goo blog サービス終了のお知らせ 

永遠に、幸せになりたい。    by gorosuke

真夜中、いいおっさんが独り海に向かって延々と竿を振る。
アホだな。でもこのアホ、幸せなんだよなあ。

今期最後のイカ釣り。

2013-11-08 | アオリイカ


朝まづめ、今年最後のイカ釣りに行って来た。

モンスター以後、数回の釣行と同じくあまり釣れなかったが

カシオペアやオリオンが瞬き、満天の星空を眺めながらの気分のいい釣りだった。


秋のイカ釣りシーズンは短い。10月前後の一ヶ月あまり。

今年は昨年のようには数は釣れなかったが、サイズは良かったし、何よりモンスター30センチ1.3キロは秋の自己記録でもあった。



短いシーズンだが、いろんな楽しい事件があり長かったようにも思える。

釣れても釣れなくても釣りの時間は濃くて豊かな至福の時間である。

そう、時間は時計が刻むのではなく、一瞬が永遠にもなり、伸びたり縮んだり、薄くなったり濃くなったりして、自分の中から流れ出るものなのだ。

ともあれ、アオリイカたちにありがとうである。

そして来シーズンもヨロシクである。










ビギナーズミラクルそしてモンスター

2013-10-21 | アオリイカ
シイラの後、数回出かけてみたがやはり不調だった。

釣れなくはないが、昨年の50杯にはほど遠い。








輪島の海が不調なのかと珠洲方面へ出かけてみたが大して変わらない。

地元の釣り師、漁師さんたちの話からも今年の不調は本物らしい。

原因は分からないが、皆さんの話を総合してみるとどうも今年は青物が多いらしく、イカたちが逃げて散っているのだとか。

師匠つーさんも青物の噂を聞いて越前も喰いが渋くなったという。

確かに、夕方まだ明るいうちはレッドペッパーを投げてみると反応があり、フクラギの1~2匹はヒットしたりするのだ。

しかし、なんとか釣る方法はないものか?

時間帯を考えてみる。

これまでの数回の釣行を振り返ってみれば、明るいうちはまず釣れないが、確実に釣れる時間帯があるのに気が付いた。

昨年は10月の終盤、夜なら大抵は釣れたのだが、今年はそうはいかない。

夕方から暗くなってからの2時間程度、今年はその時間帯に絞られるように思えた。

今年のイカ釣りのピークは恐らく19日の満月前後、その辺りの夕方からの数時間、ここが狙いだと思えた。





14日、さいたまから友人の後藤さん一行がやって来てイカ釣りをしたいというので夕方を狙って出かけた。

天気はよく、夕日が綺麗だった。

明るいうちに釣りは初めてだという堀内さんにロッドの握り方、リールの操作、シャクリ方をレクチャー、まずはキャストの練習をしてもらう。


夕まづめ、レッドペッパーを投げると案の定、フクラギがヒットした。




明るいうちは全くイカはヒットしなかったが、予想通り暗くなると舞台の幕が上がったように釣れはじめた。




先ずは後藤さん。

続いてまた後藤さん。



そのうち、堀内さんにも。彼はまだ遠くにエギを飛ばせないが、近くの中層にいるやつにタイミングよくヒットしたようだった。



暫くすると堀内さんにいいサイズが来た。



日頃システムエンジニアの仕事をやっていて温和な性格で普段物静かな彼だが、少年のような顔になっちまうのだ。


私も負けずに。



胴長20センチオーバー、いいサイズだった。


背後には満月に向かう明るい月が出ていた。

その後もヒットは続き楽しい夜となった。

今期初の活況、イカ祭りであった。

まだ釣れる雰囲気だったが、8時に納竿。

彼らがさいたまに帰る時間になったのだ。



一年ぶりのクーラー満杯状態、後藤さんの笑顔。






友人たちがやって来て、彼らがイカを釣りあげ、釣りを楽しむ。その屈託のない笑顔を見るのは私の楽しみである。

しかし、タイミングというものがある。

後藤さんたちの前、大阪の友人貴彦さん、奈良からのべんさんは一緒に出かけたが釣ることが出来なかった。

べんさんなどは彼が帰った夜、後藤さんたちとのイカ釣り祭りとなったのだ。このタイミングの悪さ、申し訳ない気持ちが後を引く。


ともあれ、この夜は私の予想通りの釣りになったのだし、満月に向かって釣れる海になってきたことは確かだった。






その数日後、18日。

ほぼ満月の夜。

与呂見村の寺(龍昌寺)の娘ふう(風)ちゃんと友人の息子ソウル、若者たち二人と出かけた。

ソウルは愚息麦の友人でもあり、昨年からイカ釣りを始め、今は釣り師の端くれになっているが、風ちゃんは勿論釣りなんて初めてである。

赤ちゃんの頃から馴染みの彼女である。今、大学を終えて実家に戻り休憩中だが、是非イカ釣りをやってみたいという。

夜に備え、明るいうちにリールの使い方、シャクリ、キャストを教え、練習してもらうが、生憎海は荒れ気味で横風も強かった。

練習もままならない状況で本番はさぞ難しいだろうと思ったが、なんとなく風ちゃんがでっかいのを釣りそうな予感もあった。


さて、暗くなって本番である。

想像通り、風ちゃんはキャストに苦労しているようだった。ルアーは足元に落ちたり、真上に飛んだり。

しかし、最初の一匹目を釣ったのは風ちゃんだった。それも案外いいサイズ。




そしてまた風ちゃん。これもいいサイズ。




ソウルもヒットさせるがどういうわけかみんな小さい。リリースサイズばかりだ。


風ちゃんはルアーを遠くに飛ばせないが、先日の堀内さんと同じく近くにいるやつにタイミングが合うようだった。

しきりに20センチクラスをヒットさせた。

この状況は十分ビギナーズラックだが、彼女はさらにそれを越えた。


「みーおじ~、釣れちゃった、重いよ~」と彼女。「みーおじ」とは村の子供たちの私への呼び名である。

見ると驚いた。必死に持ったロッドのぐんなり曲がった先にこれまでとレベルが違うサイズがぶら下がっているではないか。

おそらく胴長25センチ。堂々たる魚体である。

よく抜き上げたものだ。聞いてみると彼女は学生時代握力はナンバーワンだったらしい。流石与呂見の子である。



しかしだ、手慣れた釣り師でも25センチはなかなか釣れない。

まさにビギナーズミラクルである。



暫くして、私にも25センチが来てなんとか経験者の面目を保つ。25センチは私にとっても今年の新記録なんである。



数投後、もうひとつ25センチ。


(写真を撮ろうとした瞬間、墨を噴射!帽子が現代アートになっちまった。)


