貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

鉱物の色はどうやって生まれる?

2021-10-04 20:54:52 | おべんきょノート

石の色というのは何だろう?
と調べてみると、とんでもなく難しい話に入り込む。
実はわかっていないことも多い。

色が見えるのは、そういう色のもの(元素)があるから。
昔は科学でもそういう素朴な考えだった。今のあちきらも普通はそんなふうに考える。
金は黄色の元素。硫黄も黄色。そういうものが混じっていればその色になる。
で、銅は……単体では赤金色、ところが銅の錆は緑。あれ?
紫水晶は石では紫だけれど、粉にすると白い。あれ?

いや、イオンになったものは別の色になる。
銅は青、二価鉄は薄緑、三価鉄は黄褐色、ニッケルやクロムは緑、マンガンはピンク。
いや、銅鉱物で緑は多いぜ、クロムでも黄色や橙色があるぜ、マンガンでも赤紫があるぜ。紫水晶は鉄が入っているけれど紫だぜ。
見る方向によって色が変わるのもあるぜ。

どうも「特定の色のものがある」という考えは怪しくなってきた。
科学の世界も、分子や原子の構造を分析できるようになってきて、どうも色の多くは、そういうことに関わっているらしいということが明らかになってきた。
おかげでとってもややこしくなった。

鉱物の発色には次のような仕組みがあるらしい。
(1)特定の元素イオンによるもの
(2)細かい混ざりものの色
(3)結晶のひずみによるもの
(4)陽イオン間での電荷移動によるもの

(1)は古典的な「色の要素」で、あちきらが普通に思い描くやつ。
《鉱物の地色の場合、最も重要な着色原因はチタン(Ti)、パナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、 鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)という8つの遷移元素と呼ばれる元素によるものである。》出典
Cu2+ 青色
Fe2+ 淡緑色
Fe3+ 黄褐色
Ni2+ 緑色
Cr3+ 緑色
Mn2+ 淡桃色

ところがこれも複合イオンになると色が変わる。
CrO42- 黄色
Cr2O72- 赤橙色
MnO4- 赤紫色
《銅二価イオンの色は青、ニッケル二価イオンの色は緑と一般にいわれますが、実はこの言い方は適切ではありません。これらの色は遷移金属イオンが他の物質(配位子)[要するに酸ね]と結合(配位結合)したときの色なのです。硫酸ニッケルの水溶液の場合、[Ni(H2O)6]2+が緑色をしているのです。錯体[まあ酸と塩基の化合物ということね]は金属イオンの種類、イオンの価数、配位子の種類、錯体の構造によって色が大きく違ってきます。》出典
じゃあその違いは何から生まれるのか。
とても難しい話だけれど、電子軌道の問題らしい。ウィキペディアの「遷移元素 色」の項参照。

(2)は色を持っている他の鉱物が、目に見えないほどの微細な粒子になって、石全体をその色で染めているもの。(イオンになって化合していない。)
青や緑や赤の水晶はこういうもの。微小晶質であるカルセドニー(アゲート)も、やはり色付きの微細粒子によって発色している。イオン化しているという説もあるけれど、そうではないらしい。
これもじゃあ、その微細粒子はどういう仕組みで発色しているのか、ということになって、最初へ戻ってしまう。

(3)には二通りあって、面倒。
(3)-1 放射線の影響などで結晶の原子の一部が欠損し、それよって生じたひずみ(電子の移動や欠損)が色を生んでいるもの。
例えば、煙水晶・黒水晶などはこれだと考えられている。
(3)-2 本来の塩基部分の一部が「遷移金属」や「希土類」の原子によって置き換わり、その原子の大きさの違いによって結晶構造に歪みが生じ、それによって発色する。
紫水晶では微量の鉄イオンが珪素に替わって入り込み、そのため生じた歪みが発色の原因と推定されている(確定したわけではない)。
非常に難解なんだけど、こうしたひずみによって電子構造に変化や欠損が生じ、そこに特定波長の光が吸収される。で、吸収されなかった光が色となって見える、ということらしい。
《遷移金属元素を含む化合物で、配位子場の作用で内殻の不対電子の励起による配位子吸収帯が可視領域と合致して発色する場合があり、結晶場着色とも呼ばれる。代表的な例ではルビーが挙げられる。ルビーはコランダムを構成しているAlの一部がCr3+に置換した構造を持つ。配位子場の影響でCr3+の内殻励起は紫と黄緑に配位子吸収帯を持ち、透過光は赤色に見える。同様な例として、他にもエメラルド、ヒスイ、アクアマリン、トルコ石、クジャク石あるいはザクロ石などが挙げられる。》ウィキペディア「色素」

