老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

長く感じた癌の痛み 死は一瞬

2022-08-09 05:00:43 | 老いの光影 第9章 捨石拾遺残日録
1897 長く感じた癌の痛み 死は一瞬



早朝の阿武隈川、たゆまな川は流れる、川は時間に似ているく

「子宮体癌」、と診断されたのはちょうど
半年前の8日だった。ひとり暮らしの彼女病
室で最期の夜明けを迎えた。69歳の若さであ
った。癌は躰のあちこちに転移し、痛みを伴
もないながらも、最後まで必死に癌と闘った。
ベッドに寝ることもできなくなり、リクライ
ニングチェアに座位の姿勢で休息をとられて
いた。

 他人(ひと)の痛みは目に見えぬだけ、痛
みの大変さ、苦痛は本人だけしかわからない。
彼女にとり癌の痛みはシルクロードのように
長く感じたのではないだろか。
 コロナウイルス感染症のため、何処(いず
こ)も肉親の病室での面会は禁止されている。
彼女も姉妹とは最後の言葉を交わすことなく
寂しく心残りだった、と思う。
 でも、眠るような穏やかな顔であったこと
がせめてものの慰めであった。

 人れ間、この世に「おぎゃあ」と生まれ、
数えきない人と交わり関わり生きる。生きて
から死するまでの過程は、四苦八苦、人生山
あり谷ありで、苦労や苦しみの連続であった
けれど、苦労や苦悩のなかに幸せを感じてき
た彼女。
 それまでの苦悩や痛み、傷みは、死により
解放された。死は一瞬で通り抜ける。死は終
わりではない。