おわらはノーブルな芸事で、盆踊りではありません。踊りには洗練された美しさがあり、通常は室内の舞台で行うことを、あえて八尾という町の中の通りを発表の場としています。これは踊りながら町を練り歩いたという成立の過程から続いているものですが、現在の形になった大正から昭和初期にかけての変革期において導入された新踊り、男踊りがおわらの上品さを確立したものと思われます。かつては飛騨と富山を結ぶ交易の要所として栄えた八尾は、北陸の風土の中で豊かな財力の元、異彩を放つ文化を形成していました。その資質は現在まで連綿と引き継がれています。単なる町を踊り練り歩く行事がいつしか、三味線、太鼓、唄、そして胡弓が加わり哀調溢れる情感ある旋律と、新踊りによる洗練かつ上品な踊りがおわらを限りなく格調の高いものにしています。そしてその行事を行うのは、普段は職業も持って働いている八尾の町の人々ですが、ほとんど町を上げての行事で、おわら人口も非常に多く、9月1・2・3日の「おわら風の盆」を最大の発表の舞台として、それに向け、年間を通じて習練をしています。町人文化というのは、なにも元禄の頃だけの話ではなく、八尾町ではそれが現在進行形として続いています。「おわら風の盆」は現代の町人文化なのです。さて、それを写してゆく我々は、本気で演じている姿と真剣勝負を、正面から見据え映し出す気持ちが必要で、その結果、「美しい写真」が残せるのだと思います。人が表現したいところ、見せたい所を見ることが写真には重要で、逆に隠したいところを探して撮ることはタブロイド誌のカメラマンに任せておけば良く、ノーブルで美しい写真こそ、そこに沢山の真理や思想、真実が隠れていると思います。それだけにこそ美しい写真を撮るのは難しいです。
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