いや、今年は数が少ないがサイズはいいらしい。

確かに、この磯にはデカイやつが潜んでいるのだ。


しかし、ソウルは相変わらず小さいのしか釣れない。

場所を替わってみたりしたのだがやはり駄目だった。

彼がデカイのを釣り上げ、その写真を撮るまで帰るまいと粘ったが

全体にアタリがなくなり、最後に彼が釣ったのを潮時にした。



こういうことは釣りにはよくあること。

寂しそうな背中だったが、悄気るなソウル、この寂しき経験を背中に重ねて一人前の釣り師になっていくのだ。










さて、明くる日(19日)満月の夜である。

久しぶりに一人で出かけた。

海は凪ぎ、曇り空でボンヤリのお月さんだった。

恐らく凪のせいだと思うが、前夜ほどは釣れなかった。


しかし、でっかいヒットがひとつ。

その重さと強い引きといったらなかった。

なかなか浮いて来ない。グングンググンとスペシメンが何度も大きくお辞儀する。強烈な生体反応だ。

寄せるのに腕の筋肉が痛くなった。

そして、足元に来た魚体は間違いなく昨夜の胴長25センチを超えていた。

やったぞ、モンスターだ!!心臓が高鳴った。


しかし、玉網を持って来ていない、抜き上げるしかなかった。

寄せる波のタイミングで抜き上げにかかったその瞬間、

フックの掛かりが浅かったのだろう、持ち上げる重さに耐え切れず

スコン!とルアーは外れ、虚しく宙を飛んだ。

「あんりゃ!!!」思わず誰もいない海に叫んじまった。

イカは喜色満面、あざ笑うようにゆっくりと海へ帰って行ったのだ。

この喪失感、・・・・腰が抜けちまった。


実はこの磯でモンスター級を逃したのは二度目。

やつらを釣り上げるに、まだ修行が足りないとみえる。

ここには確かにモンスターがいる。

待ってろよ、

きっとそのうち釣り上げてやるわい。


凪のとき、活性は弱くなり、釣れる時間帯も短くなるようだ。

8時になるとサッパリとアタリはなくなってしまった。






そして、20日。

降りしきる雨の中、こんな日に行くなんて呆れてものが言えんという連合いを尻目にまたまた出かけた。

海が呼んでいるのである。モンスターが呼んでいるのである。

もう誰が何と言おうが、雨が降ろうが槍が降ろうが行くんである。


磯に立つとヘッドライトの中、小降りになった雨が踊るように海面に降り注いでいた。

誰もいない静かな海だった。こんな日に釣りをするアホはいないんである。


そんな海の正面へフルキャストの第一投だった。

ルアーが着底したのを確認して、そっと引いてみるともわっとしたイカの存在感。

ちょっと間を置いて合わせると、ルアーが動かない。根掛かりだ。

ルアーのロスト覚悟で思い切り引いてみるとゆっくりと動くではないか。

イカだった。それも相当デカイ。

ジィー!!ジィー!!とドラグが唸り逆転する。

先日の25センチでは鳴らなかったドラグだ。

その度にロッド、スペシメンがハゲシク首を振った。

どのくらい時間がかかったか、右腕の筋肉が悲鳴を上げそうになり、

そいつはゆっくりと海面に姿を現した。

思った通りモンスター級だった。

昨夜のやつか!!一瞬昨夜のことが脳裏をよぎった。

どうあっても昨夜の二の舞は避けたかった。


慎重に寄せる。慎重に。

左手で玉網をたぐり寄せ、引き延ばし、足元の海面に差し伸ばす。

そうなのだ、今日は玉網を持って来たのだった。

直径40センチの玉網にやつの巨体は入り切らないくらいだし、やつはこの期に及んでもジェット噴射で逃げようとする。

なかなかうまく入ってくれない。

焦る。バレるなよ。

なんとか身体半分入ったところで強引に玉網を持ち上げ身体全体を収めたが、その瞬間、玉網の柄が重さに折れちまった。

あんららーー!!

焦りまくるが、なんとか折れた柄(折れたがかろうじて繋がっていた)をゆっくりと引きあげランディングに成功したのだった。


ヒットからランディングまでほんの数分だったろうが、長い時間だった。


煙草に火をつけ、磯の上に横たわった巨体を座って暫く眺めた。




(折れた玉網の柄)


こいつは親イカではない。今年生まれた新子のモンスターなのだ。




しかし、不思議である。

昨夜逃げられ、今夜再びモンスターに出会うとは。


「お前、昨日のやつなのか?」と聞いてみたが

やつはそのでっかい目で私を見返すだけだった。




帰って計ってみると胴長30センチだった。うっひゃ~~!!




勿論、釣りを始めてからの自己記録である。


確かに今年の海はイカは少ない。

だが、釣れないことはないのだ。

数は少ないが、デカイやつが潜んでいる。

そいつを狙おう。



沢山釣るのも楽しいが

こんな釣りも面白いし、かえって学ぶことは多いし、やりがいがあるのかもしれない。



ちなみにヒットルアーはヤマシタエギ王Qの旧タイプ。エギングを始めた頃によく使ったあのエギである。
それも羽根が片方取れていてボロボロのオレンジである。
私は基本的にエギ王Qの旧タイプが好きである。なんだか私の釣りのリズムに合っているような気がするんである。

ロッドは師匠つーさんの奨めでブリーデンスペシメン90ディープである。
中古を手に入れたのだが、操作性、感度、バランス、どれもいい感じ、この深い磯に適合し気に入っている。




私のアオリイカ開幕

2013-09-21 | アオリイカ

実に半年ぶりの釣りである。

このブログはそれ以上のブランクになっちまった。

春から夏にかけて奈良、松山、大分と立て続けに展覧会があり仕事に没頭した。

仕事に没頭すれば釣りが遠ざかり、釣りに没頭すれば友人たちが心配するほど仕事が遠ざかる。

どうもこのあたり、うまくバランスがとれない性格らしい。


この盆休みに福井のつーさんが久しぶりに家族友人たちと遊びにやって来た。

釣りを初めて10年になるが、切っ掛けはつーさんとの出会いだった。

彼は今、釣り雑誌に記事を書き、かのブリーデンのスタッフにもなって、釣り師としての活躍ぶりはめざましい。

それは釣り弟子として嬉しくも誇らしくもあり、そんな彼と釣りの話をしていると、暫く眠っていた釣りへの想いは刺激されムクムクと蘇って来るのであって

昨シーズン、イカロッドを折ったこともあり、彼の奨めでブリーデンのイカロッド、スペシメントを買っちまったのだった。(ついでにメバルロッド、93PEスペシャル、ホウリーアイランドも。うっひゃ~~。)

新しい釣り道具、特にロッドは嬉しいものだ。

釣りの大先輩、故開高健先生の言葉「大人と子供の違いは高価なオモチャを持っているかどうかだ」がちらと頭をよぎる。

いいではないか、私は大人なのだ。稼いだお金は楽しいことに使うのだ。




というわけで、リールの整備をし、エギも揃えて準備万端イカシーズンの到来を心待ちにしていたのだが、9月初めにまた大阪で展覧会があり

今、やっとそれも終わり、遅ればせながら小生のイカ釣りの開幕となったのだ。

19日は中秋の満月、開幕にはもってこいの夜だった。

心ははやり、まだ明るいうちにポイントに到着。明るいうちにスペシメントの振り心地、感触を確かめたいということもあった。

エギ3.5号をつけてやってみる。

新しいロッドを試すのは楽しい。心ワクワク弾むのだ。

昨年まで使っていたカラマレッティより柔らかく粘りがある感じか。

このところ激しくシャクルことはあまりなく、どちらかというと大人しいシャクリになってきたが、それにはピッタリのような気がした。

でも、このロッドにピタッと合うシャクリが分からない。手に馴染むにはまだ時間がかかりそうだ。



数投やってみるが、釣れる気配はなかった。

この夏、シュノーケリングで例年になく多くのアオリイカの子供たちを見かけた。

漁師さんも今年はイカが多いのではないかと言っていた。

だから今年のイカ釣りは期待したし、今が新子の数釣りの時期である。

それもこのポイントは輪島の一級ポイント、釣れないはずはなかった。

しかし、釣れないんであった。


実はメジャーポイントだけあって、先客が二人いた。

その二人とも釣れている気配はなく、一人は早々に帰っていったのだ。

残ったおじさんは帰る気配もなく、聞いてみると満月の夜を待っているようだった。


ともあれ、夜に期待し、のんびりと待つことにした。


そのうち日は落ちて水平線に沈んだ。





日はゆっくりと水平線に近づき、やがて一気に沈むのだ。

いつ見ても、荘厳な美しさである。

日が沈んで暫くすると、背後の山の端にまん丸お月さんが顔を出した。


暗くなりはじめた頃、おじさんにヒットした。

やはりな、と思う。

いないわけがない。

と、私のロッドにもイカの重さが。

胴長13センチ、小さいが今年初のアオリイカである。



底だった。

次も底ベタでヒットした。こいつは15センチ。



この時期のやつは中層で釣れる筈だが、活性がないのか底でしか掛からない。

おじさんに聞いても底だという。

しかしと思い、時折表層や中層を狙っても掛からない。

ひたすら底を狙う。


着水後、カウント40。

始めのシャクリは大きく、暫く待って小さくパンパンパンとしゃくる。次はリズムや回数を変えてやってみる。その繰り返し。


昨シーズンの終わり頃、ワンキャストワンヒットが5時間も続いた。

それを思い出すが、虚しい限り。

でも、ぼつぼつと来る。





数匹続いたと思うと暫く間があく。


時々空を見上げてまん丸お月さんを眺める。

雲一つない空にあっけらかんと浮かんでいた。

中秋の名月である。

深夜、磯の上で何やらやっているおじさん二人を見て笑っているようだ。

見上げる度にその位置が移動し

真上に来るとライトが要らないほど明るかった。



延々と磯に立ちロッドを振った。

嗚呼、楽しい夜である。

おじさんも帰ろうとしない。



豊かで濃い私の時間である。


「永遠に幸せになりたかったら、釣りを覚えなさい。」


とは中国の古い諺である。




結局20杯ほど。大した釣果ではない。

しかし、おかずには充分だ。





おじさんは輪島の北間さん。お世話になりました。またどこかで会いましょう。




荒れた海はドラマチックだった。

2012-10-24 | アオリイカ
大阪から友人向井一家と彼らの仲間玉ちゃんがやってきた。

以前から遊びに来たいとは言っていたが
アオリイカシーズン真っ最中のタイミングである。
遠路はるばる都会からやって来たからには釣り立てのイカを腹一杯食わしてやりたいと思うし、それは約束でもあった。