ちなみに、フローライト(CaF)の発色に関しては、カルシウムの代わりに希土類が入り込み、その歪みによって緑(サマリウム)・青(イットリウム)・黄緑(イットリウムとセリウム)などに発色するという説と、ハロゲン(フッ素)の欠損による電子的偏りで発色しているという説とがあって、どうも確定していないらしい(両方かもしれないし)。

(4)はさらに難解。
《サファイア(青色透明コランダム、酸化アルミニウム)は、「アルミニウム(Al3+)の代わりに微量成分として0.5~1%程度の2価の鉄(Fe2+)とチタン(Ti4+)が入り、そこで鉄の電子が1つチタンの近くに移動し、そこで青以外の光が吸収されて青く見える。》出典
鉄もチタンも「青」ではないのだけれど、そこで起こる「電子移動」によって青く見えるということらしい。この場合、入り込む金属類が二種類あるということね。
同じコランダム(鋼玉)でもルビーとサファイヤの発色の仕組みは全然違うんですね。びっくり。
カイヤナイトの青も、同じく鉄とチタンの電荷移動によるものらしい。
こういった鉱物を「電荷移動錯体」という。詳しくはウィキペディア参照。
(ただしこの概念が(1)や(3)と別で並列的なものなのかはちょっとわからない。)

 

     *     *     *

まあどうもこういうことらしい。この4つ以外にもあるのかどうか、今のところはわかりません。
素人なので間違いもあるかもしれない。たぶんあるでしょう。
わかったようなわからないような。
色が生まれる仕組みにはいろいろなものがある。それをさらに突き詰めていくと、原子・分子・結晶内の電子の余剰・移動・欠損が、色を発生させている、ということのようですね。
《かつては特定の置換基、構造が色素の発色原因と重要視された時代もあったが、現在では分子の構造が可視光の吸収あるいは放出に適したエネルギー準位の分子軌道やバンドギャップを持つことが発色に重要な要素であると考えられている。したがって、経験に基づく色素の設計から、今日では色素を設計するために分子軌道法やバンド理論などの計算機化学によるシミュレーションにより、理論に基づいた設計を行うことも可能になりつつある。》(ウィキペディア「色素」)
結晶内の電子的ひずみに関しては「色中心」(カラーセンター)という新しい概念もあって、微少磁気観測やナノコンピューターなどに応用されつつあるとか。

面白いのは、多くの鉱物が、「結晶の歪み」によって色を発している、ということですね。「歪み」が作り出す色なのだ、と。
人間もそうなのかも。歪みがその人の個性を創る。歪んでいない人は透明だけど面白くない。というのは言い過ぎかなw

色の原理というのはまだ新しい学問分野で、解明されていないことも多い。(アメトリンという、紫と黄色の二色水晶があるけれど、何が二色の違いを作っているのかは、よくわかっていない。鉄の量だとか、水分だとか、いろいろな説があるらしい。)
よくわからないというのは、楽しい。石を眺めて、「お前はなぜそんなに美しい青なのか」と神秘に感動するのがいい。人間の知では捉えられない世界がそこにある、創造の叡智というのは人間の知をはるかに超えたものなのだ、と。

ついでに余計なことを言えば、ある種の神秘思想では、色は「形態 form」よりも高位の世界、一層神的・イデア的領域に近い世界だそうで。形態はいくら素晴らしくても下世話で儚いもの。色彩(波動)にこそ、創造の奥義がある、と。石の色を見ていると、それも何となくわかるような気がします。いや、だからこそ、石の美は人を惹き付けるのかもしれません。


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