感想

バラとおわら風の盆と釣りなどの雑記

猫の話  

2006年06月27日 | 雑記
その1 蛍

 仕事から帰ると庭を一回りするのが私の習慣です。その夜は1匹の蛍がバラの中を舞っていました。ここ数日テレビのニュースで蛍が採り上げられ、こちらでもそろそろ見れる頃かなと思っていた矢先でしたので、しばらく青白く点滅する光を眺めていました。家の前の用水路は3面護岸で勾配がきつく、水生昆虫が住める環境ではないのですが、それでも、上流のやや水が澱んだところにでもいるのか、毎年わずかですが、夏になると蛍が舞います。また家から200mほど下流の暗渠になっている支線の一部は、用水を改修し、蛍が住む川にしようと、2年ほど前に、地元の小学生がえさになるカワニナを放流しました。昨年は何度か見に行きましたが、まだ蛍は見られませんでした。水田の用水のため、冬は水を流しませんので生育が悪いのだろうと思われます。
 家の周り住み着いている猫で昨年の春に生まれた茶トラの琴という名の猫がいました。琴は今年の春、子猫を4匹程育てていました。自分が生んだ子猫なのか、あるいはその親が生んだ兄弟猫なのかは分かりませんが、乳は膨らみ、そこに子猫が吸い付き、いつも一緒に寝ていました。琴は生まれてまもなく、家の前の用水に落ち鳴いていたところを、私の父に網ですくってもらい、しばらく家の中に入っていたことがあります。そのせいか外で生活している他の猫と比べると、やや人慣れはしているのか、私が体を撫でても逃げず、家の玄関の前が主なすみかでした。兄弟猫と比べやや小さかったのですが、子猫を育てはじめた頃から急に体格もよくなり、すっかり大人の猫になっていました。ところが、蛍を見た10日ほど前から食事をあまり取らなくなり、ただ寝ているだけになりました。そして全くエサを食べなくなった日の翌日から姿が見えなくなりました。猫は死んでゆく姿を人に見せないといいますが、うちの場合は飼犬でも飼猫でも家で、飼主に看取られながら死にます。飼主が留守の場合は飼主が帰ってくるまで待って死にます。けれども、野生の猫の場合は確かに山の中などの人が来ないところで、ひっそりとその命を終わらせる場合が多いようです。琴は死んだと母は思っていたようですが、私は忙しいこともあり、そのことはまったく気にしていませんでした。
 蛍を見た前日の早朝、散歩に出ようと玄関を開けると、琴の育てていた子猫が何匹か庭の方に逃げて行きました。子猫がいたところを見ると、そこにはガリガリに痩せて骨と皮だけになった琴が座っていました。エサを琴の前に置き、頭を撫でてやり、私は散歩に行きました。帰ってくるとエサがなかったので食べたのだと安心しましたが、もしかしたら他の猫がやってきて食べたのかもしれません。そこで、今朝配達された牛乳瓶を開け、器に移し琴の前におきましたが、やはり匂いを嗅ぐだけで口はつけませんでした。全身で苦しそうに息をしています。普段は、私がベンチに腰掛けていると、近くまで寄ってくるので、撫でていましたが、今回はベンチに座る私のところへ倒れそうになりながらゆっくりと歩いてきます。私が細くなった体と頭を何回か撫でると、しばらく芝生の上に寝転びましたが、やがて、す~っと子猫のいる方へ向って歩き出し、大きなホスタの葉の下を通り、姿が見えなくなりました。
 家の前の用水に子猫の時に落ちた猫は、どうして落ちたのか分かりませんが、いずれも兄弟の中では一番弱々しく、小さく、結局、長生きしません。もって生まれた寿命は、ちょっとした人間の手助けがあっても、そうは変えることは出来ません。
 琴が再びいなくなった次の日の夜、蛍が1匹やってきました。その時は思いませんでしたが、あるとき気がつきました。あの蛍は琴が自分が死んだことを知らせるためにやってきたものだと。
 蛍を見た日から、もう10日以上経ちますが、今年はまだ他の蛍は現れてはいません。

コメント (2)
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