というわけで、旦那の貴彦さんと釣りに出た。
彼は釣りをしているわけではなかったが、イカ釣りには興味津々、是が非でも一緒に行って自分も釣ってみたいと言う。

正直なところ、今のイカ釣りの状況は初心者にはキビシイ。
成長したイカは用心深くて簡単には掛かってくれないし、底を取るというのが鉄則だが、その感覚も分からないだろう。
まして夜の釣りである。
昼でも釣れないわけではないがこの時期のイカは夜の方が活性が高いし、昼は海が荒れ、風向きも悪かった。夜の方が可能性が高いのだ。

しかし、初心者にとって暗闇の釣りは極めて厳しい。
第一、暗闇にキャストするのであって、ルアーがどのように飛んだのかさえも分からないし、エギが海中をどのように動くのかなんて想像もできないだろう。
さらに、予報では1.5メートルの波、穏やかな海ではなかった。

そのようなことを一応説明するのだが、彼はひるむどころか
顔は好奇心に輝き、やる気満々なのであった。

というわけで、現場に着いたのは3時だった。
ポイントの磯に行ってみると、予想外に海は荒れていた。
乗っかる岩礁の周囲は轟々とサラシが渦巻き、1.5メートルどころではなかった。
一瞬、アブナイな、やめようか、とも思ったが、
やる気満々の彼の顔を見るにつけ、ともあれ行ってみることに。

乗っかる岩礁に渡るのが難しい。
波が押し寄せて行く手を遮断しているのだ。
波が大きく引くタイミングを見極め、
その瞬間、今だ!!
とデコボコの磯を忍者のごとく走り渡らねばならない。
タイミングを間違えれば、波にさらわれてしまう。
ちょっと緊張するのだったが、彼は恐れることもなく、私の号令に従ってうまく渡った。

いつもの一番前の釣り座ではもろに波を被るので、下がって高いところを選んで立ち、暫く様子を見た。
右手も左手もサラシの渦だったが、潮の流れと突き出た岩礁の形のせいで正面だけはぽっかり穴が開いたようにサラシが出来ていない。
風はうまいこと真後ろからの追い風である。
周囲の岩礁はみんな波を被っていたが、我々が立っているところだけは不思議と波が上がって来ない。
いや、時々上がって来るが大したことはない。膝下が濡れる程度。

よし!!なんとか釣りが出来そうだった。

リールの使い方、投げ方をレクチャーし、とにかくキャストしてもらう。
ふむ、初めてにしてはちゃんと飛んでいる様子。

次にシャクリをレクチャー。先ずは二段しゃくり。こいつは流石に上手くはいかない。
まあそのうち慣れるだろう。

と、私もキャストを開始した。

追い風でルアーは飛んでくれるし、荒れてはいるがルアーは沈んでくれなんとか釣りになりそうだった。
しかし、アタリは来なかった。

ライトで海面を照らしてみる。濁っていてはイカは釣れない。
海面の上下運動が大きくてよく分からない。でも荒れているということはいつもより濁っているに違いない。

こんな状況ではイカはどこかへ避難しているかも知れない。
釣れないかも・・・・不安がよぎる。
まして、彼は釣ることは出来ないだろう。
是非イカを釣る体験をしてもらいたかったが、タイミングが悪過ぎる。

しかたない。次の機会だな。
日本海の磯に立っただけでも悪くはないのだ。
などと考えていた時だった。

彼のロッドの先が曲がっている。
あら!根掛かりか!
いや、違う。ロッドの先がグングンとお辞儀している。
そして彼はリールを巻いている。
イカだ!!

「ゆっくり巻いて!!ゆっくり、ゆっくり!!」と思わず叫ぶ。

左手で巻くことに慣れないのでぎこちないが
数秒後、ラインには確かにアオリイカがぶら下がっていた。

いや、驚いちまった。
この状況で、彼が先に釣りあげるとは・・・・



サイズは小さかったが、彼の初アオリイカであった。

自分で釣り上げながら何が起きたのか状況がよく呑み込めていない様子ではあったが
とにもかくにも釣ったのだ。


彼の目標はひとつ釣り上げるということだったが、
それはいとも簡単に実にあっさり達成出来たのだった。

暫くして私にも掛かった。
深いところ。根掛かりのような重さ。底から引き剥がす。でかい!
引きも強い。ロッドがグウン、グウンとしなる。
玉網は持って来ていなかったが、それほどでもないだろう。
抜き上げると予想外に重かった。




ヤマシタ、エギ王Qオレンジ3.5号に糸錘を4~5重巻きにしてカウントは45くらいだろうか。
この荒れでは、それでやっと底に達する。

底を感じ、意識しながらしゃくる。ダート幅は小さく、誘うように。

すると再び乗った。

そいつも重かった。




そこで最初のやつとこいつを計ってみた。
24センチと22センチだった。
24センチは勿論今期最大。




その後もいい感じで数杯ヒットする。






しかし、彼にヒットしない。

エギをディープタイプに替えてもらい、
カウントも30から40、深いところを狙うように。

暫くすると、ヒット。
今度はいいサイズ。


(この写真を撮るのが私の目標だった。)


その直後、アクシデント。
私がロッドを置いて墨を吐かせるために放置していた数杯のイカをクーラーボックスに入れていると、ガチャン!!という衝撃音。
何事かと思いきや、私のロッドが飛んでいた。
彼がキャストした拍子にエギが私のロッドのラインを引っ掛けたらしい。
危うく海に落下しかけたロッドは救ったが、ラインはブレイクしていた。切れた先のラインとエギは近くの岩に引っ掛かっていてラッキーだったが、
よく見ると、ロッドの穂先が折れ、トップガイドと二番目のガイドが無くなっていた。



しかし、ここで釣りをやめるわけにはいかない。
三番目のガイドをトップガイドとして使うべく、ガイドの先に残っている部分をプライヤーで切り取り
やんわりとキャストし、やんわりとしゃくってみた。
少し堅いが、案外しゃくり易いし、なんとかなりそうだった。

いや、実際、それで問題なくイカは釣れるのだった。


これも22~3センチ。


元気よく水を噴射する。

その後も入れ食いとはいかないが、
いい感じでヒットは続いた。


彼もぼつぼつと釣り上げている様子。

見るとキャストもシャクリも次第に様になって来たようで
ロッドが風を切る音が小気味いい。
いや、大したもんである。

初めての釣りで、これほど早くものにしたやつがいたか。しかも暗闇の中でである。

周囲に夜明けの気配が流れ込んで来る頃には
ヒットする頻度は私とあまり変わらなくなっていた。

時にダブルヒットすることもあった。

心底楽しそうな彼であったし、私とて大いに心は弾むのであった。




明るくなって想像以上に波がきついことに気が付いた。
波の上下を観察すると2.5メートルの波である。

改めてこんな状況で釣りをしていたのかと。



すっかり明るくなってアタリは止まった。
前回もそうだったし、前々回もそうだった。
明るくなるとどうして釣れなくなるのか?

成長したイカは警戒心が強く、明るくなるとさらに警戒するのか?
この朝まづめに大敵である青物が来ているのか?

