永遠に、幸せになりたい。    by gorosuke

真夜中、いいおっさんが独り海に向かって延々と竿を振る。
アホだな。でもこのアホ、幸せなんだよなあ。

風の中で。                            3月21日

2011-03-23 | メバル
3月に入ってのこの満月を待っていた。


二匹目のドジョウを狙って、前回と同じ本命ポイントへ。

風が強かった。
予報では弱い向かい風だったが、行ってみればまともにキャスト出来ないくらい強かった。
波も予報とは違い荒れていた。時折、ぶつかって来た波が5メートルをかけ上がり足元を濡らす。


前回は半月を過ぎた頃だったが、明るかった。
今回は満月だったが厚い雲に覆われ暗かった。

今回は単体ジグヘッドで底を狙ってやろう、イカ釣りのようなやり方で、とイメージしていたのだが足場の高い釣り座である、強い向かい風はそれをきっぱりと拒否した。

かろうじて前へ投げることができるのは、
例のフットボール飛ばしウキ(13グラム)か重いシンカーをつけたスプリットショットか、
或は7グラムクラスのプラグか、
選択肢はそのくらいだった。

しかし、どのやり方も駄目だった。
アタリひとつありゃしない。

時計を見ると9時。2時間が経ったわけだ。
気温は2度と我慢出来ないほどではないが、2時間強い向かい風に晒されると流石に寒さがじんわり身にしみる。
時々、ポットに入れて来た熱いコーヒーを流し込むが、それでも身体の芯から冷えて来るのをどうしようもない。

始めからの負け試合、
最後にお気に入りのプラグを思い切り投げてみて、それで退散しようと思った。

風に向かって思い切りロッドを振り抜いた。
プラグは低い弾道で風の下をくぐり抜け、思いのほか遠くへ飛んだようだった。
ゆっくり引いて来る。
どのくらいリールを巻いたか、突然ショックがロッドに伝わる。初めてのアタリ。
反射的に合わせるとしっかりと乗った。
もうグングン巻く。
薄暗い海面に白い波が立った。案外遠いところ。
そこから海面を滑って来るのが白い筋となって見える。
足元まで寄ったのを確かめ、えいやっ!!と抜き上げる。
案外重かった。

27.5センチ、グッドサイズ。




小生の場合、最後の一投で掛かることがよくある。
といっても
ほんとはラストの一投のつもりが、それで掛からないと
潔くないと言うか、諦めが悪いと言うか、
ラストのラスト、ということになり、さらに掛からないと
ラストのラストのラストだあ、なんてことになり
結局、5投くらいしたりするのでラストの一投ではないのかも知れんな。うっはっは。

ともあれ、こうなると帰れない。

「時合い」かもしれんと、期待して粘ってみる。
しかし、違った。当たらない。

一時間が経った。

再度飛ばしウキをセットし、自家製の重めのジグヘッド1グラムに何処のメーカーだったか大きめのぶよぶよしたワームを差した。
風に向かいフルキャスト、着水と同時にリールを巻きはじめる。表層だ。
すると、コンと小さく当たってきた。待ちに待ったその夜二度目のアタリであった。
暫し手を止め待つ・・・・と
ココンと再び当たってくるそのタイミングで合わせる。
しっかり乗った。ゴリ巻く。
抜き上げる。ロッドが深く折れ曲がった。
でかい!!尺か!



と思ったが、
測ってみると28センチだった。





三時間やってたった二度のアタリ。
二度ともちゃんとフッキングしてくれ、二匹ともいい型である。こんなことも珍しい。
アタリは極めて少ないが、当たれば大物の可能性がある。
そんな日なのかも知れない。

で、また帰れない。

さらに一時間後(11時)風が少し弱くなってきた。
そうなると俄然キャストしやすくなってくる。
遠くだったポイントが近く感じる。

その途端ガツンときた。



26センチ。


次のキャストもゴン。



26センチ。


その次も、



25センチ。

こうなると身体は熱くなって来て、寒さを感じない。
ふと空を見上げると、いくらか雲も薄くなってまん丸お月さんがボンヤリと顔を出していた。

そして
27センチ。



24センチ。







と、ヒットは続いた。

ついに、時合いが来たのだったが、
サイズが上がらない。
徐々に下がって行く。

一時間後、風は再び強くなり、
それとともに時合いは終わっちまった。

いや時合いではないのかも知れぬ。
魚はいるのかもしれない。少し遠いところに。
ただ、向かい風でそこに届かないだけなのかも。
風が弱くなったときだけ届いたのかも知れない。

そう思っても風はますます強くなり、二度とルアーは遠くに飛んでくれなかった。


全く駄目だったが、突然釣れ始めるということはメバルにはよくある。
今回はその典型だろう。


春にしてはすこぶる寒かったし、前回に続いての尺とはいかなかったが
楽しかったな。




こんな時だからこそ。3匹目の尺

2011-03-18 | メバル
さて3月、デカメバルの本格的なシーズンである。

2月後半から掛かっていた絵本のラフスケッチも10日には一応終わり、さて海に出かけてみるかと思っていた矢先この大事件である。
未曾有の大災害、それに原発事故がおいかぶさる、呆然として声も出ない。


