自治医科大学附属病院感染症科受診の帰り路 壬生SA
生きる力
生きる力、と書くと
何だか仰々しい感じがしてしまう。
何故、生きる力、と出だしに書いたのか?
終戦後、夫と共に農業一筋に生きてきた85歳の婆さんを訪問した。
彼女は脳梗塞を患い左半身不全麻痺となった。
母屋に住む長女夫婦に迷惑かける訳にはいかない、と
老母は言葉少なに話す。
家のなかも外も歩行器につかまり歩く。
硬いソファに座っている時は
左大腿部を両手でつかみ、脚を上げたり下げたりしている。
彼女は多動でもいい、こうして左脚を動かすことで
歩くとき足の運びがちがう、と話す。
そうして左脚を持ち上げたりして頑張っていることは
車の乗り降りのとき、脚が容易に上がり
家族は助かるよ、と話しかけた。
傍で聞いていた長女は、「そうだよね」、と頷いていた。
生きているんだ、と言葉にせずとも
少しでも自分でできることをする
言うことがきかない左脚であっても
動く手で左脚を動かす。
生きるとは、動くこと
すなわち活動することなり。
老いた母親は
娘の手を煩わせることないよう
ままならぬ左脚を動かすことで
生きる力を得ている。