バッグの中に入れていたデカメバル用のアイスジグ7センチを付けて潮目に投げてみた。
前回、ひょっとしてと思い、そいつを投げてみるとバラしたが確かに何かが食いついたのだ。

イカの連続ダートと同じ要領で引いて来る。ワインド釣法だな。
と、ゴツンと衝撃。ヒットした。
走った。イカとは違い、鋭く強い引きだった。
今回はバレずになんとか引き寄せ、えいやっと抜き上げた。
果たして、そいつの正体はフクラギだった。



その後も数投してみるが、ヒットしたのは一投目だけだった。

イカは既に釣れる気配がなくなっていたが
釣果はもう十分すぎるほどで
そこで終わりにした。

思えばいろいろあった釣りだった。

荒れた海。
ティップが折れたロッドでの釣り。
貴彦さんも根掛かりラインブレイクでラインが短くなり、フルキャストが出来ない釣りだった。
しかし、今季最大も釣れたし、彼もイカを釣る体験が十分に出来た。
フクラギのオマケもある。

貴彦さんは時折岩の上まであがって来る波にジーパンの裾も運動靴もびしょ濡れであったが、ひるむことなくひたむきに釣りに集中していた。
釣りなどやったことのない都会の青年である。その彼がこんなにも釣りに没頭し、この厳しい状況をものともせずイカ釣りをなんとかものにしたのだ。



楽しいと彼は言う。
この海が気持ちいいと彼は言う。
彼の顔が朝日に輝いていた。

彼を連れて来てよかった。

心底そう思った。




(昼飯は釣り立てイカ刺し宴会。右は貴彦さんの嫁さんひとみさん、左は玉ちゃん。)


三匹目のドジョウは夕日だった。

2012-10-11 | アオリイカ
今、大阪の展覧会に向けて絵皿を作っているが、気分転換、午後遅くから釣りに出た。
窯焚きやらなんやら、これから暫くは行けないということもある。

また、前々回、柳の下に見事なドジョウがいて、前回も二匹目のドジョウがいた。
さらに今回、三匹目のドジョウはいるか?ということもある。

釣り座に立ったのは四時。
凪いだ海、風向きは悪くなかった。
さて、三匹目のドジョウはどうか?
前回、前々回の入れ食いを思い出しながらキャストを始めた。

一投目、アタリなし。
ふむ。

二投目、アタリなし。
ふむ。

三投目、方向を変えてみる。
しかし、アタリなし。

4投目、エギを替えてみる。
やっぱりアタリなし。

どうやら三匹目のドジョウはいないらしい。
まあ、こんなもんだろう。

かえってこのくらいの方が釣りらしい。
このポイントは懐が深い、そのうちスイッチが入るだろう。

なんてのんびりかまえるものの
その後もさっぱりアタリはなかった。

ほんとさっぱり、なんである。
どこをどうやってもまるでイカの存在が消えちまったようだった。

ふーむ。
しかし、晩飯のおかずくらいは釣って帰りたい。

釣れないが、空はとびきり綺麗だった。



キャストしてフォールを待つ間、思わずカメラを取る。




久しぶりの日本海に落ちる夕日だ。



この荘厳な夕日や月、星たちを眺めるのも釣りの大いなる楽しみなのだ。



と、小さいのが掛かった。リリース。

暫くして、また小さいの。

釣れないとはいえ、流石夕まづめ。
少しは状況が変わって来たと見える。

日は完全に水平線下に落ち、残照がほのかに海面を照らすその時
底でイカがエギに触っている微かな感触。
うっは、久しぶりの感触。

イカは用心深く様子を窺っている。
軽いダートで誘ってみる。そしてそっと待つ。
ゆっくり引いてみると抱いたような僅かな重さ。
そこで合わせる。ぐっと重さが乗った。
途中まで引いて来て、突然走り始める。
ロッドの先がグングンとお辞儀する。

その日、初めてのまともなヒットだった。




その後、ぼつぼつ。




このところ気に入っているダートマックス。あまり激しくしゃくらない私に相性がいいかも。渋い時に。



月もなく、真っ暗の暗闇の中
一投一投、集中してイカを掛ける。
ラインを伝わる微妙な魚信だけが頼りだ。
釣りらしいと言えば言える。

7時を過ぎたあたり、暗闇に閃光が炸裂しはじめた。
稲光である。
次第に閃光が近くなって来た。

突然、雲行きが怪しくなった。胸騒ぎがする。

イカもなんとか10杯、晩飯のおかずには十分。
終えることに。

車へと磯の崖を登っていると、案の定雨が降って来た。
それも土砂降り沛然。

車に戻るまでに全身濡れ鼠になっちまった。


三匹目のドジョウはいなかったが
見事な夕日は釣れたことだし、微妙な魚信のやりとり。

それに土砂降り。


なんだかな


へんてこで愉快な釣りだった。



柳の下の二匹目のドジョウ。

2012-10-07 | アオリイカ
前回の入れ食いの感覚が甘く疼くように身体に残っていた。

その感覚に引っぱられるように出かけた。

爆釣の明くる日行ってみるとボウズ、ということはよくあること。
普通、柳の下に二匹目のドジョウはいない。

土曜日の早朝ということもあって、前回より少し早く現場に行ったが、やはり先客がいた。
車は一台、ひとりならなんとか入れるだろうとポイントに向かった。

月は半月、薄曇りの空にボンヤリと顔を出し、ゆるく辺りを照らしていた。
その薄明かりの中、ポイントに一人の先客が見えた。よし、何とか入れる。

「隣でやってもいいか?」と声をかけると、
「はい、どうぞ!」と若者らしきハキハキとした声だった。
こんな先客はありがたい。
彼の足元には既に数匹のイカが横たわっていた。
墨や水を十分吐かせるためにこうして暫く置いておくのだ。
なんだか調子良さそう。

彼の左手に立ち、私もキャストを開始。
前回とは違い、1メートルの波、凪ぎに近い。
イカもメバルも他の魚も基本的には少し荒れて釣りにくいくらいが活性が高く
凪ぎは釣りにくいものだが今日はどうだろう?

前回と同じく、一投目から掛かった。
こいつがいきなりでかかった。
胴長20センチ。



そして、二投目も三投目もヒットする。
それは前回の感覚と同じであり
時間はさかのぼり、前回の釣りがそのまま続いているようだった。
柳の下、二匹目のドジョウはいたのである。





先客は金沢からやって来たという。
「一人より二人の方が危なくないですしね」と言う。
凪のように静かな海で?
そう言ったのは彼の優しさであろう。

そこではたと考えた。
まあ、一人の夜釣りなんて何が起きるか分からないし、危険と言えば危険なのだ。
普通家族を持つ大人であれば、そう考えるのが当たり前だろうし、それが責任でもあるのだろう。
しかし、私はそんなこと考えたこともない。
釣りは基本独りでするものと思っている。
なんかガキだなあ・・・・

イカは釣れ続けた。
ワンキャスト、ワンヒットの時間帯があれば
ぼつぼつの時間帯、
そしてまた入れ食い、
またぼつぼつ。
全体的には間断なく釣れ続けた。









釣れ続けることは楽しい。
何度も、何度もイカの反応、引き、生体反応を体感出来るのである。
嗚呼、なんと幸せなことか。

先客の彼も間断なく釣り上げているようだった。
シャクリや竿さばきは相当慣れた人のものである。
暗くて顔はよく見えないが、立ち振る舞いに楽しさが溢れている。

奥能登日本海の磯である。
イカのシーズン、エギングブームで町に近い釣り場はどこも人で一杯であろう。
越前海岸でも他府県ナンバーの車が列をなし、ポイントに入ることさえ一苦労である。
それに比べれば、ここは釣り人は極めて少ない。

たゆたゆと海は広がり、空には月、まだ薄暗い早朝は爽快だった。
懐の深い海である。どれほどのイカたちがいることか。
この磯で釣りが出来るシアワセを実感する。


(こいつは胴長22センチ。流石に引きは強かった。今年の最大だ。)






しかし、こんな状況は極めてブログに書きにくいんである。
底を取り、適当にしゃくっていれば乗って来る。
考えることもなく釣れるんである。
なんかなあ、全く釣れないのと同じくドラマに欠けるんである。


周囲が明るくなって先客さんがさほど若い人ではないことが判明。
52才だという。驚いた。
何と若々しい声、振る舞い。
釣りは人を若くするのだ。
ここで初めて名乗り合った。
金沢の公務員さんなのだそうだ。
彼も明るくなって私がゴロスケだと言うことに気が付いたらしい。
このブログを読んでくれているのだとか。