おれとして今のところ出来ることと言えば節電、節油くらいか。


数日気分が重かったが雪が止み温かくなった日
海へ向かった。
こんな時に、と思うが、
いや、こんな時だからこそ、なのだ。

尺メバルを狙おう。

行き先は能登半島先端に近い本命ポイント
まっしぐらそこへ向かった。

現場に着いたのは夜の9時半。
いい天気だった。

まだ時折雪が降るが
海は確実に春の顔になっていた。
満月に向かう月が中空ぽっかり浮かび
穏やかな海面を照らし出している。

ふと蕪村の句を思い出す。
「春の海 ひねもす のたりのたりかな」
ふむ、そのとおり、のたりのたりである。

そして、10メートルの津波を想像してみる。
そいつが水平線彼方からこちらに向かって押し寄せて来る。
おれならどう逃げるか、いや逃げられないだろう。

数年前の夏、サザエを採っていて、高波に呑まれたことがある。
波に呑み込まれるあの感じ、思い出す。
苦しかった。
海中揉まれながら、ああ、死んでしまうのかと思った。
あの時は窒息寸前、運良く海面に飛び出すことができて助かったが、
津波だったら、あのまま死んでしまうのだろうな。


先ずはプラグを正面にキャストした。
そうっと引いて来るが反応なし。
方向を変え数投やってみる
が、やはり返事なし。

気を入れ直し、ワームに替えて、表層を探ってみる。
右前方のテトラから遠く離れたところ、コンと来た。
反射的に合わせると乗った。
25センチ(目尺)まあまあのグッドサイズ。



次のキャストも、



25センチ。

また次も。

だが、途中でバレてしまった。

入れ食いである。

が、そこまで。
その後、パッタリとアタリは途絶えた。


その後二時間、ジグヘッドの重さを変えたり、ワームを変えたり、プラグにしてみたり、プラグも替えてみたり、スプリットショットにして思い切りボトムを狙ったり、レンジ、方向を変え、いろいろ引き出しにあるものをやってみるが、魚信らしきものはなかった。

分からない釣りだった。パターンが全く掴めない。

でも、帰る気にはならなかった。
ここにいて、海を眺めていたかった。
潮騒を聞いていたかった。



月は水平線の上に傾き、
頭上には春の星たちが輝いていた。
柄杓星の柄のゆるやかなカーブを辿って春の大曲線。
一際強く瞬いているのはアルクトゥルスかスピカか。

「私たちは星の燃えかすからできている。星と我々は仲間なのだ。」
と宇宙物理学者カール・セーガンは言った。
星の輝きは美しい。
自然は圧倒的に美しい。
しかし、同時に酷い顔も見せる。
人間に対し、容赦というものがない。

それはそうだ、人間のために自然があるのではないものな。
人間は大いなる自然のほんの一部に過ぎないのだ。
生も死も自然のダイナミックなサイクルの中の一時の相に過ぎないのかもしれぬ。



風が強くなってきた。右からの横風である。
時々春一番のような突風になる。

一番重い飛ばしウキでやってみるが思うところにキャスト出来ない。

流石に帰ろうか、と最後の一投。
思い切り右にキャスト、それが風に流されて正面に落ちる。
引くとどんどん左に流される。
と、コツン、久しぶりのアタリだった。
25センチ。(目尺)釣れんことはない。



こうなると、欲が出る。
もう少し粘ってみようと。

風は回り、追い風になった。右後方からの風。
風はますます強くなり左前方一方向しかキャスト出来ないが釣りはなんとか出来る。
深いところ、浅いところ、ゆっくり引いたり、早く引いたり、引かなかったり、そしてまたプラグでやってみる。

しかし、アタリもコスリもしやしない。


一時間くらい経ったか、
月がオレンジ色になり水平線ちかく落ちて来た。

風に乗せ風に任せ思い切り遠くへ投げた。
そして思い切り表層を引いてみた。
ゆっくり、そうっと、

と、ゴゴ・・・

合わせる。
重さがロッドに乗った。よし!

遠くなので思い切り巻いた。
暗い水面を滑るように魚は近づいて来た。
その日一番の重さだったがせいぜい26~7か・・・
足元まで寄ったところを引き抜いた。

足場が高く、引き抜くと同時に巻き上げなければならない。
いつもの感じで足元まで引き上げたつもりだったが、魚の姿がない。
上がっていなかった。
竿はぐんなり曲がったまま、魚はまだ足場の崖の途中に引っ掛かっていた。

慌てて巻き上げる。そこで初めてこの魚の大きさと重さを知った。
堂々たる魚体と不敵な面構え
間違いなく尺クラスだった。




早速測ってみる。
思った通り30センチを数ミリオーバーしていた。




先日の釣りバッグのロストでメバル用のメジャーもロストし、スズキ用のでかくて重いメジャーしかなかったが、とりあえずそれをジャケットのポケットに入れておいた。
いや、持って来て正解だった。

今年の尺の目標は5匹だが、早くも3匹目である。
それも嬉しいが、なにより本命ポイントで釣れたことが嬉しかった。
3年ぶりだが、全くいなくなったわけではなかった。
このシーズンはいいのかも知れない。

時計を見ると1時だった。

風はますます吹き荒れ、ルアーどころじゃない、気を許すと身体が海に持って行かれちまう。
そこまでだった。


車への帰り道、星たちはますます輝きを増し、夜空に瞬いていた。

同時代を生きて来た人たちが大勢死んだ。
彼らが日々努力して築いて来た暮らしも喜びも夢も希望も、一瞬にして呑み込まれちまった。
土に帰り、星屑に戻っちまった。
おれもどのみち早晩そうなるだろう。
でも、今回はたまたま被災から免れ、健康にも恵まれ、生きている。

復興には長い時間がかかるだろう。
これからどんな手助けが出来るか分からないが

ともあれ、

おれの生命(いのち)をしっかりやろう。


そう思った。