飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

菜食の薦め (その 3 ) 牛肉の美味しさ

2023-10-02 16:57:28 | エッセイの部屋


前回、書き忘れた事があった。
それは亡くなった友人から聞いた、飛騨で飼われている牛の話である。
今は飛騨牛は国の内外で高級牛として有名になった。
それはある一頭の「安福号」と言う雄牛が出現してからの事と聞いている。
この牛の霜降り肉が大変美味かったので、その後安福号の精液が高値で取引され今日の飛騨牛の地位を築いたと聞いている。
今回は、その高級牛の話かどうか分からないが、私が以前に友人から聞いた話である。
飛騨では冬も含めて、ふだんは牛達を家の近くのせまい小屋で飼っている。
しかし、夏になると、山奥の広大な共同牧場へ連れていって、放牧牛のように放つ。
牛達はそこで夏中自由に野生牛のように草を食べ太る。
秋が終わり雪が積もる前に、各農家が車で自分達の牛を迎えに行く。
友人が言うには、その時、広い牧場に向って牛の名前を大声で呼ぶそうだ。
すると、どこかでその声を聞いた牛が、聞き慣れた泣き声で泣きながら、一目散に友人の方へ向って駆けて来ると言う。
それは、まさに半年ぶりの人間の親子のように、牛も友人も涙が溢れる対面になると言う。
しばらく懐かしさや喜びで頭や体を叩いたりなめられたりして、気がすむまで互いに触れ合うと言う。
ペットの猫や犬と同様に、牛も飼うとなると家族の一員のように心が通い合う。
そうなると肉牛として出荷する時には、生活のためとは言え、辛い別れになると思う。
以前テレビを見てたら、農業高校の女子学生ガスーパーで牛肉を買った話をしていた。
現在は販売肉に、その牛の飼育牧場や牛の番号等の全記録が付いているようだ。
それで、その記録を見ると、何とその牛は女子学生が高校の実習で長い間育てた牛だった。
で、結局、その女子学生は涙を流しながら、泣く泣くその肉を食べたと言う。
きっと美味しいと言うよりも複雑な味がした事だろう。

さて、このシリーズは「菜食の薦め」がテーマであるが、しばらく肉食の話になる。
特に私のブラジルでの肉食の失敗談となる。
私は日本で脱サラして30歳の頃ブラジルへ渡った。
日本にいた時は牛肉等はたまにしか食べなくて健康だった。
ブラジルでは牛肉が安くて美味しかったので、思い存分食べまくった。
シュラスコ肉料理店では大きな牛の肉塊を太串ざしし炭火で焼く。
それをボーイが客の前の皿まで持ってきて、目の前で客が欲しい箇所の肉を刀のような包丁で薄く切りはがしてくれる。
表面はよく焼けているが、中ほど肉は生に近く色も赤っぽい。
慣れた客は切り方まで注文して、自分の好みの肉と焼き加減で食べる事ができる。
ちなみに肉は食べ放題で、どれだけ食べても一定料金である。
肉料理が出る前に、客はナマビール等の飲み物を注文し、セルフサービスの各種のサラだを取り皿に取って自分のテーブルにもどり前菜として食べる。
そして次第にボーイ達が焼けた肉塊を運んでくる。
始めボーイ達は安い肉を運んでくる。
鶏肉や肝とか牛以外の安い肉も運んできて客が欲しければ皿に置いて回る。
その後はすべて牛肉になるが、安い箇所の肉から運んでくる。
一番最後に最も高価な美味しい肉が出てくる。
が、たいていの客は、それ前に食べ過ぎていて、最後の肉が出た頃は、もう満腹で食べられない。
私は牛肉をたくさん食べたかったので、始めからサラダなど野菜や芋など牛肉以外の物を一切食べなかった。
そして慣れてくるに従い、始めは話ばかりしていて安い肉は食べず、最後の肉ばかりをたくさん食べるようにした。
ボーイ達はそれを観察していて私には安い肉を持ってくる事は無かった。
と言っても、小食の平均的日本人だったから、大食のブラジル人達に比べれば、儲かる良いお客さんだっただろう。
高い美味しい牛肉とは、背中の背骨の近くの肉で量も少ない。
それは日本人にはおなじみのマグロの刺身と同じだ。
つまりマグロのトロの背骨近くの箇所が、牛肉の最も美味しい肉の箇所だ。
そこは肉と脂肪が理想的な美味しい割合となっている。
ちなみに牛肉では、背中のコブの箇所やフィレミヨンと呼ぶ、日本人が好みそうな柔らかい肉があるが、そこはブラジル人の肉通に言わせると、脂肪が多過ぎて少しで飽きてしまい、美味しく楽しんでたくさん食べられない。
またアバラ肉は脂肪が多い美味しい肉ではあるが、元々アバラ肉は肋骨に付いているわずかの量の肉なので、それなりに人気がある。(子豚のアバラ肉は特別だ)
牛の肉の美味しさは、脂肪が大きく影響する。
もっとも、赤味の肉の好きと言う人は、赤味のマグロが好きと言う人と同じで、筋肉そのものの味と食べ応えが好きな人なので、若い人達に多く、話は別になる。
少量でもいいから美味しい牛肉を食べたいと言う人達には、やはり脂肪との兼ね合いが重要となる。
なので、ブラジル料理店の中には、高級肉を真似て赤味の牛肉に薄い脂肪を巻いたミックス肉を出す店もある。
その少量で最高に美味い牛肉と言うのが、いわゆる日本の霜降り肉なのだ。
霜降り肉の美味しさは、肉食に慣れているブラジル人にもアメリカ人にも分かる、世界共通の牛肉の美味しさである。
なので、これが飛騨牛がニューヨークの超一流レストランで使用されている理由である。




(つづく) 誤字があるかも?