明るくなってアタリの方は突然パタリと遠のいた。
あれだけのアタリがである。
イカたちが突然姿を消したようであった。

前回は明るくなってもなんとか釣れた。
考えられるのは海の荒れである。
前回は荒れていた。今回は凪である。
潮も悪くないし、そのくらいしか考えられなかった。

贅沢ではあるが、釣れない状況も新鮮ではあった。
釣れないところを釣るのが腕であろう。
エギの色やサイズを替えてみたり、レンジを変えてみたり、方向を変えてみたり、シャクリを変えてみたり、いろいろやってみるが
やはり釣れないのである。
腕がないんである。

先客さんも粘っていた。帰るきっかけが見つからないという感じ。

一時間半粘って、小さいの数匹。みんなリリース。


諦めた。時間は8時過ぎ。

先客さんが釣果を見せてくれる。
50杯は釣っただろう。
こんな釣果は初めてだと嬉しそう。



私のクーラーも前回につづき満杯。




また重いクーラーを背負ってヒーフーハーフー崖を登った。

そのうちまたどこかで会いましょう、よろしく。
と挨拶交わし先客さんと別れた。
なんだか清々しい人であった。

帰り道、村々世話になっている友人のところに立ち寄り、イカを配りながら帰った。

キープしたやつを数えてみると52杯だった。
15杯はリリースしたから、70杯近く釣り上げたことになる。
前回よりさらに多く釣ったことになるが、前回より時間が長かった。


ともあれ私のイカ釣りの数の記録である。





ワンキャスト、ワンヒット。月の下の元気なイカたち。

2012-10-04 | アオリイカ
満月を過ぎた月が出ていた。
なんだか胸騒ぎがした。

早朝暗いうちに釣りに出た。
昨夜の晩飯後眠っちまって目が覚めたら2時、もう少し寝ようと思ったが眠られず
準備をして少し早いがそのまま家を出た。

輪島の磯である。
現場に着いたのは3時半。
秘密の場所でもないのだが、流石にウイークデイのこの時間は誰もいない。

釣り座に立つと波は1~1.5メートル、適当に荒れて頭上の月が煌々と海面を照らしていた。
軽い追い風、釣りとしては悪くない状況だ。

しかし、この時間帯はあまり釣れたことがない。
勝負は朝まづめ、それまでの2時間、月でも眺めながらのんびりやろう。
そう考えていた。

エギもなんとなく選んだ古いタイプのエギ王Q(私はこの古いタイプが好きなのだ)オレンジ赤テープ3.5号を付けてキャストした。

ところが、である。

一投目からヒットした。
まあまあの17センチ。



ふむ、調子いいではないか。

で、二投目、
同じ方向。
カウント30、水深8~10メートル、着底を確認して大きく二段しゃくり、続けてパンパンパンと軽いダート、暫くフォールさせ再び軽いパンパンパン。時折二段しゃくりを入れる。その繰り返し。

と、またヒット。



同じサイズ。
あんらら、この時間に珍しい。

三投目・・・・
またヒット。



四投目、
またまたヒット。



最初は運良くと思っていたが、
どうもそうではないらしい。

五投目、六投目、七投目みんなヒットである。


こいつは今期初の20センチ。





遠くでバラしてもそのまま続けると途中でまたヒットした。



まさしくワンキャストワンヒットである。

一体どれほどのイカがいるのだろう。
目の前の海のいたるところにイカたちがいるのだろうか。

で、浅いところを狙ってみるとやはり掛からない。
中層も駄目である。

ともあれ、底を取り、そのレンジで引いて来ると確実にヒットするし
そのパターンを守っていればヒットが続くのである。


強い引き。20センチオーバー。



方向もおおよそ正面。大きくズレない限りヒットしてきた。

ときおり空振りはあるものの、80パーセントは乗って来た。

一体どれほど入れ食いが続くのだろう?
普通30分続けばいい方だろう。

しかし、続くのであった。

エギも最初のやつだけ。
アタリが止まれば替えるつもりだが、その必要はなかった。

時計を見ると5時であった。
すでに1時間半、入れ食いは続いていた。

勿論こんな経験は初めてである。
なんだかな、嬉しいというより、不思議だった。
なんでこんなにヒットするのか?

月のせいもあるのだろう。偶然、イカの群れがやって来たのか?
何故釣れないのか?というのはいつも考えることだが
何故こんなに釣れるのか?というのはあまり考えたことがない。
少々、頭が混乱する。

しかし、ワンキャストワンヒットは続くのであった。

気が付くと、周囲が明るくなっていた。
背後の東の山あたりから日が昇りかけていた。

でもまだ続いた。






しかし、6時、朝日が顔を出してから、すこし勢いが鈍って来た。
80パーセントが50パーセントに。
50パーセントが30パーセントに。
朝まづめの逆である。

すでに、クーラーボックスは満杯状態になっていた。

6時半になって突然風向きが変わった。
追い風から右前方からの向かい風に。それも強い。風速5メートルか。

前方の釣れていたポイントにエギを運ぶことが出来なくなって来た。
すると途端に釣れなくなった。
波も1.5~2メートルと強くなり、時折波しぶきが背中に掛かった。

もう十分、帰ろうか、とも思うが
しかしだ、釣れなくなったから帰るというのはどうもシャクに障る。
この状況でなんとか釣ってみせよう。それが釣り師ではないか。

風上に向かってフルキャストしてもエギは飛んでくれないし、近場にいいサイズのイカはいない。
ならばと左方向にキャストすると、少しは飛んでくれるがラインは大きく膨らんでエギが沈まない。浅いところにもイカはいないようだった。
仕方ないのでさらに左手を狙ってみる。少しは距離が出るので、ラインを水面に付け、なんとか長い時間待って深場に沈めてやると時折ヒットした。
しかし、ヒットするのは左手の磯際であってなかなかいいサイズが出ない。
要するに、一番イカが溜まっている前面の遠めの深場に届かないのだ。

やはり無理か、と諦めかけた時、
前回ここで一緒になったK名人が糸錘を巻いて投げていたのを思い出した。

バックの中を捜すと、あった!糸錘。
糸錘は常に持ち歩いていたが、これまで使ったことがなかった。
なんだかバランスが悪くなりそうで、いつも考えの外であった。

しかし、この際、やってみよう。
実験である。

エギ王Qは糸錘を巻くのに都合がいい。
やはり古いタイプのピンクに糸錘をぐるぐる巻きにした。
4重に巻いたので2~3グラム重くなったろう。

正面にフルキャストした。
案外飛ぶではないか。たった2~3グラム重くなったくらいで。
ラインは膨らむが、それでも沈んでくれるようだ。
カウント40~50、それでシャクリを入れる。

と、


(糸錘4重巻き)

その後も入れ食いではないが、いいところに沈ませることが出来れば釣れないことはない。






おお!!糸錘の威力よ!
と糸錘の偉さを思い知ったところで釣りを終えることにした。

まだ、やれば釣れるが、もうクーラーボックスに一杯たりとも入らない。

8時半だった。

バッグとクーラーを背負い、崖を登るのに一苦労、息は切れ、汗びっしょりかいちまった。

帰って数えてみると40杯。10杯はリリースしたから50杯は釣り上げたのだ。
これまで40杯というのは何度かあるが、こんな短時間では経験がない。
お陰で村の近所と遠方の友人にクール宅急便でおすそ分け出来たのだった。


しかしなあ、

なんという猛烈な、シアワセな朝だったか。


メモリアルな釣りであった。







嗚呼!!イカ釣りの楽しさよ。

2012-09-23 | アオリイカ
久しぶりの更新である。

6月から9月後半まで展覧会が続いた。
兵庫伊丹、京都、愛知、富山高岡と旅から旅で、まるで寅さんのようであった。

というわけで3ヶ月間、竿を握ることはなかった。

さて、旅は一段落、9月の終わりとなればアオリイカである。

エギ竿やリール、エギを引っぱりだし整備していると、暫く眠り込んでいた釣りへの想いがじんわりと蘇って来る。
昨年逃がした大物の記憶が脳裏に鮮明に浮かんで来る。
イカの手応え、生命反応、それらのリアルな感覚が蘇って来る。

朝、昨年出会ったポイントに出かけた。
先客が一人いた。
ここは既に知られたポイントなので入れないかもと覚悟していた割にはラッキーだったか。
それも先客の一人というのは知っている輪島の釣り師であった。
隣でやってもいいかと聞くと、にっこり笑って頷いてくれた。

