貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

アイトとライト

2024-04-20 22:56:31 | 漫筆

以前、東洋ルースの社長さん(元)がツイッターで「石の名前で尻取りしようと思ったらトばっかで話にならんかった」というジョークを書いておられて、笑った。
ほんとに「アイト」「ライト」ばっか。

こうなるのは2つの理由がある。
①アイトは名詞を形容詞化して再び名詞化する語尾
②ギリシャ語の「石」である「lithos」が英語で「ライト」になった
あちきは別に言語学者ではないけど、アヤシイ知識をひけらかして余計な雑学を。

「-ite」はある名詞を形容詞化する語尾。語源は古ギリシャ語の「-ites(女性形は-itis)」、ラテン語の「-ita」。古い。
歴史上最も古い「ite=石」の用例は、西暦77年の大プリニウス『博物誌』にある「haematites」で、紀元前4世紀のギリシャ博物学者テオプラストスの「aematitis lithos(血の石)」を訳したもの。ヘマタイトですな。mindat の hematite の項参照。古い。

こういう機能の語尾はたくさんあって、有名なのは「-ian」「-ean」。パリジャンは「Paris」にこれがくっついたもので、「パリの」という形容詞。それが単独で使われて名詞となって「パリのもの・人」となる。ところがこれは子音語尾にしか使えない。「Tokyo」はどうなるかというと、「Tokyoite」、英語では「トーキョーアイト」、仏語では「トーキョーイット」になる。「トーキョニアン」なんて言葉はない。
「in」というのもある。仏語には多い。「コーネルピン」とかね。で、「Hauy(アユイ)さんの」という意味で「Hauyine」ができた。だから「アウイン(アユイヌ)」であって、「アウイナイト」というのは「馬から落馬」と同じく同語反復である。どうしても変えたければ「アウイアイト」「アウイライト」にすべきであった。
で、石の名前にはこの「ite」という形容詞化語尾がやたら使われるようになった。人名や地名の後ろにくっつければいいだけだもんね。

もう一つの「ライト」。リトグラフィー=石版印刷の「リト」で「石」。上にあるように古ギリシャ語の「石」。欧州人は学術用語に共通母語・古語であるギリシャ・ラテン語を使いたがる。それぞれの国語だとばんらばんらだからというのもあるけど、ギリシャ・ローマの伝統をしょってるんだぜというプライドもあるかもしれない。自分たちはそれを滅ぼした蛮族なのにね。(こらこら) で焼け野原にしておいて科学的知識はイスラームに学んだのに今ではイスラームを見下している。(……まあな、つか何の話だよ)
だから石名にも古ギリシャ・ラテン語が多用される。「パイロ」だのだの「クリノ」だの「クリソ」だの。そんなもの知らん東洋人には混乱の元。「リトス」も同じ。
で、「杉石」は「スギライト」になった。「スギアイト」でもよかったのだろうけど、母音が重なるより「ライト」の方がかっこよかったからじゃないかな。

かくして、石名は「ト」で終わるものばかりになった。もっとも日本語でも「石」ばかりだから尻取りはできないですな。

でもう一つ。「アイト」はそういう特殊語尾だから、カタカナにするに際してもその機能は尊重すべきである。「Tugtupite」は「トゥグトゥップアイト」であって、「ツグツパイト」じゃ気持ち悪い。「Hopeite」もわざわざ「e」を入れているのだから「ホーパイト」ではなく「ホープアイト」であるべきである。「エルバイト」もエルバ島のことだから「エルアバイト」であるべきである。
そんなこと言ったら「スミスソンアイト」「アマゾンアイト」とかうざくなってしまいますな。まあ場合によってはの話で、そんなことを言っても誰も賛同しないだろうから意味ないけど。
ちなみに「中宇利石」は「nakauriite」で「ナカウリアイト」が正しい。「ナカウライト」という表記を時々見るけれど、それは間違い。

まあ「アイト」と「ライト」は違うぜ、というのは知っていても……無意味か。


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