goo blog サービス終了のお知らせ 

飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

連載小説「幸福の木」 441話 林道の観音峠

2025-06-12 22:55:23 | 小説の部屋

はいはいはいはーい、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、梅雨間の晴れ、安価な米も発売が始まり良かったですね、それにしても生産者よりも中間業者の分が高過ぎですね!生活困窮者に無料配布したらどうですか?とウチの先生が言ってました。はい、かなり遅れましたが原稿が届きましたので、早速、小説にまいります、はい、では開幕開幕!

441 林道の観音峠

ハナや太郎達皆の集中している話し合いを破るように、音が飛び込んできた。
バタバタバタバタ!
窓の遠くから、昔の車のエンジン音のようなうるさい音だった。
「あれっ、あれは何の音かしら?」
オートバイでも草刈り音でもなく、チェーンソウの音でもなかった。
ハナ達は一斉に窓の方を見た。
窓には午後の明るい光の中に、修験者村の緑に包まれた里山が見えていた。
それを見た村長が驚きの大声を上げた。
「おおっ、何時の間に?もう昼も過ぎたようじゃ、いったいわし等はどのくらい話していたんじゃろう?
ついつい木花咲姫様との話に夢中になってしまって、おまけにいろいろな話に飛んでしまって、全く気付かなかったが、もうかなり時間が経ってしまったようじゃ」
すると、マドンナが、
「そう言えば、私が明日に寮長さんと草木染めの草木を探しに行く予定だと言う話をしていたのよ。
そしたら、それなら透明の渡り廊下の話が出てきて、そうそう、木花咲姫様の広大な植物園の話になって、その中に透明な渡り廊下があれば簡単に草木も採取できるわなんて話だったのに、いつの間にか、話がいろいろ飛んでしまったのよ。
それで、最後にはイエス様の十字架の話に変わってしまったんだわ」
すると太郎が、
「そうだよ、肉食の罪とか罰とか、俺なんか考えた事もない話になってしまって、俺には難し過ぎた話になってしまったんだ、俺はちょっと休憩して気分転換したいな」
と立ち上がって運動を始めた。
バタバタバタバタ!
少し静かだったエンジン音が急に大きくなった。
それは間違いなく皆がいる集会場へ近づいて来る音だった。
寮長婆さんの秘書が、小声で皆に告げた。
「あれはあの有名旅館の親父さんの車です」
「えっ、旅館、有名?・・」
寮長婆さんが少ししたら、ようやく思い出した。
「ああ、そうだったそうだった、あの何でも屋さんの旅館の古い三輪車の音だった、そうそう、昔の三輪車を改造して後ろにリヤカーを付けて引っ張ってるんだわ。きっと宿泊したお客さんか何かを運んでいるのよ」
すると秘書と助手の娘さんが、面白い人が現れたわ!と言うように、楽しそうな顔になった。
どうやら集会場の玄関に到着したのか、うるさかったエンジン音が鳴り止んだ。
「おーい、寮長はいるかい?あのーさ、マドンナが来ていると聞いたけど、いるのかーい?」
田舎なまりの遠慮のない男性の大声が飛び込んできた。
失礼な!と言う顔になった寮長が、
「ったく!いつもこうだわ、おいこら、おっさん、ちゃんと玄関から上がってきて人の顔を見てから話すものよ、初めはあいさつぐらいするものよ、失礼よ」
と遠慮なしに怒鳴り返した。
「おーっ、何だ何だ、寮長が珍しくいるじゃないか、わしはマドンナに会いたいんじゃ、おーい婆さん、マドンナはいるかい?」
「いちいちうるさいわね、いるかどうかは自分で足を運んで確かめたらどう?私はあんたの部下じゃないわよ」
ハナ達や皆は、どうなるのかしら?と二人の成り行きを見守っていた。