彼の邪魔をしない位置に立ち正面の海にキャストする。
軽い追い風に乗って3号のエギは飛び、遠くに着水する。
波は1メートル弱、少し弱いが凪ぎよりましである。

水深8メートル、カウントすることなく適当に待ち、適当に二段シャクリ。
その後、暫く待ってパンパンパンとジグザグダート。
一年ぶりのイカ釣りである。なんだかシャクリもしっくりとこない。

昨年はどんな感じでしゃくっていたか、思い出そうとするのだが、なかなか微妙な感覚は思い出せない。
しかし、それでいいのだ。
今年は今年の釣りなのだし、このよく分からない感じが新鮮で楽しい。

私の仕事は版画や焼き物を作ることだが、この仕事を25年も続けていて思うのは、初々しさの大切さである。
仕事に慣れないこと。いや、仕事だけでなく世間や世界に慣れないこと。すれっからしの大人にならないこと。
世間や世界に慣れ切ってしまうこと、それは堕落である。
失敗したり、恥ずかしかったり、どぎまぎしたり、そのままでいい。
何に対しても初々しくあリたいと思っている。

釣りも同じである。
釣りに慣れてしまったら堕落である。
それはいくら釣ったところで意味がない。

釣りは世界との新鮮な出会いなのだ。


とまれ、イカ釣りに戻る。

一投目からあの鈍い重さが乗った。
ゆっくりと引いて来る。
大きくはないが、ジェット噴射のグングンと引っぱる生体反応が伝わって来る。
もう何度も何度も経験した手応えだが、こいつがたまらない。



一年ぶりのアオリクンである。
まだ15センチに満たない小さいやつだが、その美しさは何度見ても息をのむほどだ。

それからもコンスタントにヒットする。
サイズは15センチ前後。最大で18センチ。
このくらいのサイズが一番数釣りできるサイズだろうな。
20センチを狙うが、超えない。









隣のK氏も次々とヒットさせているようだった。
流石、名人と言われるだけあって見事な竿さばきである。


天気はよく、秋の高く青い空、水平線の上に群れて浮かぶ雲が綺麗だった。



嗚呼!!イカ釣りの楽しさよ。

メバルもスズキも夜の釣りである。
日中でも釣れるというのがアオリイカ釣りのいいところ。







時折、こんなやつも。








昼過ぎに帰ろうと思っていたが、
天気はいいし、K名人となんたらかんたら喋りながらやるのもさらに楽しく
帰るのも惜しく、どんどん時間は経ってゆくのだった。

気が付けば40杯は釣っただろう、クーラーボックスの重さといったら、
それを担いで断崖を登り帰らねばならぬのかと途方に暮れるくらいだった。

ともあれ、今年の初アオリ、思う存分の楽しい釣りとなった。





輪島エギングバトル・ダービー顛末記

2011-11-01 | アオリイカ
さて、その後ダービー後半戦の顛末である。

仕事も煮詰まっていたが、ダービーの決着のこともある。
ガキじゃあるまいし、釣りなど置いて、仕事に専念しなければ、と思わぬではなかったが
しかし、バカたれと言われようが、アホといわれようが、ガキといわれようが、ダービー後半戦を迎え、ここで釣りを置くことは出来なかった。
もうとことんやってみるしかなかった。

と、まず訳の分からない言い訳をしておく。

でだ、昼はうんうんと仕事に向かい、釣りは夜出かける事にした。


10月13日の釣りで26センチ850gと22センチ550gが出てエギングダービーの暫定トップに立った。
3匹の合計は1806g。そんなものすぐに抜かれるだろうとは思ったが、
今シーズンは全体的にイカのサイズが小さいらしくそれくらいの重量でも2位に随分の水を開けていた。

その後は海も大荒れとなり、仕事のこともあって暫く釣りに出かけなった。

18日夜。少し収まったというので出かけて見た。
収まったといっても2メートルの波。そのせいかアタリ一つなかった。

19日夜、さらに波が収まったようだったので行ってみたが、前夜と同じくサッパリアタリがない。海にイカの存在感がなかった。
イカ釣りで坊主というのは滅多にない事だが、それが2日連ちゃん続くなんて!!・・・・・

この二晩は釣り場で輪島のイカ釣り猛者エギンガーさんと偶然出会ったが、彼も全くアタリがないというから先日来の大荒れでイカが大挙してどこかへ行っちまったのか?と本気で思ったほどだった。

この時、エギンガーさんからキロアップを上げた若者がいるとの話を聞いた。
でも、3匹の合計でかろうじて私がトップを維持しているらしかった。
キロアップを持っているのは強い。抜かれるのは時間の問題であろうが、
どちらにしても後一匹25センチクラスを出さなければ話にならないように思えた。

帰り道、道路の真ん中に何か違和感のある存在。
車を停めてバックし、車を降りて見てみると
なんと、毛ガニだった。それもでっかい。
近づくとハサミを精一杯広げて威嚇するのだが
その様はなんだかフレーフレーと私を励ましてくれているようで笑っちまった。




ともかく、海が収まるのを待つしかなかった。

22日、海はやっと凪ぎに近い状態になった。
このところ目指すポイントはどうやらメジャーポイントらしく、いつも先客が入っている。
日が暮れるまでまだ時間があったが、この日も先客が二人いた。
一番の釣り座は塞がっているので、隣の岩に乗りキャストを始めた。

さて、イカはいなくなったのかどうか?
それが気になったが数投目に18センチが乗った。
久しぶりのイカの手応えだった。
どうやら、イカたちはどこかへ行ったわけではないようだ。
とすれば、荒れが原因だったか。何となくホッとする。



その後も20センチサイズがぼちぼちと出て、そのうち22センチも出た。



こいつは計量済みの20.5㎝と入れ替えることができるサイズだが、
狙らうのはあくまでも25センチクラス。

しかし、その後、同じ調子でぼつぼつ来るものの、それを越えるようなサイズはついに出なかった。


明くる朝、塩谷で計量してもらうと1936gと少しアップし、まだかろうじて暫定トップを維持していたが、話に聞いていたキロアップを上げた若者がすぐ後ろに迫って来ていた。



なんでも、計量してくれた若旦那が言うにはこの時点で500g以上は4匹しか出ていないのだとか。
4匹というのは若者のキロアップと私の3匹である。

ふむ、そんな状況なのか、と多少驚いたが、
私としてはとにかく25センチクラスを後一匹釣りたいという思いだけがあった。



それから一週間後の28日。
最後の勝負を賭けるつもりで出かけた。

夕方早めに出かけたのだが、その日も3人の先客があり、主な釣り座は既に塞がっていた。

仕方ないので、彼等と離れた岩を見つけそこでキャストを始める。
あまり釣れないのだろう、普段、誰も乗らない岩である。

だが数投後、乗った。18センチ。
まんざら釣れない事もないらしい。



暫くして、先客の一人が帰り支度を始めたのでさっそくその釣り座に移動する。
どう考えてもそちらの釣り座の方が有利なのだ。
先客は上品な初老のおじさんで、午後になって来たが暗くなる前に帰るのだという。
手には数杯イカの入ったナイロン袋を下げていた。穏やかな笑顔のおじさんだった。

そこで一時間やっただろうか、辺りがすっかり暗くなってから残りの二人も帰り支度を始めたので再度、その釣り座に移動する。
潮の流れからしてやはりその釣り座がこのポイントのナンバーワンなのだ。

二人のうちの一人が私を見るなり
「ゴロスケさんでしょう。」と言う。
あらら、久しぶり。輪島の名人として知られる名物釣り師のおじさんだった。
暫く、岩の上で釣り談義が盛り上がった。ホントに釣りが好きなおじさんである。
昼過ぎからやっているがあまり釣れない、デカイのはさっぱりだ、とにこやかに笑うのであるが見せてくれたクーラーボックスには相当数のイカが入っていた。
流石である。

