歴史とドラマをめぐる冒険

大河ドラマ・歴史小説・歴史の本などを中心に、色々書きます。
ただの歴史ファンです。

「黄金の日日」「羅針盤」感想・「史実の宝石箱や」「信長とは何か」

2021-04-18 | 黄金の日日
次回以降のネタバレはありません。

今回は助左衛門が念願の水夫となりました。信長は京を離れてしまい、そのすきをついて三好三人衆(テロップで名前入り)の逆襲が始まります。「本圀寺の戦い」です。三好方は敗退します。堺は三好に協力した(史実です)ために、2万貫の戦費を徴収され、代官として松井有閑がやってきます。この頃は堺政所という名だったようですが、これも史実でしょう。さらに驚くべきは、尼崎焼き討ちが描かれたことです。全く知りませんでしたが、これも史実です。今井の美緒さんが公家の娘で、奴隷船で売られるところだったことも明らかにされます。灯台守のお仙ちゃんが出てきます。
織田信長とは何かが語られます。「合戦を経済戦争に転換させ、鉄砲を中心とした集団戦術を用いた男」です。

調べてみたいなということが山ほどあります。まさに「史実の宝石箱状態や」というところです。
・この時代の貿易、国内貿易の姿、船の水準
・三好三人衆の一人一人のこと。トリオ扱いではなく。
・奴隷貿易のこと。
・公家の本当の姿
・経済戦争への転換という視点

永原慶二 さんの「戦国時代」を読んでいた時、「信長は堺を抑えるのを主な目的として上洛したのではないか」という視点があって、「なるほどな」と思いました。京都を抑えてそれを足利義昭に任せたり、地元の有力者(松永久秀)などに統治を認めたりしています。でもそれでは信長の「分国」事態は増えません。全く増えないわけではなく、近江の一部と伊勢の一部は手に入りました。主に京都への道にある土地です。

しかし堺へ代官を置くことは成功します。これにより税収が増えたことも重要ですが、何より「弾丸のもとである鉛と玉薬」が手に入ります。これらは貿易以外の方法では入手が難しかったものです。鉄砲は国産化されますが、鉛と硝石は入手しにくかったようです。ただし硝石はその後古土法なる作り方で国産化されたとありました。「鉛」が例えば東南アジア製であることは、最近のNHKの「戦国」でも成分分析で実証されていました。

信長の狙いが「鉄砲と鉛と火薬」だっとすると、信長が京都という土地そのものへは冷淡だった、執着がなかったことがよく理解できます。

「信長の鉄砲戦術なんてたいしたことない」という意見が昔からあります。しかし「大量に鉄砲を使用できたこと自体」を否定できる論者はいません。せいぜい「三千丁三段撃ちじゃなかった」とか「長篠の戦いでは防御陣形を組んでいたら、勝手に武田が突進してきただけ」という類のものです。「大量鉄砲の使用」を可能にした、経済的背景に目を向けた永原さんに比べると、〇〇じゃなかったという論じ方の非生産性を感じざるを得ません。

今日の放送では、「本圀寺の戦い」は「信長の罠」とされました。三好を討つ罠というより、堺を討つための罠です。信長は足利義昭を残して京を去ります。堺は三好三人衆に味方し、結局信長の介入を招きます。この時、信長の本拠地である尾張や美濃が脅かされていたということはないと思います。すると何で京を去ったのか。京都という土地そのものへの執着はなかったとも考えられます。もし三好が足利義昭を殺したなら、それを大義に京都に攻め込めばいい。結果として堺が手に入ればいい。逆に言うとどうしても堺を抑えたい。こういう視点も可能だと思います。

鉄砲も撃つためには鍛錬を必要としたでしょうが、弓を射るための鍛錬と比べれば、習得は難しくない。弓というのは、非常に難しい武具です。

「黄金の日日」が再放送される。作品紹介(ネタバレなし)

