チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「風を追う物語」第2章 世界のカタチ その26

2011-02-12 22:29:44 | 十三歳、少女の哲学「風を追う物語」
もともと、他人と食事をするのは苦手で、
強制的に皆と食べなければならなかった、
小学校時代の給食は、ある意味苦痛だった。

中学に入って、友達が出来ず、
一人でお弁当を食べ出した時、
ある種のみじめさを感じはしたけれど、自分の中では
それはそれで気楽だと割り切れる所もあったのに、

学校でも家でも、
その様子をからかわれたり、
「友達と食べなさい!」
と突かれるようになってから、
食事をするのが怖いと思うようになってきた。

同じ一人の食事でも、そんな事を言われない
今の状況は凄く楽で、天国みたいだ。

ごちそうさま!
なかなかおいしかったな。
ユイは静かに手を合わせ、
ナースコールを押した。

「はーい。あ、もう終りね。
凄い、完食じゃない!」
明るい声で下膳してくれる看護師さん。

ユイはお茶で口を潤すと、
すぐさま横になった。
まだ、こうして座っているのも
十分が限界だ。

まだまだ入院は続きそうだし、
歩けるようになったら、食事も
カートまで自分で取りに行ってみよう。

近い将来への、淡い夢を描きつつ、
ユイはまた、
暗い過去のベールに取り込まれ始めた。

マリアちゃんと別れさせられて、
「あんたには人権はないから!」
と、言い放たれた、あの日から・・・

家に帰れば、お母さんが怖い顔をして立っている。
制服から着替えさせられて、
お茶も飲ませてもらえず、即、勉強。

宿題から予習、復習まで。
食事と入浴の時間をのぞき、
全てつきっきりでの勉強地獄。

「バカ!こんな事もわからないのか!」
「知能が低いのかしらね?」
「ははーん、なるほど。それで友達もできないわけか?
児童相談所に連れて行くか?」

無理やり、中学受験させて入れたくせに!
魂をえぐるような言葉を投げかけられながら、
涙も流せない毎日に疲れ果て、

毎晩、寝る事を許された時には、
本当にホッとしていた。

寝る前に、体操服バッグから
例のぬいぐるみを取り出して抱きしめていた。

常に持ち歩くようにしたおかげで、
このぬいぐるみだけは
守りきる事が出来たのだ。

しっかりした縫製で、
ちょっと硬めの感触。
何も言わずに、
一緒にいてくれる存在。

この子がいなかったら、
私は崩壊してしまう・・・

あの頃から私は、このぬいぐるみを
片時も手放せなくなってしまったのだ。