さて、誰もいなくなった海、そこからが本番だった。
海は凪ぎ、追い風である。状況は上々であった。

釣り始めからぼつぼつと20センチクラスが出ていい感じ。



そのうち、一際重いやつがヒット。
心は弾んだが、測ってみると手応えの割には小さく22センチ。



その後も掛かりはするものの、赤イカだったり、20センチ弱が続き、次第にアタリが遠のいていった。




結局、また22センチ。なかなかそれを越えてくれない。

帰ってから私の秤で22センチを測ってみると550gだったので、前回の22センチより僅か12g重かった。
僅か12gと思ったが、されど12gである。
たった12gのためにわざわざ20キロ走って輪島まで計量に行くか?
行くんである。
その後のダービーの経過なども知りたかった。

翌朝、塩谷釣具へ出向き計量してもらうと前夜の22センチは552gで14gアップの1950gとなったが、予想通り、暫定2位になっていた。
暫定トップは勿論キロアップを持っているお兄さんである。
(この時の順位表の写真を是非アップしたかったがデジカメを忘れてしまった。)

トップとの差はおよそ90g。
逆転するには650gを一匹釣ればいいわけである。
650gといえば恐らく23~4センチだろうな。

残す日にちはその日も入れて後3日だった。
昨夜が勝負を賭けた最後の日のつもりだったが
ここはすんなり引き下がるわけにはいかない。



その日29日の夕方、一発逆転を狙った。

日曜なので、先客がいる事は覚悟していたが、予想外に二人だけだった。
ナンバーワンの岩に二人乗っているが、隣のナンバーツーの岩は空いていた。
その岩に向かって崖づたいに降りていると、先客の二人が竿を収め帰り始めたではないか。
その彼等とすれ違う。

「釣れましたか?」と訊いてみると、
「昼過ぎからやってましたが、駄目ですね。」と笑う。
物腰の柔らかい中年の二人だったが、彼等がやっていたのはイカ釣りではなくクロダイだった。
「イカなら釣れるかも分かりませんね。頑張ってください。」と去って行った。

幸運だった。
少なくとも半日はそのポイントで誰もイカ釣りをやっていないのだ。

釣り座に立った。
土曜日の夕方、波は1メートル弱、追い風、という状況でこのポイントに誰もいないというのは奇跡に近い出来事に思えた。

確かにこのところ数は出なくなった。成長したイカは警戒心が強く、簡単には掛かってくれない。気分のいい日中の釣りは難しくなっている。
しかし、だからこそ釣りとしては面白い。
根掛かり覚悟で底を取り、微妙なアタリを感知しやり取りする。
数は出ないが掛かればデカく、その引きと手応えこそがイカ釣りなんである。



まさに陽は水平線に落ちんとし、波はザワザワと囁き合い、潮もゆっくりと動いていた。
なんだか胸騒ぎがするではないか。
こんな時はチャンスなんである。
一発逆転には23センチ、650g以上の大物だが、
目の前の海にそやつの存在をリアルに想像出来た。

先ずは正面にフルキャストする。
エギが沈むのを待つ。潮が動いているせいか3.5号エギはカウント55~60で着底する。
まずは大きく鋭く二段しゃくり、続けてパンパンパンと小さくダートさせ、またフォール、着底を確認し、イカの存在を探り、イカがいないようならまたしゃくる。

根掛かり覚悟の底べたの釣りである。
私の場合、夜、底ベタを狙う場合、エギの動きは少ない方がいいと考えている。フォール中に抱かせるというより、底でちょこちょこ小さく動かしイカを誘うのである。だからなるべくダート幅の少ないエギを使う。

エギを底で小さく動かしながらイカの存在を探る。
もわっと重くなったり、そうっと引っぱったり、反対にテンションが抜けたりするとアタリである。
しかし、これは藻の上に乗ったエギが藻の揺らぎに引っぱられることもあるわけで、アタリと思って合わせると、ロッドに乗った重さがイカであるか根掛かりであるか、当るも八卦、当らぬも八卦という、きわどい釣りなのである。
イカが触っているのが分かることもあるが、イカか藻かの微妙な感覚の違いは今のところ私には明確には分からない。

私はPE0.8号にフロロカーボン3号のリーダーをつけているが、根掛かっても、藻の触り始めに回収すればまずは藻を切って回収出来る。
しかし、5~6時間やるのであればエギの一つや二つはロストする覚悟はしておかねばならない。

勿論、このやり方は底に藻がびっしり繁茂している状況では難しい。
そんな時は、藻の少し上で勝負するしかない。
やはりエギのロストは少ないに限る。


とまれ、2~3投目、乗った。
藻の塊が底から剥がれ上がって来るという重さだった。
でも藻ではない。躍動する生体反応が伝わって来る。
重かったが玉網を使うまでもないサイズ、
上げてみると22センチ、500gはあるだろう。



最初からこのサイズである。
自ずと期待に胸は膨らんだ。


で、その直後だった。

遠くからエギを寄せて来て真ん中あたりの底、
ここがこのポイントのホットスポットのように思われるその地点、
着底後、ちょっと間を置いてクンと軽く合わせてみると、
クンと重さが乗った。
ロッドをゆっくり煽って引き寄せると、もわーっと重さが着いて来る。
こいつも藻ではなかった。

そして、いきなりロケット噴射の嵐である。
強烈だった。
堅く締めているドラグが噴射の度にジーッ、ジーッ!!と出る。
激しくロッドがお辞儀を繰り返し、リールを巻くどころではなかった。
勿論、こんな引きは今季初めてのこと。

強烈な引きをロッドでいなし、余裕ができるとリールを巻いて少しづつ寄せて来る。

やがて海面に浮き上がったそやつはデカかった!!
淡黄色の巨体が波間をゆらゆらと近づいて来る。
そして、勢いよく暗い空中に水を噴射する。太く高く上がる水柱。

そやつが今季最大の26センチ850gを越えているのは一目瞭然だった。
これなら逆転できる!!
よし!!


近くまで寄せて用意しておいた玉網を入れたが
イカが重過ぎてロッドを持つ右手だけで寄せきれない。

一旦玉網を置いて、リールを巻き両手で更に足元まで寄せ
再び玉網を入れる。

なんとかイカの全身が玉網に入った!!
して、玉網を抜き上げようとしたその時、
波が押し寄せ、玉網にかぶった。

と、その拍子に、あら!!!
入った筈のイカが玉網の外へ。
エギは玉網に絡んだまま。

イカは黄色い巨体を翻し、悠々とあざ笑うように海面を遠ざかって行くではないか。

腰が抜けちまった・・・・

ほんと。

頭真っ白け。


この喪失感は
もう少しでものに出来そうな彼女に土壇場で逃げられたのに似ている。

イカが遠ざかって行くと同時に「優勝」も遠ざかって行ったのだ。


その後、12時まで粘ってみたが、気もそぞろ、
それでもと、気を入れ直しやってみるが
二度と再びデカイのは出なかった。




千載一遇のチャンスは逃すと二度と来ないのだ。

逃がした獲物はデカイというが、
あのあざ笑うように遠ざかる淡黄色の魚体は生涯忘れることができぬほど鮮烈な映像となって我が脳裏に焼き付いたのだ。

ダービー締め切りまであと2日あるが、

私の勝負はこれで終わったのだと思った。




だがしかし、明くる日30日の夕方、
雨が降っていたが、やはり出かけたのである。

ここまでくれば、結果はどうあろうと、最後までやるんである。
雨が降ろうと槍が降ろうと
ここで諦めたら男が廃るんである。


最終日の明日31日は風雨がさらに強くなり海が荒れるらしく、その夜がホントの最終日となった。


ポイントは同じ磯。
この日は雨が降っていたせいだろう、先客はいなかった。

空は雨雲に覆われ、昨日まで煌煌と輝いていた星々に代わって水平線には点々と漁船のライトが灯り、微かに凪いだ海面を照らし出していた。
戦いの終わりにふさわしい静かな海だった。

凪ぎは釣れにくいものだが、それでも底を拾うようにぼつぼつと掛かった。

何杯目かにひとつ重いやつが乗り、ひょっとしたらと期待するが
またしても22センチだった。(家に帰って測ってみると500g。)