2021-03-28 | 黄金の日日
「黄金の日日」が再放送されます。4月4日早朝、BSプレミアムです。どんな作品か。ネタバレしないように気をつけて書いてみます。最近やっと見直したのです。黄金の日日、、、バブルで沸く堺と豪商ルソン助左衛門を想像される方もいるかも知れません。助左衛門は豪商でもなんでもありません。見事なほどの一庶民です。夢だけを武器に悲惨な現実と戦う青年です。

1,主人公はルソン助左衛門、石川五右衛門、杉谷善住坊+今井宗久+今井の娘+今井兼久+織田信長+豊臣秀吉+千利休

主人公は4人で、助左衛門、五右衛門、善住坊、今井の娘(美緒)です。ルソン助左衛門は「歴史的大事件にたびたび巻き込まれ」ます。信長の堺侵攻、金ケ崎の戦い、比叡山焼き討ち、秀吉の毛利攻めなどです。信長暗殺計画にまで巻き込まれます。杉谷善住坊は知る人ぞ知る人物ですが、何をやったかは書きません。石川五右衛門は「大泥棒」ですが、この作品では、基本、今井の「手の者」です。信長の上洛から関ケ原後までの35年間ぐらいが舞台です。

2,歴史的人物としては今井宗久が主人公並み。織田信長、豊臣秀吉の描写にも時間をかけている。秀吉は主人公と言ってもいいかも知れない。「言継卿記によれば」とか「学者風の解説」が出てくる。

3,織田信長は高橋幸治、豊臣秀吉は緒形拳、今井宗久は丹波哲郎  

秀吉といえば竹中直人ではなく、この時代は緒形拳でした。高橋幸治さんは「太閤記」でも織田信長を演じていますが、「太閤記」ではあまりの人気に「助命運動」が起こり、本能寺がずっと後に延期されました。目つきも表情もセリフ回しも非常に独特です。「革命児信長」ではありません。異様な「なにか」を感じる信長です。ちょっと人間離れしています。

4,壮大な恋の物語である

52話かけて35年にわたる男女の「恋」を描くのです。「準ストーリー」ではなく「主旋律」です。「恋」と呼んでいいのか。「あの関係は何なのか」、今でもそう思います。
もう一つ恋があって「石川五右衛門の恋」です。お相手は夏目雅子さん。こっちも「あの関係は一体なんだ」です。子供には到底理解できませんでした。

5,お美緒の栗原小巻さんは、吉永小百合さんと並んで「日本の二大女優」であった。ファンはサユリスト、コマキストと言われた。

6,「全日本が震撼した回」がある。今でもこの回を見るのは凄い勇気が必要です。

43年前の大河です。「古い」のはどうしようもない。しかし相当学問上の定説を取り入れて作っていますので、歴史認識の水準の高さに驚くはずです。もっとも長篠の戦は「三千丁三段撃ち」です。43年前ですからね。その代わり、数は揃えられても「玉薬が輸入品なので難しい」等の描写があります。

上記の恋の描き方も今とは全く違います。「恋」ではないかも知れない。「異文化を見る」ような感じになるかも知れません。おもしろくない、という方もいると思います。私にとっても「おもしろい」という作品ではなく、子供の頃に見た「衝撃的な作品」です。三谷幸喜さんも最も衝撃を受けた作品と言っています。三谷さんは「真田丸」に同じ松本さんで「ルソン助左衛門」を登場させました。芸術性の高い衝撃作です。ただこの「衝撃」が今の時代に通用するかは分かりません。

現在、信長の強さの秘密として「信長のマネー戦略」がよく言及されます。この作品はそこを先取りしています。三好三人衆が名前入りで登場します。六角承禎も登場します。激レアな武将が結構登場します。足利義昭は「イケメン」です。たぶん大河史上一番イケメンな義昭です。石田三成は近藤正臣さんで、準主役級となっていきます。ルソン助左衛門をいつも助ける「いい人」です。

NHKにとっては「自信作」かも知れません。信長の強さの秘密は堺にある?そんなのもう43年前に描いているよ。イベリアインパクト?大航海時代が戦国に与えた影響?そんなの43年前にとっくに問題提起していたよ。そう誇りたいのかも知れません。