く点々が浮かぶ。一応これも玲瓏石らしい。




いやあ、実にすごいです。

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もう一つ。玲瓏石は様々なバリエーションがあるようで、こちらは「マホガニー系」「ゴールデン系」の「花十勝玲瓏石」。ちょっとサイズが小さくて、不定形だけど、ぱっと見ですでに派手。

花十勝というのは黒曜石の黒に赤や茶色が散りばめられたもの。この玲瓏ではそれが層構造になって、ブルーとミックスしている。
水に入れるともっとド派手。

茶の部分も青の部分も、虹色っぽく光が変幻する。

ブルー系のものがぼわあっとしたムーンストーンのような光だったのに対して、こちらはかなり明確。むしろラブラドライトのシラーのよう。
側面を見ると、はっきりと茶の層がわかる。成分が異なるのでしょうか。


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「十勝玲瓏石」とは何か。ネットでは学術的な記述は見つかりません。
十勝石は黒曜石=オプシディアン。火山性ガラス。
約130万年前に大雪山塊の東部、クマネシリ岳の噴火によって流出した溶岩が固化したものと考えられている。
で、その中で、主に層状の模様があって、青や虹色や金色のシラーが輝くものを「玲瓏」と呼んでいるようです。
「玲」は「玉の鳴る美しい音」あるいは「透き通って美しく、明らかに見えること」(『角川漢和中辞典』)。「瓏」も同義。「玲瓏」は「玉が触れ合って鳴る美しい音」あるいは「玉のように光輝くさま」。白楽天の長恨歌にも「楼閣玲瓏五雲起」と出る。
足寄工房の柴刈信一さんという方が「開拓」されたらしい。命名もこの方なのかな。
足寄工房のサイトの「黒曜石資料館」ページには様々な黒曜石の写真が載っています。

黒曜石自体は十勝の足寄・上士幌あたりの川でたくさん見られるけれど、玲瓏石は100個に1個、1000個に1個しか見つからないとか。クマネシリ岳一帯はほぼ大雪山国立公園内となっていて採集禁止。区域外ではだいぶ取り尽くされているらしい。しかもそこはヒグマの出没する地域。へたすりゃ命懸けですわな。
そしてこの石のように層模様を美しく磨き出すには相当の技術的修練が必要らしい。@玲瓏石さんは先達の人に教わったとか。
まさに貴重なお宝です。高価なのもむべなるかな。

しかしなんでこんな層状模様があるのか。
なんでこんな丸っこい形なのか。
わかりません。

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世界では、メキシコやカリフォルニア、オレゴンなどで「レインボー・オプシディアン」は産出されています。
こちらは前に上げたメキシコ産レインボー・オプシディアン。

mindat によると、こうした層状模様は、ヘデンバージャイト=灰鉄輝石の超微粒子によって作られるとのこと。玲瓏石も同様なのかどうかはわかりません。

黒曜石、オプシディアンは火山性ガラス。ガラスと言われると「ほとんどシリカ SiO2」みたいなイメージを持ってしまう。しかしですねえ、オプシディアンは、流紋岩マグマが急速に冷えてできるもの。前にも書きましたけど、実は、

流紋岩=花崗岩=オプシディアン=軽石

で、組成的には花崗岩と変わらない。流紋岩マグマはもちろん石英のほかに様々な鉱物・元素を含んでいて、長石・雲母のほかにトルマリンを始めとする多彩なペグマタイト鉱物を生み出す。
オプシディアンも、シリカのほかにたくさんの元素や微細鉱物を含んでいるわけですね。
そうした要素の違いによって層構造ができるのか。しかしそうだったら他の産地の一般的な黒曜石だってできてもいい。ううむ。

この丸っこい形もどうも怪しい。「川を転がって丸くなった」と言われているようですが、同じ場所でも丸くない不定形の黒曜石は多くあるので、「どうしてこれだけ丸くなったんだよ」という疑義が湧く。さらに丸いものは「まとまって出る」という話もある。何なんでしょう。

大雪山塊および日高山脈は、大昔、ユーラシア・プレートと北米プレートがガチで衝突していた地帯と考えられている。前に上げた幌満・アポイ岳の橄欖岩はそのぶつかり合いの中でマントル橄欖岩が飛び出したもの。北のサハリンもぶつかり合いで盛り上がったものらしい。さらにその南東からは太平洋プレートが沈み込んできている。千島列島はその沈み込み帯で生じたマグマによる火山列島。サハリンから南へ伸ばした線と千島から西へ伸ばした線が、このあたりでぶつかるんですねえ。特別な地帯。
十勝黒曜石を作り出した火山噴火は比較的新しいものだけれども、この土地は特異な土地。その神秘が玲瓏石には籠められているような気もします。

産出量も多くはないし、美しさを出すには加工が必要だし、全体的には地味だし、超人気石になるのはいささか難しいかもしれません。
けれど玲瓏石は、アメリカやメキシコで出るものよりは深みがあって、神秘的な美しさを見せる名石、世界に誇れるお宝の石ではないかと思うのです。


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