そのうちイカ釣り師エギンガーさんが釣り友山口さんとやって来て3人での釣りとなった。
彼等もその夜に最後の勝負を賭けていた。

釣り友と一緒になんやかんやと言いながら釣りをするのも楽しいものである。
エギンガーさんのような熟達だと何気ない会話の中に学ぶべきものが多くある。

エギンガーさんが何杯か釣り上げ、山口さんも500gサイズを釣り上げた。
私は何故かアカイカばかりが掛かった。



10時頃になると、アタリは途絶え釣れる気配がなくなった。
粘りが信条の私だが、それ以上粘る気はなかった。

もう十分だった。

エギングバトルの最終結果は分からないが
ともあれ逆転優勝はならなかった。

しかし、目一杯、心の底から楽しかった。

エギンガーさんたちも今年は駄目だったようだが
それなりに面白かったといい顔で笑ってみせた。



海で力の限り遊んだ男たちの顔は輝いているんであった。


今回のイカ釣りで少なからず釣り師たちに出会ったが、
彼等の多くは若者ではなく、おじさんたちであった。
おじさんたちが子供のように夢中になって海と遊んでいる。
その姿は共感出来るものがあり嬉しいものであった。


これで私のイカシーズンは終わった。
最後に元気なイカの写真を一枚。
釣り上げた直後、水を吹き上げる瞬間である。
釣って楽しく、食ってうまかったイカたちに
心からの感謝を込めて。




お月さんとイカ釣りダービー

2011-10-15 | アオリイカ
昨年、輪島エギングダービーにエントリーし、中盤までは盛り上がったが展覧会で尻切れとんぼに終わっちまった。

今年も一応エントリーしたが、まだ一度も計量に行っていなかった。
計量の意味あるサイズが釣れていないのだ。

ダービーの締め切りは今月一杯、そろそろ計量しとかないとなあ、という思いがあった。

加えて、その日13日はまだかろうじて満月だった。予報は晴れ、風も悪くなった。
私はまんまるお月さんと釣りをするのが基本的に好きである。
翌日の午後からは天気は崩れ夜には雨になるという。

となれば、いざ!!出陣なのである。
満月のイカ釣りはなにがなんでも行かずばならぬ。のである。

夕刻、先ずは昨年のダービー、徹夜で頑張り27センチを上げたポイントに行ってみるが、既に先客が3人もいた。
その一人は毎年上位に居座るエギンガーさんであり、後の二人もダービーに参加している人に違いなかった。

諦めた。

移動する。
一度も行ったことがないが、以前から気になっている磯へ。
緩いカーブを描く湾の磯、岬のちょっと突き出た岩へ向かったが、生憎ここも先客が一人いた。
挨拶をし、邪魔にならぬよう隣の岩に乗った。
「釣れますか?」と訊いてみると
「一匹釣れたけど、その後一時間釣れません。」と大らかな笑顔で応えてくれる。
正直な人である。

いつも通り3.5号エギを正面の海にフルキャストする。
右後方からの追い風に乗ってよく飛ぶ。
潮が良く動くところらしく右前方に沖に向かって軽く潮目が出来ていた。

凪ぎに近い波、追い風で底に達するまでのカウントは45。
水深は10メートル強。
悪くない。

空は快晴、少し欠けた満月が右の山の端から顔を出し、磯を煌煌と照らしライトが要らないくらいだった。
イメージ通りの満月の釣りであり心は弾んだ。




釣れないというがタイミングが悪いだけだろう。

案の定、2投目足元の底で乗って来た。
足元だから小さいやつかと思いきや、そうではなかった。
胴長22センチ。今季最大である。



いや驚いた。
遠くから追っかけて来たやつに違いない。

その後もぼつり、ぼつりと掛かった。
数は出ないがサイズが揃っていた。
みんな20センチに少し足りないサイズ。
今年は全体的に小さく、20センチ弱は他のところではその日の最大サイズなのだ。




そのうち、先客はライントラブルでどうにもならない、頑張ってくれと言い残し帰っていった。
ならば、と彼の釣り座に移動する。
やはりそこがこのポイントでの一番の釣り座だった。どの方向へもキャスト出来るし、高さ、足場の安定感は理想的だった。

いつの間にか水平線にはイカ釣り舟の灯りが点々と並んでいた。
目の前の海を見ていると、なんだかデカイのが来そうな予感があった。

そして、数投後、予感は的中した。

中程の距離、底だった。
ラインのテンションが微妙に重くなり、少し待ってみると案の定そうっと引っぱるではないか。
少しラインを送ってやり、間を置いてクンと合わせるとカンナがしっかりとイカに食い込み、ロッドに重さが乗った。
いやその重さったらなかった。ロッドが激しくお辞儀を繰り返し、リールが自由に巻けなかった。

でかいぞ!!
バレないように慎重に事を進める。イカの強烈なジェット噴射をロッドでいなしながらゆっくりと寄せて来る。
水面に浮上したそやつは何度も水を噴射した。
いやあ、いい光景。

足元まで引き寄せ抜き上げにかかるが、ちょっと心配になった。
しかし、玉網を持って来ていない。
小さめのスズキを抜き上げる要領だ。
ロッドのしなりを利用して一気に抜き上げ、ロッドに全重量が掛かる前に磯の上に引き上げた。
なんとかうまくいった。




25センチを越える堂々としたアオリイカだった。
20センチクラスとは次元の違う大きさである。

いや、一人でコーフンしちまったぜ。
ここに来て正解だったとつくづく思った。

これで22センチと25センチになった。
ダービーは三匹の合計である。
後一匹20センチオーバーが欲しかった。

時間はまだ、たっぷりとあった。


しかし、その一匹が来なかった。

ぼつり、ぼつりとは来るものの20センチを越えない。

時折、アカイカ(マイカ)も来た。





つーさんのイカプラスの記事に刺激されて、時折潮目あたりの表層も狙ってみるが掛からない。
そういえば表層で掛かるのは荒れている時だったような記憶がある。

12時までには余裕を持って帰れると思っていたがそうはいかなかった。

粘るうちに12時は過ぎ、過ぎるとアタリは全く途絶えてしまった。

帰ろうかと思った。
3匹目は18センチでもいいではないか、そのうちデカイのが釣れたら交換すればいいのだから。
だが、一度帰って、計量のために再び輪島に出て来るのは面倒に思えた。
我が家は輪島市街地から20キロ離れた山の中なんである。
このままのんびり朝までやって、早一番、塩谷釣具で計量してもらおう、そう思った。

そのうち眠くなって来た。
だらだらとキャストとシャクリを繰り返していても釣れる訳がない。

岩の上で寝ることにした。
風が当たらないようくぼみを探し身体を横たえる。
フードを被れば思いのほか寒くはなかった。

少しかけた満月がそんな私を見て笑っている。
月に寄り添うように金星が輝き、西の低いところにはオリオン座が傾いていた。


一時間も眠っただろうか、目が覚めるとスッキリとして再び釣り座に立った。
海は完全に凪ぎ、風も緩くなっていた。
気分新たにキャスト再開。

一投目にヒットしたが手応えが可笑しかった。
生体反応がなく藻の塊を引いているようだったが
足元まで来て突然激しく慌てるようにジェット噴射を始めたのである。
ははんと思った。
こいつ、足元まで来て初めて釣られたことに気がついたんだ。

で、このへんなやつ、20センチを僅かに越えていた。



しかし、へんなやつはこいつだけではなかった。
その後、小さいのが数匹釣れたが
みんなそのようなぼんやりとした活気のない反応であった。

要するに、イカたちは眠っていたのだ。
これじゃあ釣れる訳がない。

ここは12時を過ぎるとイカたちの就寝時間なのだ。
そう思うと俄然やる気がなくなりもう一度岩の上で寝てしまった。

目が覚めると朝だった。
朝まづめに期待してみたが、イカたちはまだ寝ているようで早々に切り上げ塩谷釣具へ。

計量の結果、26センチは850g。あと22センチと20センチ、三匹の合計は1806gとなり
いきなり暫定トップに躍り出たのであった。
うっひゃ~~、トップ。

自慢ではないが、私はこれまでの人生で優勝とかトップとかの経験が皆無である。
学校の成績でも運動会でも何かのコンテストでも大したことはなかった。(体育実技と美術だけはまあまあだったが。)
暫定であっても、トップという言葉の響きは新鮮で嬉しい。

しかし、すぐに抜かれるだろうな。

25センチクラスがあと一匹釣れれば上位入賞、2匹だと本当に優勝するかも。

ダービーの締め切りは後2週間。
輪島の熱き釣り師たちのように毎朝、毎晩とはいかない。
しかしだ、ここは静かに狙ってみるか。

人生初の「優勝」を。





計測の三杯。