チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「風を追う物語」第4章 夢の舟 その2

2011-05-09 23:51:05 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
すみません、
ご馳走になってしまいまして。
いえいえ・・・

小児病棟、
三人で戻る、部屋への道。
ガラガラガラ・・・ストレッチャーだ。

道を譲るべく、壁側に沿って立つと、
目の前を通り過ぎて行き。

その盛り上がりから、
架けられたタオルの下に、
小さな人間の体があるのが
わかる。

固い顔で、移動に付きそう大人達。

「さ、行きましょう。」
と、言わんばかりに、
お母さんにパジャマの袖を軽く引っ張られ、
ユイはまた歩み始めた。

亡くなったんだな。多分、かなり小さい子だ。
亡くなったんだ・・・・。

部屋に帰って、三人きりになっても、
まだ重い空気。
「では、私はここで。」
「あ、はい。すみません。こちらこそありがとうございました。
・・・ユイ、お見送りしてくるから、待ってて。」

一人、残されて、ユイはベッドに横になり、
ぬいぐるみを抱きしめた。

生まれたものは、いつか、死んでいく。
何も持たずに生まれてきて、
生きている間に、沢山の物を手に入れて、
何一つ持っていかずに、あの世へ旅立っていく。

そう、このぬいぐるみも。
一緒にあの世へ連れて行く事は出来ないんだ。

ねえ、それなのに。
生きてるって、
どうしてこんなに辛い事ばっかりなんだと思う?


・・・では、このへんで。
失礼します。
見送りと別れて、一人歩くハヅキ先生。

仕方ないけど、さっきの事。
ユイさん、堪えてないかな?
あの子、繊細だから。

「ナユタ君!ナユタ君!」
フフ、元気そうな子。

何だかんだ言って、この仕事につけて
良かったと思うわ。

『特別支援学校分室』
へぇ、ここ、院内学級があるんだ。
立派な壁飾りは、生徒さんの作品かな?

ついつい足を止めて、
見入ってしまったその壁飾りに、、
また、ナユタの名を見つけてしまった。
・・・やっぱり、あの子だ。