しばらくすると旅館の親父が玄関に現れて中を覗き込んだ。
「おやおや、これはまた、今日は大勢の人達がお揃いで、こんにちは皆さん方」
とぺこっと頭を下げると、すぐに、
「ああ、いたいた、マドンナがいた、よかった、よかった、あの、マドンナさんよ、ウチのお客さんが草木染について聞きたいと言うんであんたを探していたんだ、ここにいるって聞いたので連れて来たんだ、ああ見つかってよかった」
とホッとしたように溜息をついて上がりたてに腰を降ろして額の汗をぬぐった。
三輪車ってどんな車なのか?
と興味を持った太郎達が、玄関前に出て、駐車してある車を覗き込んだ。
それはハンドルがオートバイのように左右に伸び、前輪がひとつで後輪が二つの文字通り三輪車だった。
かなり昔に売り出された旧式の三輪車だった。
おまけに改造した旧式のリヤカーを引っ張っていた。
そのリヤカーにはお客さんらしき女性二人と男の子が一人乗っていて、静かにこちらを見ていた。
一息ついた旅館の親父がまた言い出した。
「おいマドンナさんよ、あそこの女性のお客さんが草木染を習いたいって言ってるんじゃが、すぐに教えてもらえるかい?そう、今すぐにだ?」
旅館の親父が言うと、またマドンナの代わりに寮長婆さんが怒鳴った。
何?親父さん、いいかげんにしなさいよ、今すぐにだって?あのさ、そう言う事は前もって連絡しておくものよ、急にそんな事を言われたって、誰でも無理よ、そんなの常識よ」
「・・・」
少し気まずそうな沈黙が流れた。
が、すぐに
「ああ、いいですよ、ちょうど今日は草木染の草木探しに行く予定でしたので、もしよかったら材料探しから教えますが、いかがですか?」
とマドンナが嬉しそうに明るい声で答えた。
「ほーら、やっぱりわしの思っていた通りじゃ、おーい、おーい、いいって!言いって!」
親父は両手を大きく振って三輪車の客の女性達に合図をした。
そして寮長婆さんに、それ見た事か!と言うドヤ顔を見せた。
寮長婆さんは、くやしそうに、
「あらっ、マドンナさん、ほんとにいいの?あのさ、こんな突然の申し込みなんて断ってもいいのよ、改めて日にちや時間を指定してもいいのよ」
と言ったが、マドンナはただにこにこしているだけでok顔だった。
さて、飛騨川の東に修験者村や御嶽山がある。
飛騨川は北から南へ流れているが、ここ修験者村の近くの枝流は南から北へ流れて合流していた。
その枝川の東側に修験者村があり、延長線上に御嶽山があった。
さて、御嶽山を背にしながら、その反対側、西側の山を秘書と助手の娘が集会場の玄関からながめていた。
よく見れば、山の尾根に続く山道を変な行列が登っていた。
三輪車やリヤカーや人力車や徒歩の行列である。
「バタバタバタバタ!」
遠くから聞こえる、あの三輪車のエンジン音はいかにも辛そうだった。
先頭の三輪車が、まるで牽牛のようにローギアで重いリヤカーを引っ張っていた。
リヤカーにはお客の二人の女性と子供がマドンナや寮長婆さんと一緒に乗っていた。
そして、さらにリヤカーに結ばれた二本のロープには後を歩く太郎達やハナ達や長老達が引っ張られるように手で握っていた。
列の最後には車夫が汗をかきながら村長の乗る人力車を引っ張っていた。
ゴクウやケンは離れて、伸び伸びとした様子で自由に歩いていた。
木花咲姫様や侍女の姿は無かった。
それにしてもどうして修験者村の西側の山を登る事になったのか?と言えば、
それはマドンナと女性客との会話で決まったのだった。
一時間ほど前に、
「あのー、今日は、これからこの修験者村の山や野を知りつくしている寮長さんの案内で、草木染めでは珍しい、こう言う草を探しに行く予定です」
とマドンナが二人の女性達に見本の草木を見せた。
すると、二人が、
「ああ、その草なら、ここへ来る途中の山路の脇にたくさん生えていたわよ、ねっ?]
