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 現在584本の映画のあくまで個人的な感想をアップさせていただいています。ラブコメ、ホラー、歴史映画が好きです【^_^】

スウィーニー・トッド~フリート街の悪魔の理髪師~(ティム・バートン監督)

2008-11-12 | Weblog
キャスト;ジョニー・デップ、アラン・リックマン、ヘレン・ボナム・カーター、ティモシー・スポール、サーシャ・バロン・コーエン、エドワード・サンダース、ジェイミー・キャンベル・バウアー、ローラ・ミッシェル・ケリー、ジェイン・ワイズナー

評価:☆

コメント:「ミンチ」が出来上がるシーンから下水道に至るまでの冒頭の流れるようなカメラワークが素晴らしい。
 19世紀ということで、ヴィクトリア王朝の時代が想定されているようだ。街灯が設置されていて、石畳のロンドンの街並みが印象的だ。特権階級と貧民階級の格差が強調されており、また身寄りのない人間が農村から都市にでてきてロンドンを形成している様子もみてとれる。肉の値段が高騰しているという設定で「パイ」は粉とラードだけ…という貧しい食生活。ヘレン・ボナム・カーターが怪しくてなかなかいい。
 聖ダンスタン市場の活気あふれる様子や「赤と白の床屋のマーク」、ガラスの窓、ジンの普及、ハーブやコリアンダーなどでソースを作るといったあたりに香辛料だけは入手可能な状態であることがわかる。精神病院もすでに設置されていて、「フォッグ収容所」として映画の中に登場する。  
 当時の英国の「階級社会」の様相が巧みに描写されつつ、さらに現代風に変形もされているところが興味深い。
 アラン・リックマンが演じるターピン判事は地主ではなさそうだが、裁判所の裁判官という法律を学ぶ者ということでジェントルマンとみなされる階級だということがわかる。ターピン判事の親は、おそらく貴族かあるいはジェントリとよばれるクラスの地主だったろうが、おそらく兄弟がいてターピン判事はその弟に相当するのであろう。土地を相続することはできなかったが法学院で法律を学習してその後司法にたずさわり上層階級になりあがっていったのではないか…と推察できる
 また当時の新聞が怪奇小説をそのままあたかも真実であるかのように掲載していたことも知られているが、スウィーニー・トッドもそうした怪奇小説の一部が都市伝説として広まって現在に至るのではないかと推定される。実際の殺人事件であってもあらかじめ用意してあったイラストなどと一緒に新聞には掲載されていた時期があったらしいので、都市伝説が生まれる基盤は当然あったのだろうが…。  

 もう一人の重要な脇役少年トビー。18世紀当初からの産業革命の影響で、過酷な工場労働や炭鉱労働に少年が駆り出されていたのは歴史的事実。一種の徒弟制度の変形バージョンとしてトビーはスウィーニー・トッドの下で働くことになる(厳密にはラベット夫人だが)。いわば「オリバー・ツイスト」的な子供像をこのトビーは映画の中で体現している。

 ヘレン・ボナム・カーターは「眺めのいい部屋」で1907年のエドワード王朝の頃の良家の令嬢ルーシー・ハニーチャーチを演じたときの演技が印象的だった。1901年から1909年ごろまでの短い時代(エドワード7世の時代)だがヴィクトリア王朝の「禁欲的生活」から「古きよき自由な時代」を生きたルーシーのイメージとヴィクトリア王朝を舞台にしたこの映画のラヴェット夫人との対比がまた印象的だ。エドワード7世とヴィクトリア女王の性格の差がそのまま時代の差となり、さらに「眺めのいい部屋」と「スウィーニー・トッド」の差異となってあらわれているような気もする。

 この映画は1998年に映画化された「スウィーニー・トッド」(ジョン・シュレンジャー監督 ベン・キングズレー主演)に続く二度目の映画化作品。ミュージカルの題材や英国の各種小説にも顔を出すキャラクターだが、前回の作品は新宿ミラノ座で公開された時点で見た記憶がある。前作の映画では、石畳の道路や街灯はラストに見えるだけでヴィクトリア朝後期からエドワード時代に至る過渡期が示唆されているラストが印象的だったが、今回の作品はティム・バートンのこだわりがみえる舞台設定で、全面に街灯や石畳がふんだんに用いられているのが印象的だ。ちなみに白熱灯がロンドンに導入されたのが1882年だから、舞台設定も1882年以降ではないかと推定される。ちなみにこの映画は第80回アカデミー美術賞を受賞。舞台装置そのほかは見事というしかなく、受賞は当然のような気がする。  

 衣装も見事でだいたいヴィクトリア朝後期の1850年代から1890年代に英国の服飾の基本が確立されたとされている(「西洋服飾史」朝倉書店)。ゆったりとしたトラウザーズ、折り返しについた襟、ブーツから編み上げの靴、トップハットの帽子など映画の衣装も美術以上に楽しめる。ジョニー・デップが着ている木綿の白いシャツもこの時期に確立された衣装のようだ。  

 肉は高いが粉は手に入る…という台詞が面白い。これはおそらく穀物法の廃止で自由貿易体制が確立したのが1846年。おそらく穀物法廃止による輸入貿易の結果小麦粉などはわりと安く入手できたほか、英国農業が海外農産物に対抗するために効率化を図った結果の時代ではなかろうか。舞台設定がヴィクトリア朝後期ではなかろうか…と推定するのはそうした台詞のせいもある。

 1888年の「切り裂きジャック事件」やフェビアン社会主義、1887年の「血の日曜日」事件などヴィクトリア王朝後期には失業者と社会主義、連続殺人事件など社会の暗黒面が露出してきた時代でもある。 そうした時代設定のもとにうまれでてきたこのキャラクターが21世紀にまた登場してくるというのは、多様な価値観や芸術作品が量産されたヴィクトリア王朝と現在が重複する部分があるからかもしれない。

ストーリー:15年もの懲役をへてバウンティフル号の船乗りアンソニーに途中助けられつつロンドンのフリート街に戻ったスウィーニー・トッド(ベンジャミン・パーカー)ターピン判事に罠にはめられて幸せな家庭が崩壊してしまった彼は復讐を誓う。そして娘のジョアナはしかしターピン判事の養女として育てられていた… (参考「イギリス文化史入門」(伊野瀬久美恵編 昭和堂 1994年)、「西洋服飾史」(菅原珠子ほか 朝倉書店 1985年)

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