と互にうなづき合った。
「えーっ、それほんとほんとに?あのーさ、この草ってなかなか見つからないのよ、ねえ寮長さんそうでしょ?道路脇にあるなんて驚きだわ、ラッキーだわ、それならその場所へ採取に行きましょうよ、良かったわ」
と言う事で、こうして西側の山道を登る事になった訳だった。
しかし、草木染に興味が全く無いハナ達や太郎達や長老達が付いて来たのは別の理由があった。
リヤカーが引くロープを掴んで長老と修験者が隣同士で歩いていた。
「ああ、やはり山の道は涼しくて気持ちよいのう、いつ歩いても楽しいのう」
機嫌が良さそうな修験者が嬉しそうに長老に話しかけた。
ところが、長老は、
「それよりも、あの親父が言ってた空飛ぶ車って本当じゃろうか」
と疑わしそうな顔をした。
「ハッハッハー、さあどうかな?でもとにかく変わったおっさんだから、あり得るかもな?って言うところかな」
修験者は、今回の成り行きを面白がっているようだった。
どうやら三輪車を運転している旅館の親父さんは地元では有名な個性的な変なおじさんだった。
彼は下呂温泉の近くの、空家になった古民家を安く買い取って、そのままリフォームせずに旅館として使用していた。
昔はタクシー代わりに耕運機でお客さんを乗せたリヤカーを引っ張って、温泉町の銭湯やホテルや旅館の湯殿へ案内していた。
その後に旧式の三輪車を手に入れた。
すると、リヤカー共に大改造して、耕運機の代わりに使うようになった。
当初から宿泊費が安価だったので、面白がったお客さん達が増えて、馴染みのリピーターになり、毎年来るようになった。
と言っても旅館はそれほど大きくせずに、部屋数や客数は小規模のままだった。
しかし、最近、知る人の間で大きな話題になった事があった。
嘘かほんとか分からないと言う事で、こんな噂が流れた。
旅館の親父さんが、大阪万博の後に、どう言う訳か、何かのルートで空飛ぶ車を入手した。
そしてすぐにそれを地元に運んできた。
下呂温泉の町から東へ林道を登って行くと、観音峠と呼ばれる標高の高い峠がある。
その峠を越えて下れば修験者村の近くの谷平野になる。
今皆が登っている林道の事である。
ところが、親父さんはその観音峠の傍に土地を入手して、そこに駐車場と事務所兼宿舎を建てた。
そしてそこに買ってきた空飛ぶ車を置いて、旅館に泊まったお客さん達を案内して空飛ぶ車に乗せて、周囲を二十分ほど遊覧飛行をさせていると言うのだ。
観音峠からは尾根沿いに別の林道が北へ向かって伸びている。
が、そこは両側の高い樹木のためにせっかくの眺望が見えなかった。
しかし空飛ぶ車に乗って上空に上がれば、ヘリコプターのように御嶽山を含めた南飛騨の壮大な景色を見渡すことができた。
ついでに面白い話があるようだ。
観音峠から尾根沿いに北へ何キロか進と、地元で御前山と呼ばれる山頂に至る。
そこは古くおそらく平安時代には真言宗の寺が建てられていた。
昔はそこから御嶽山を腰背する場所で、霊山の御嶽山は現在のように入山する事はなかった。
また、戦国時代、に織田信長が極秘に下呂温泉まで湯に入りに来て、御前山の山頂に観音像を祭って小さなお堂を建てたと言われている。
それは義父城を築いたばかりの信長が、全国制覇を実現するために、鬼門の方角、東北に当たる御嶽山に祈願したものだった。
空飛ぶ車に乗れば、その御前山の山頂の上を飛ぶことができ、東に流れる飛騨川を含めた南肥田の雄大な景色が展望できた。
太郎達や長老達やハナ達は、空飛ぶ車の話を聞いて、がぜん興味が沸いた。
そして乗りたくなった。
それで、汗をかきかき山道を歩いていても愚口も言わずに登っているのだった。

(つづく)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。